J1昇格PO決勝、東京V対清水“オリジナル10”対決を展望 残り1枠を懸けた「必勝プラン」を考察【コラム】

東京Vと清水が残り一枠を懸けて激突【写真:Getty Images】
東京Vと清水が残り一枠を懸けて激突【写真:Getty Images】

J1昇格の残り1枠を懸け、J2年間3位東京Vと4位清水が激突

 J1昇格の残り1枠を懸けた運命のゲームが、12月2日に国立競技場で行われる。J2を逆転で3位フィニッシュした東京ヴェルディはプレーオフの準決勝でジェフユナイテッド千葉に2-1と勝利。一方で4位の清水エスパルスはモンテディオ山形とスコアレスドローながら、年間順位のアドバンテージで勝ち上がった。

 国立開催と言っても東京Vのホーム扱いであり、引き分けでも年間順位のアドバンテージで16年ぶりのJ1昇格となる。ただ、やはりこういう大一番は守りに入ってしまうと相手の勢いに飲まれやすい。2トップでスタメンが予想されるFW染野唯月は「自分たちは勝つことを毎試合望んでいるので、その延長線上で清水にも勝ちたい。相手の雰囲気にも飲まれずに、自分たちが圧倒して勝ちたい」と語る。

 清水はホームで山形を相手に、なかなか立ち上がりから自分たちのリズムに乗れないまま、いつ相手に点が入ってもおかしくない状況から巻き返して、この舞台を掴んだ。無類のモチベーターである秋葉忠宏監督としても、チャレンジャーとして挑む意識を再注入してくるだろう。一方の東京Vも千葉戦の後半は良かったが、前半の入りが悪く、千葉に押し込まれた状況で守護神GKマテウスのビッグセーブに救われるシーンもあった。

 レギュレーション的には東京Vのほうがかなり有利ではあるが、それを選手があまり意識してしまうと罠に陥り、心理状況が逆転要素にもなり得る。百戦錬磨の城福浩監督が、そこをどう前向きにしていけるか。染野が言うように、あくまで点を取って勝つことを意識した延長線上に、引き分けでも昇格が決まるというアドバンテージが乗っかってくるのが理想だろう。

 レギュラーシーズンの両者の対戦を振り返ると、清水が2連勝している。4月のホームゲームは立ち上がりにショートコーナーならDF林尚輝のゴールで東京Vがリードも、前半のアディショナルタイム、MF乾貴士、MF中山克広とつないだボールを攻め上がってきたDF北爪健吾が同点ゴール。そして後半45分にセットプレーから途中出場のFWオ・セフンが高さを生かしたヘッドで、決勝ゴールを叩き込むという劇的な試合だった。

 東京V側のホームだった8月の試合はU-22日本代表のMF鈴木唯人(ブレンビー)が、欧州からの復帰ゴールを決める形で、終盤の猛攻に耐えた清水が1-0と勝利。ヒーローとなった鈴木は再び欧州に旅立っていったため、ある意味で“置き土産”のようなゴールとなった。そうした結果だけ見れば、清水が東京Vに相性が良いように映るが、内容的には紙一重であり、準決勝から最後の準備と最後は際の勝負がどっちに転がるかという試合になるだろう。

“オリジナル10”の戦いでどちらが勝利してもドラマになるゲームに

 東京Vは4-4-2のコンパクトな3ライン、J2最少失点の堅実な守備をベースに、縦に速い攻撃と落ち着いたビルドアップを織り交ぜて、タレント力の高い清水に対して、優位な状況を作り出そうとするはず。キーマンは司令塔のMF森田晃樹であり、高い技術と広い視野で起点を作りながら、千葉戦のゴールに象徴されるように、タイミングよくゴール前に顔を出してくる。清水に乾というJ2では規格外のタレントがいることもあり、この森田とボール奪取能力の高いMF稲見哲行がいかに、10得点10アシストの相手エースを抑えられるかに懸かっている。

 もちろん東京Vとしては守るだけでなく、攻める姿勢を出していく必要があるという意味で、千葉戦で先制弾を決めた右サイドのMF中原輝にも注目だ。左利きで、縦にも中にも仕掛けられる気鋭のタレントを1対1で清水が封じ込めるにはDF吉田豊の役割が重要になるが、清水は点を取りにいく必要がある。攻撃性能の高いDF山原怜音がスタートから出て得点に絡み、吉田でクローズという“必勝プラン”に持ち込めれば理想だが、城福監督としては前掛かりになる清水の背後というのを狙わない手はない。東京Vは中原、清水は山原がスタメンなら、前半からスリリングなマッチアップになりそうだ。

 清水が攻勢をかけて、前線のタレント力を大いに発揮できる展開になっても、東京Vは守護神マテウスをうしろ支えとした粘り強いディフェンスがある。ここを清水がFWチアゴ・サンタナを筆頭に、いかにこじ開けるか。乾はもちろん、FWカルリーニョス・ジュニオや中山など、サイドからの仕掛けもキーになる状況で、その裏返しを東京Vが狙ってくることも想定されるので、この攻防には注目したいところだ。

 戦術的な見どころもあるが、やはり“オリジナル10”の戦いでどちらが勝利してもドラマになるゲーム。クラブの命運、選手のキャリアを懸けて相対する両チームのスピリットを感じさせるような歴史に刻まれる名勝負を期待したい。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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