史上初の選手権4強に導いた徹底的なカテナチオ 佐野日大が準々決勝で駒澤大高を2−1撃破

1点差勝利が3試合、PK戦勝利が1試合の勝負強さ

  その成果は1-1で迎えた後半アディショナルタイムに現れた。途中出場のFW大熊啓太のパスをゴール前右サイドで受けた長崎はニアサイドの狭いコースを抜いて決勝ゴールを決めた。「相手GKの位置もしっかりと見えていた」。勝負を分けるプレーをイメージして積んできたトレーニングの成果が発揮された瞬間だった。

 佐野日大の展開するサッカーは、ポゼッションを重要視するチームが増えた近年の高校サッカーでも少なくなったものかもしれない。象徴的だったのは、この試合の前半で佐野日大の選手がボールを持った際、前線にターゲットが見当たらなかった場面だ。迷うことなく相手最終ラインの背後、それもタッチライン際にボールを蹴ったプレーだ。佐野日大が前半から展開していたように、自陣でボールを奪ったらセーフティーなプレーを第一にするチームは減った。

 海老沼監督は「一つ一つのプレー、一つのボールに対してひたむきにやってきた結果。チャンスがあれば前につなぐことを狙うけど、危なければクリアで良いというのは言ってきた。相手に力があり頑張らないといけない時間が続いたなかで、頑張っている時にもチャンスはあるんだぞと言い続けました」と、苦戦しながらも少ないチャンスを得点につなげたゲームを振り返った。

 イタリアの「カテナチオ」と呼ばれる伝統の堅守こそが信条。リスクを徹底的に排除し、現実主義を貫いた佐野日大としては初の準決勝進出を決めた。その舞台に対して海老沼監督は「一生懸命な姿と、応援席、ベンチ、ピッチの一体感が流れを呼ぶというものを見せたい」と話した。ここまで1点差を3試合、PK戦を1試合制して勝ち上がってきた粘り強さとハードワークは、さらなる歴史を作り出す瞬間につながっていくだろうか。

【了】

轡田哲朗●文 text by Tetsuro Kutsuwada

 

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