小野も去る黄金世代、現役の稲本&遠藤が出せる「サッカーの深さ」 共通の魅力は“遊び心”【コラム】
来季から南葛SCのコーチも兼任する稲本潤一の新たな現役キャリア
18歳で1998年フランスワールドカップ(W杯)に出場するという日本サッカー史上前例のない偉業を達成した小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)が12月3日の浦和レッズ戦で26年間の現役生活に別れを告げる。
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小野伸二と言えば、1979年生まれの黄金世代の看板選手。彼とともに1999年ワールドユース(ナイジェリア)準優勝の快挙を達成した同期の高原直泰(沖縄SV代表・監督・選手)、本山雅志(鹿島アカデミースカウト)、南雄太(大宮)も揃って2023年にキャリアに区切りつけることになった。
「伸二と高原に関して言えば、中学生だった15歳の時からずっと一緒だった。お互いを意識しながらやってきて、大げさな言い方になるかもしれないけど、『日本サッカー界を支えてきた存在の2人』だったと思う。彼らに出会えたことは自分にとって本当に大きいこと。今はありがとうって言いたいですね。
もちろん2人だけじゃなくて、本山だったり、雄太、遠藤(保仁/ジュビロ磐田)もそうですけど、お互いがお互いをリスペクトし合っている存在だったのかな。『あいつが頑張っているから俺も頑張ろう』っていう意識が強かったし、それぞれが上に行こうとしていたのかなと思います」と、11月30日に南葛SCの記者会見に出席した稲本潤一はしみじみと語っていた。
フィリップ・トルシエ監督が日本代表を率いていた1998~2002年の頃を振り返ってみると、本当に中盤は選手層が厚かった。黄金世代の小野、稲本、本山、遠藤、中田浩二(鹿島アントラーズCRO)のみならず、1つ上の中村俊輔(横浜FCコーチ)、2つ上の明神智和(ガンバ大阪ユースコーチ)、3学年上の中田英寿と誰を主軸にしてもチームが成り立つと言ってもいい状況だった。
こうした面々が続々とユニフォームを脱いでいき、来季以降もプロサッカー選手としてピッチに立ち続ける見通しなのは稲本と遠藤の2人だけ。79年組の永井雄一郎(KONOSU CITY FC)も選手登録はしているものの、監督業や解説業がメインにしているのが実情だ。稲本も来季からはコーチ兼任になるというが、来季から指揮を執る風間八宏監督からは「まずはプレーヤーとしてやってくれ」と言われている模様。「選手をやりながら、風間監督の隣でコーチ業を学ぶ」という形になるようだ。
「基本的にはプレーヤーを続けるので、完璧なコーチというわけではないんです。来季からはメンバーも変わって、風間さんのサッカーを知らない選手も入ってくるので、彼らにアドバイスをしたり、指導を意識しながら向き合うことになるんだと思います。風間さんとは川崎フロンターレ時代以来、9年ぶりに一緒に仕事することになりますけど、自分がもっとうまくなれるいいチャンス。川崎時代の風間さんは『止めて蹴る』を噛み砕いた指導をしていましたけど、9年経った今、さらに進化していると思うので、僕自身、すごく楽しみ。キャプテン翼の『ボールは友達』という部分は風間さんのサッカー、南葛にも共通するところなので、それを根付かせていければいいですね」
目を輝かせながら来季に向けての意欲を語った稲本。来年9月には45歳になるが、年齢を重ねれば重ねるほど向上心や探求心、サッカーへの貪欲さが増してくるというから不思議である。
「動けなくなってくると、人を使うこと、考えることをよりやっていけないと試合にも出られないし、チームにも貢献できない。その中で技術を使うことも大事ですし、それがうまくなっていると実感できるようになってきています。体が動かないからこそ『サッカーの深さ』がにじみ出ているのかなとも思いますね」と彼は笑っていたが、年齢を重ねたからこそできるものもある。それは同期唯一のJリーガー・遠藤も話していた点だ。
遠藤保仁が明かした40代でもピッチに立ち続けられる訳…1つのパスに込められた意図
「ハードワークだったり、強度の高い選手を使う監督であれば、40代の自分のランクは下になるかもしれない。それが悪いことだとは思いません。ただ、相手が困るプレーをしてゴールを沢山入れるというサッカーの大前提に立ち返って考えれば、別にハードワークをしなくても、点が取れればいいわけです。言い方は悪いかもしれないけど、『サッカーは騙し合いの競技』ですからね(笑)。いかに相手を誘い込むかが大事。傍目からだとムダだと思われるようなパスも、その先に明確な意図があれば大事なパスになるわけです。強く蹴ったり、わざと弱く蹴ったり、浮かしたりっていうのも使い分けながらやっています。1つの言葉でいえば、“遊び心”というふうになるのかもしれないですね」
これは磐田でコンスタントに試合に出ていた2年前の遠藤の発言だ。今季J2では21試合出場にとどまり、終盤はベンチ外も多かったが、彼のサッカー観や哲学は変わっていないはずだ。そういう思考力や戦術眼を研ぎ澄ませていく作業はむしろ40代がピークなのかもしれない。稲本や遠藤の生きざまを見ているとそう思えてくる部分が確かにある。
少年時代からサッカークラブに入り、指導者から基本技術や戦術を叩き込まれる今の若い世代は、彼らのような発想力や想像力が少し欠けているのかもしれない。黄金世代が子供時代を過ごした80~90年代にかけてはまだJリーグもなく、高度な知識を持つ指導者の数も少なかったから、彼らは遊びの中からサッカーを覚えていった。まさに「キャプテン翼」の世界観である。それがさまざまな実戦経験の中で磨かれ、人々を魅了するプレーになっていったのだ。
そういう魅力を持つ稲本と遠藤が現役選手を続ける意味は少なくない。小野や本山らがユニフォームを脱いだ分、彼らにはまだまだピッチでサッカーの醍醐味や深さを示してほしいもの。とりわけ、コーチ兼任となる稲本には、風間監督という日本屈指の指揮官の下で多くの学びを得て、より充実した40代のサッカーキャリアを積み重ねていってもらいたい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。