伊藤涼太郎に期待する伊東純也の“系譜” 遅咲き→エースへ…初招集の森保Jでポジション掴めるか【コラム】

STVV伊藤涼太郎【写真:Getty Images】
STVV伊藤涼太郎【写真:Getty Images】

伊藤涼太郎はタイ戦のメンバーに選出 日本代表へ初招集された

「招集理由は『いいプレーをしているから』ということだと思います。我々は日本代表として戦える戦力を発見、発掘すべく広範囲に見ていますが、(アルビレックス)新潟時代、そして今、シント=トロイデンでプレーしている伊藤涼太郎は代表の戦力として戦ってもらえる選手。彼のいいところは攻撃で得点を奪うところ。まだまだシント=トロイデンで全てを発揮できているわけではありませんが、チームで10番、8番のポジションで存在感のあるプレーをしていると思います」

 2024年元日のタイ戦(東京・国立)に向け、12月7日に行われた日本代表メンバー発表会見。森保一監督は初招集に踏み切ったMF伊藤涼太郎に大きな期待を寄せた。

 今季5シーズンぶりにJ1に復帰したアルビレックス新潟で前半戦だけで9ゴールをマークし、念願だった欧州移籍を勝ち取った「苦労人のファンタジスタ」が、ついに日の丸をつけることになるのだ。

 改めて振り返ると、伊藤は2016年に作陽高校から浦和レッズ入りしたMFだ。当時の浦和は柏木陽介(FC岐阜)や武藤雄樹(柏レイソル)、駒井善成(北海道コンサドーレ札幌)らアタッカーの人材が豊富で、高卒新人に出番は与えられず、彼は2017年夏にJ2水戸ホーリーホックにレンタル移籍。2018年は34試合9ゴールという実績を残すことに成功したが、翌2019年のレンタル先であるJ1大分トリニータでは活躍が叶わなかった。

 2020年にはいったん浦和に復帰するも、やはり壁にぶつかり、2021年夏に水戸へ再びレンタルで赴くことになる。そこで再浮上のきっかけをつかんだ伊藤は2022年に当時J2の新潟へ。ここで運命的な出会いをしたのが、松橋力蔵監督だ。

「松橋監督は本当に自分のプレースタイルに合うサッカーをしてくれたし、いい意味で自由を与えてくれました。僕自身は弱点を克服することも大事だと思いますけど、それ以上に自分の良さである攻撃面を伸ばすことが重要だと考えていた。プロになってからも諦めずにずっとそこにトライし続けてきたんです。松橋さんや新潟というクラブにその考え方を認めてもらえて、いい部分を引き出してもらえ、結果を出せた」

 伊藤自身もこう語っていたが、ストロングを伸ばすことに長けた指揮官によって、彼の眠っていた才能が引き出されたのは間違いないだろう。

 松橋監督はご存知の通り、横浜F・マリノスのアカデミーで長く指導していた人物。その経験から「ストロングを研ぎ澄ませた方が大きく成長する選手が多い」ということを痛感していたはずだ。「フィジカルが弱い」「走力が物足りない」「守備強度が見劣りする」とネガティブな評価を受けることが多かった伊藤に対し、「それ以上に頭抜けたボール扱いの技術とセンス、戦術眼を備えている」と評価。その能力を生かした方がチームにとっての得策だと判断し、チーム強化を進めていったはずだ。

 その方向性が奏功し、新潟は2022年のJ2で快進撃を見せ、J1昇格を決定。2023年J1前半戦では快進撃を見せた。伊藤の推進力と決定力は凄まじく、その時点で第2次森保ジャパンの候補として名前が挙がったほど。結局、初招集は叶わなかったが、本人も「同じ東京五輪世代の多いチームにいつか自分も入るんだ」と意気込みを新たにしたに違いない。

 その思いがより強まったのが、シント=トロイデン移籍後。欧州にいれば、同い年の三笘薫(ブライトン)や前田大然(セルティック)、町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)らの活躍がより身近に感じられる。9月のトルコ戦(ゲンク)をスタジアムで観戦したことも大きな刺激になったという。

トルコ戦を現地で観戦…膨らんだトップ下のイメージ

「自分はトップ下がメインですが、ボランチにも入ることがあるので、『自分が入ったらこうしよう』とイメージしながら試合を見ました。やはり久保(建英=レアル・ソシエダ)選手が数多くのチャンスを作っていたのが印象的でした。基礎技術が高く、戦術理解にも優れていて、世界の相手と対峙してどう戦うかをよく知っているなと感心しましたね。もし自分が同じポジションに入るなら、それだけのレベルのプレーをしなければいけない。もっと自分を引き上げないといけないと痛感したんです」と本人は神妙な面持ちで語っていた。

 代表の4-2-3-1のトップ下となれば、久保のみならず、鎌田大地(ラツィオ)というライバルもいる。今のシント=トロイデンは3-4-2-1がメインで、伊藤はボランチの一角に入るケースが目立つ。それを考えるとむしろ鎌田が一番の競争相手になるかもしれない。

 テクニックと戦術眼に秀でたファンタジスタという部分で2人は通じるものがある。ただ、高度な国際経験値は鎌田の方が上回っている。そこは伊藤自身も認めるところだろうが、今季のパフォーマンスだけを取ってみれば、新天地で苦しむ鎌田よりも、リーグ15試合出場(うち先発15試合)の伊藤は存在感がある。それをタイ戦で示せれば、アジアカップメンバーへの滑り込みもひょっとすればひょっとする。そういう野心を持って、彼には初代表に挑んでほしいものである。

 25歳の初代表というのは遅いかもしれないが、20代後半になって急成長を遂げていく選手は少なくない。同じベルギーから欧州5大リーグにステップアップした遠藤航(リバプール)、伊東純也(スタッド・ランス)のような軌跡を辿ることも夢ではない。伊東はシント=トロイデンのすぐ近くのゲンクで着々と実績を積み重ね、日本代表エースに上り詰めている。そういったいい見本も身近にいるだけに、伊藤もその系譜を次ぐことはできるはず。

 まずは12月28日からスタートする日本代表合宿での一挙手一投足をしっかりと見極めていきたいところだ。

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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