Jリーグが抱える想像以上に「深刻な難題」 屈指の「輸出市場」で強豪も失速…ACLが握る鍵【コラム】

Jリーグが抱える深刻な問題とは?【写真:高橋 学】
Jリーグが抱える深刻な問題とは?【写真:高橋 学】

2万2850人来場で熱気、数字も志向も欧州トップシーンを思わせた川崎×横浜FM

 8月17日、等々力のナイトマッチで、キックオフ時の気温は30.7度。前節より暑さが和らいだとはいえ、ピッチ上を駆け巡る選手たちのみならず、観る側の環境としても劣悪だった。Jリーグはすでに秋春制への移行を発表しているが、それだけで暑熱対策がすべて解決というわけにはいかない。

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 川崎フロンターレのホームに訪れたのは、同じ神奈川県のライバル横浜F・マリノス。ここ数年間の成績を顧みれば、J1屈指の好カードと言えた。実際両チームともに、一時期に比べればチーム状況は回復の兆しを見せ、ともに400本以上のパスを繋ぎ、その成功率も揃って85%を超えた。そういう意味では、数字も志向も欧州のトップシーンに近かった。

 明暗を分けたのは両ゴール前の精度で、川崎の鬼木達監督はとりわけ後半早い時間帯での連続失点を悔やんだ。PKを与えた先制ゴールはともかく、その2分後に生まれた横浜FMの追加点は西村拓真の鮮烈なミドルシュートだったが、アンデルソン・ロペスのリターンを受けて横に移動する得点者を、あまりにあっさりとフリーにしてしまっていた。

 攻撃を特徴とするチーム同士の攻防で、川崎はむしろゴールに迫るアプローチでは優位に進めていた。横浜FMの14本に対し22本のシュートを試み、前半だけでも5度の決定機を築き、後半早々にも家長昭博が折り返したボールを叩いた山田新のヘッドがクロスバーを直撃した。だがそこからは連続ゴールでリードした横浜FMが巧みなカウンターを仕掛け、ビッグチャンスを重ねていく。

 結果はアウェーの横浜FMが3-1で勝利を飾るのだが、それでも両者ともに9月からJリーグを代表してAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を戦うための質を備えつつあることは示した。

 ただし2017年からの6年間は、必ずどちらかが覇権を握ってきた両チームだけに、第27節を終えて横浜FMが6位、川崎のほうは13位という低迷は重い。

 2万2850人という観客動員は悪くない。スタジアムも熱気に満ちている。だが反面スタジアム内だけが異空間のように、世間の関心度とはかけ離れている。数年来顕著な傾向だが、中間順位以下のチーム主催の監督会見では、先にアウェー側が済むと記者が半減してしまう。要するにメディア側に、優勝戦線に絡まないチームを報道する需要がなく、この夜の川崎も例外ではなかった。

有望タレントが次々に欧州進出をしていく環境の難しさも

 先のパリ五輪で日本は、長い歴史を持つフェンシング、近代五種、馬術から、新種のブレイキン、スケートボード、スポーツクライミングまで多様な競技で華々しい成果を挙げた。大半の競技の選手たちが「これで興味を持つ人が増えてくれれば」「子供たちが同じ夢を抱いてほしい」と、自分の成績が普及への起爆剤になることを願っていた。

 その点でサッカーは、他競技が羨む環境が整っている。J1のスタジアムで閑古鳥が鳴くケースは少ないし、どの地方のクラブもそれなりの固定層に熱く支えられている。五輪の成績次第でボールを蹴る少年の数が激減してしまうような危機は心配する必要がない。

 だが一方で毎年混戦必至のJリーグは、一部のコアファンを引き付けながらも、一般社会に目を転じれば年々観る競技としての関心度を薄めてしまっているように映る。例えば現役Jリーガーで、卓球、バドミントン、柔道などのメダリストの知名度を上回る選手が、どれだけ存在するだろうか。日本は全体を俯瞰すればスポーツ大国として多様な競技で好成績を残しているが、逆に欧州や南米でのサッカー一択の事情を鑑みれば安閑とはしていられない。

 今Jリーグは、屈指の輸出市場として注目を集めており、それは喜ばしいことだ。しかし有望タレントが次々に欧州進出をしていく環境では、強いチームを作るほど失速も激しくなる。川崎の弱体化は象徴的な出来事で、主力の欧州進出に加え故障者も重なり、今年は新加入のブラジルトリオもフィットし切れていない。

 今シーズンから方式が変わったACLエリートに出場するのは、川崎(天皇杯優勝)、横浜FM(2023年J1リーグ2位)と現在5位のヴィッセル神戸(2023年J1リーグ優勝)。翌シーズンはJリーグの代表チームがすべて入れ替わる可能性もある。当然経験値が重ならなければアジアの戦いも厳しくなるわけで、もし弱いJが浮き彫りになればファンの関心も代表や欧州ばかりに傾く可能性もある。

 今、Jリーグはどんな魅力を発信できるのか。それは想像以上に深刻な難題だと思う。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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