「J1にふさわしくない」 東京V躍進の裏で起こった“苦い経験”…助っ人GKが明かす転機「受け入れがたい」【インタビュー】
東京VのGKマテウスは日本で5季目を迎えた
今シーズンのJ1で最も大きな話題を振りまいているのは、J2優勝で即優勝争いに絡んでいるFC町田ゼルビアで異論はないだろう。だが、16年ぶりにJ1に復帰した東京ヴェルディの健闘も見逃せない。
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そんなクラブでフル出場を続けている外国籍助っ人が、GKマテウスだ。2020年に来日した守護神は度重なるビッグセーブでチームの危機を救うだけではなく、副キャプテンとしてどう戦っていくべきかを示すチームの道標にもなっている。来日5年目を迎えているブラジル人GKが今のチームをどう見ているのかを聞いた。(取材・文=河合拓)
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今年7月に発表された2023年の人件費ランキングで東京Vのポジションは、Jリーグ全体でも29位で7億7800万円。純粋にこの金額だけで見れば、J2で9位というのが彼らの順位となる。もちろんJ1に昇格したことで今シーズンの予算はアップしているであろう。だが、他クラブからの期限付き移籍選手も多く中心選手として活躍していることからも、決して予算面で恵まれているわけではないことは分かる。そんなクラブがシーズン終盤の第33節現在で8位に位置しているのは、極めて驚異的なことである。
マテウスも「いろいろな方がシーズン前に予想をしていた結果と今は、良い意味で程遠い形になっています。でも、みなさんの予想は自然なことだったと思います。16年ぶりのJ1ということ、さらに資金的な面でも、他チームと比べても少し足りない部分があることは、表に出ていたことですからね。そういう予想をされても仕方がないと思います」と言い、「それでもチームとして急速に成長できた結果、こういう順位に留まれていると思います。出ている選手だけでなく、出ていない選手、チームスタッフを含めて、日々のトレーニングの成果が、この結果につながっていると思います」と、胸を張った。
その言葉通りチームは急速に「成長」していると言えるだろう。J2とJ1のレベル差を問うと、マテウスは「最初に感じたのは、クオリティのところです。相手選手の一人ひとりの選手のクオリティだったり、チームとしての力だったりが、やっぱりJ2とは格段とレベルが上がったのは肌で感じました。自分が一球でもミスをしたら致命的になりますし、ボールを相手に失われたらなかなかボールを取り返すのが難しいです。そこはJ2では感じなかったところです」と、言語化した。
そんな舞台での出場機会を求めて集まった若い選手たちは、シーズンを通してしっかりと成長し、同時にチームとしても進歩を遂げている。開幕直後は試合終盤の失点に苦しみ勝ち点を落としたが、徐々に点を取れるチームになっていき、今ではリードを守り切り、リードされても追いつけるチームになりつつある。この成長の流れをマテウスは、こう振り返った。
「シーズン序盤はチームとしてゲームを運ぶなかで、試合終盤に点を決められて追い付かれたり、ひっくり返されたり、そういう試合が多くありました。チームとしても、選手個々としても、少し安心するような『自分たちはできているけれど、ちょっと結果が付いてきていないだけだ』という緩い気持ちがあったと思います。特にシーズン序盤の3試合。開幕戦からの横浜FM戦、浦和戦、C大阪戦の3試合を振り返ると、横浜FM戦は先制点したなかで逆転され、浦和戦とC大阪戦も勝てた試合を最後の最後に引き分けに持っていかれました。その3試合が特に自分としては、チームとして緩みがあったと思います。でも、今はチーム全体としても、個人としても、勝つことへの意欲が高まっていますし、ゲーム運びについても経験を積み重ねて、賢くゲームを締めくくることが最近はできるようになってきたと思います」
「僕たちはJ1にふさわしくない」
大きな転機になった試合として、マテウスは4月13日の第8節FC東京との東京ダービーを挙げた。この試合、東京Vは前半34分までにMF見木友哉のPK、さらにFW染野唯月のスーパーゴールで2点をリードした。さらに前半43分には相手に退場者が出る。10人の相手に2点を守り切れば、宿敵相手に勝ち点3を得られたのだが、後半に2失点を喫してまさかの2-2で試合を終えてしまった。この試合後、マテウスは「1人多いはずなのに、自分たちが1人少ないんじゃないかと思うような戦いぶりだった。そこが本当に恥ずかしい。こんな戦い方をしているようでは、僕たちはJ1にふさわしくない」と厳しい言葉を並べた。
「今季の前半戦のFC東京戦は、いまだにこうして振り返ってもどんな言い訳もできないと思います。結果として絶対に受け入れがたい結果だったと思いますが、あの試合からやっぱりすぐに変わらなければいけませんでしたし、あの試合からチームとしても変われた部分が少しあるのかなと思います」
若い選手が多い東京Vにあって、31歳のマテウスは年齢的にも上の選手になり、チームの精神的支柱となることも求められている。外国籍選手ながらクラブで5シーズン目を迎えたこともあり、昨季から副キャプテンを任されているが、リーダーシップも大いに発揮している。
