三笘不在「緊急プラン」考察 中村敬斗ら“代役候補”に課せられたミッション【コラム】

怪我で招集外の三笘薫【写真:高橋 学】
怪我で招集外の三笘薫【写真:高橋 学】

攻撃の軸である三笘は左足首の負傷で4~6週間離脱の見込み

 日本代表の柱の1人である三笘薫(ブライトン)は、1月に開幕するカタール開催のアジアカップに招集できそうにない。現地時間2023年12月21日に行われたプレミアリーグ第18節クリスタル・パレス戦で左足首を負傷。試合後は松葉杖姿が目撃されており、ロベルト・デ・ゼルビ監督は離脱期間を4~6週間と明らかにした。

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 三笘の強烈な突破力は日本代表を救ってきた。三笘がどんな場面で生きるのか、一番いい例は、2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選のオーストラリア戦だった。

 W杯出場を懸けた2022年3月24日のアウェー・オーストラリア戦は、緊迫感のある0-0のまま試合終盤を迎える。後半44分、守田英正がゴールラインギリギリから折り返したボールにただ1人反応したのが三笘だった。グラウンダーのボールに走り込み、相手のタックルよりも一足早く蹴り込んで、ついに日本が先制点を挙げる。

 さらに後半アディショナルタイム4分、三笘は本領を発揮した。左のアウトサイドでマーカーと正対すると縦に抜け出し、そのままカットイン。相手選手3人をかわして4人目が来るところで右足を振ると、ボールはGKの手を弾いてゴールに飛び込んだ。

 俊足を生かしてゴール前に飛び込むプレーもできれば、止まった状態から爆発的なスピードで相手を抜き去り、相手陣内奥深くまで進入することができる。1人でプレーを完結させることができるので、周りの選手は三笘がボールを持つと、三笘のコースを開けて、最後に自分が飛び込む場所を考えるだけでいい。

 これは特に三笘のうしろを守るサイドバックに言えることだった。長友佑都(FC東京)は左のアウトサイドが南野拓実(ASモナコ)だった場合、南野を中に絞らせて外にできる空間を使っていた。だが三笘が入ると、三笘にボールを預けてうしろを固めればそれでいい。そのため、長友に比べると攻撃参加は少ないが、守備では身長が11センチ高いアドバンテージを持つ中山雄太(ハダースフィールド・タウン)が投入されていた。

 今回、タイ戦に向けて招集されたメンバーで左のアウトサイドの候補は2人。中村敬斗(スタッド・ランス)と奥抜侃志(ニュルンベルク)。では、この2人と三笘との違いはどこの部分か。

左サイドで期待される中村敬斗【写真:徳原隆元】
左サイドで期待される中村敬斗【写真:徳原隆元】

中村が秘める三笘以上の得点能力

 中村は「選手それぞれの特長があるので、自分の特長を出しつつ、チームとして任されたタスクが一番大事なので、それをやったうえで自分の武器を発揮していければいい」としつつも、「(三笘と)お互いに相手ゴールへ向かうところは一緒だと思うんですけど、僕が持っている特長はクロスに逆サイドから入っていくところであるとか、連係して組み立てていくところ、あるいはゴール前での、ペナルティアーク付近でのアイデアだと思っています」と説明する。

 中村はこれまで日本代表に4試合出場4得点。このうち代表初ゴールとなった2023年6月15日エルサルバドル戦の得点と、9月12日のトルコ戦での中村の2得点目はよく特長を表している。

 エルサルバドル戦でのゴールは久保からのパスをオフサイドにならないようじっくり待ってダイレクトで決めたゴール。トルコ戦での自身の2点目は毎熊晟矢(セレッソ大阪)のクロスをワントラップして冷静に蹴り込んだ得点。ゴール前に入り込む上手さとシュートのときの冷静さが光る2ゴールだった。

 さらに足元のテクニックがあり、単独での突破もできるが周囲とのパス交換で崩すこともできる。持っているポテンシャルを考えると、右サイドに伊東純也(スタッド・ランス)と堂安律(フライブルク)の2枚看板がいるように、三笘とのダブルキャストができてもおかしくはない。三笘よりも左サイドバックのオーバーラップを生かすことができるので、攻撃はより多彩になる。

 2023年3月に初招集された時から身体のキレは見せていて、あとは周囲との連係を深めていくことが必要となるだろう。三笘を超える得点能力を見せることが、今後日本代表での先発の座を確保することを意味する。

中村と奥抜に求められる攻撃+守備の貢献

 奥抜は10月に追加招集されたものの、帰国後に体調不良で練習合流が遅れ、まだ初出場を果たしていない。ドリブラーとしてどこまでの突破力を見せられるかが今回の勝負となるはずだ。

 もっとも、今回日本代表で生き残っていくためにはもう1つの要素が必要となりそうだ。

 というのも、12月28日の取材で南野が自身のポジションについて、「今のところ8番のポジションも考えられます」と明かしたのだ。これは通常で考えれば、4-1-4-1のインサイドハーフということになるだろう。

 森保一監督が「4-3-3」ではなく「4-1-4-1」と呼ぶ理由は、アウトサイドMFの選手にもより守備を求めるから。つまり中村にしても奥抜にしても、得意の攻撃面でアピールするのは当然として、どこまで守備で貢献できるかを見せなければいけない。

 ここまでの森保監督の「相手が嫌がる守備からの攻撃」というチーム作りを考えると、十分に考えられる要求になる。もっとも、タイ戦では日本が攻め込む時間が長くなり、守備のアピールをする場面は少ないかもしれない。だがその少ない守備の「チャンス」をものにしてこそ生き残れるはずだ。

 そしてもし、2人がアピールに成功しなかった場合はどうなるか。11月のミャンマー戦にも出場し、サイドバックもこなせる相馬勇紀がすぐに招集されることも十分に考えられるはずだ。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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