「チーム全体を見ても、おそらく一番選手としてグラウンド内で厳しく要求をしているつもりです」とマテウスは言い、「先ほども話したシーズン序盤の『チームとして悪くないね』『ゲームはしっかりできているけど勝てないよね』という雰囲気で、『問題はない』と持っていかれがちなところでも『問題はあるよね』と気づかせるためにもグラウンド内での要求を意識してやってきました。全体を引き締めることは、自分を中心にやれたのではないかと思っています」と、自身が果たしている役割について語った。
そしてマテウスはチームメイトたちへの感謝の言葉を続けた。リーダーとして厳しい言葉を並べたとしても、他の選手たちに受け入れる姿勢がなければ、それは空砲に終わる。だが、東京Vのチームメイトたちは彼の言葉をしっかりと、真摯に受け止めてくれたからだ。
「チーム内でしっかり話を聞いてくれて、それを試してくれる。そうしてお互いが高め合える状況にあることは、すごくチームとしてポジティブな特徴だと思います。若い選手だけではなくて試合に出ている選手が、常に学びを求めて、成長を求めて、いろいろな人の意見を聞きながらやっています。だからこそ、こうやってチームとしての成長があると思います。自分自身もここに来て、最初の頃に言っていた戦術的な要求などは、みんながそういう姿勢を持ってくれているおかげで、今ではそこまで言う必要がなくなりました。そういった意味でも、やっぱり全員が聞いて、そこから学ぼうとする姿勢は、すごくポジティブな自分たちの特徴なのかなと感じています」
チームでポテンシャルを一番感じる大型FWの存在
選手個々としても、チームとしても、上を目指し続ける。そんな環境が今の東京Vにはある。発展著しい集団を、最後尾から、そして副キャプテンとして見ているマテウスの目に、特に高いポテンシャルを感じている選手は誰なのか。シーズン中にチームメイトの評価をするような問いであり、答えづらい面もあっただろうが「難しいな」と苦笑いしながらも名前を挙げてくれた。
「個人的に選ぶのは非常に難しいですし、試合によって誰が良かったというのもあると思います。ですが、全体を通して見ればユウダイ(木村勇大)は、チーム内得点王ですし、1試合1試合の成長速度がすごいなというのは感じます。前であれだけ体を張ってほぼ一人だけで最前線で戦ってボールを収めてくれる面では素晴らしい成長をしています。また、ヤマミ(山見大登)選手も調子の良い時の彼は、試合を決定づけるゴールを決めてくれて、勝利に導いてくれる存在です。コウキ(森田晃樹)、コウスケ(齋藤功佑)は、中盤を支配してくれます。カズヤ(宮原和也)や今出場している3バック(谷口栄斗、千田海人、綱島悠斗)も素晴らしい活躍をしていて、それが今の結果につながっていると思います。本当に素晴らしい選手がたくさんいるので、だれかを選ぶのは難しいですね」
今では日本人選手が欧州を中心とした海外リーグでプレーすることは、当たり前のことになった。現在の東京Vにもそれだけのポテンシャルを感じる選手がいるのか。顎に手を当てて少し考えてから、マテウスは慎重に言葉を選んだ。「自分自身、ほかのヨーロッパでプレーした経験がないので選ぶのは難しいですね。もちろんヨーロッパでプレーした経験のある選手たちと仕事をしてきた経験はたくさんあります。ただ日本で5年目を迎える経験から言っても、本当に良い選手がたくさんいることは間違いありません」と、若いチームメイトたちの可能性について言及した。
助っ人GKが語る城福監督のマネジメント力
今季の躍進を語る上でも、日本人最年長の指揮官である城福浩監督の存在も語り落とせないだろう。「城福さんがヴェルディに来てからの仕事ぶりは、結果を見れば特に言葉に出す必要はないのかなと思います」と言うマテウスだが、どこに城福監督のマネジメントのすごさを感じているのか。
「特に感じているのは、試合に出ている選手だけではなく、出られていない選手に対してもしっかり注意深く日頃から見ている感覚があります。そのおかげで試合に出ていない選手を含めて、全員が全力で日々の練習をしっかりしないといけない状況にありますし、監督が求めていることを全員が理解できています。だからこそシーズン初めにスタメンで出ていなかった選手が今はスタメンで出ています。チーム全体として高いレベル、高い強度で日々の練習から全力を注ぐことは、城福監督の特徴の一つかなと思っています」
10月8日現在、東京Vは12勝12分け9敗で8位となっているが、16年ぶりのJ1を戦ったシーズン、そしてマテウス自身にとっても初となるJ1を戦ったシーズンを、どのように締めくくりたいと考えているのか。
「城福さんがいつも言っている通りです。試合ごとにしっかり自分たちが全力で試合に臨むことが大事だと思います。選手、スタッフを含めて、先のことを考えるのではなくて1試合1試合、目の前の試合に向けての準備を1週間しっかりすることが大事です。次の浦和戦に勝って、その次の新潟戦に勝っていく。試合ごとにやるべきことを見ないといけません。それが監督の求めていることでもありますからね」
指揮官の求めることを忠実に実行しながら、チームメイトたちに高いレベルの要求を続けるマテウス。今シーズン、ここまで33試合フル出場を続けているブラジルから来た守護神は、ピッチ内外で今の東京Vに不可欠な存在だ。
[プロフィール]
マテウス/1993年4月10日生まれ、ブラジル出身。ブラジルの名門コリンチャンスの育成組織出身でトップ昇格。出場機会を求め2部のフィゲイレンセFCを経て20年に東京Vへ完全移籍。代表では各年代でも招集され、10代の時にはA代表も経験をした。
(河合 拓 / Taku Kawai)