シリア戦中継なし「サッカーは誰のもの?」 高騰する放映権料問題…日本代表OBが持論「ファン置き去りは最悪の結果」【見解】

シリア戦の放映権問題をどう考える?【写真:Getty Images】
シリア戦の放映権問題をどう考える?【写真:Getty Images】

【専門家の目|金田喜稔】ファン心理にも言及「今回は仕方ないと理解してくれるはずだ」

 森保一監督率いる日本代表(FIFAランキング18位)は、現地時間11月21日に中立地のサウジアラビア・ジッダで行われた北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選でシリア代表(同92位)と対戦し、5-0で勝利した。「天才ドリブラー」として1970年代から80年代にかけて活躍し、解説者として長年にわたって日本代表を追い続ける金田喜稔氏が、日本国内向けの中継が行われなかったシリア戦の放映権問題について切り込んだ。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 初戦のミャンマー代表戦(5-0)から9人のスタメンを入れ替えて臨んだシリア戦。MF久保建英の先制ゴールを皮切りに、FW上田綺世が連続ゴールを奪うと、DF菅原由勢とFW細谷真大も追加点を奪い、5-0と完勝した。

 シリア対日本の一戦は、高額な放映権料が設定された影響で、日本国内向けの中継は行われなかった。シリア戦後、日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長は「権利は相手の協会にあり、エージェントが日本の価格をどんどん吊り上げようとしたのは事実と私は聞いている。放送できなかったのはすごく申し訳ない気持ちはある」と陳謝していた。

 今回の事態を受けて、金田氏は日本サイドの判断について「正しいと思う」と持論を展開している。

「値段を吊り上げるような真似をして、その金額は1億円以上とも言われている。高額をふっかけてきた時、日本側も粘り強く交渉しながら、最後は突っぱねる形となった。もし最終的に折れて、仕方なく高額の放映料を支払っていたら、間違いなく悪例となっていたし、今後も高額の放映料が搾り取られる流れになっていた。本音を言えば日本側は放映をしたかっただろうが、毅然とした態度で臨んだ日本側、JFA側の姿勢は正しいと思う。それは日本だけでなく、アジア全体のマーケットを守る意味でも正しい判断だったと思う」

 今回のケースはファンの間でも議論の的となった。金田氏はファンの心理にも思いを巡らせつつ、次のように語った。

「日本のサッカーファンからすれば、単純に試合は見たいだろうし、普及という意味でも放映するに越したことはない。それでも、不当とも言える金額を支払い、今後の悪例を作ってまで放映するべきかと言えば違うだろうし、今回は日本国内で放映がなかったのは仕方ないとサッカーファンも理解してくれるはずだ」

フェアな交渉と調整に期待「世界のサッカー界で協議するべき事案」

 日本代表は6月までアジア2次予選を戦うなか、3月に北朝鮮戦、6月にミャンマー戦とアウェー2試合を残している。最終予選も含めて、再び放映権問題が浮上する可能性は十分にあるだろう。

「この問題は今回だけの話ではない。アジアサッカー連盟(AFC)、ひいては国際サッカー連盟(FIFA)など、世界のサッカー界で協議するべき事案だ。ある程度の交渉は理解できるが程度の問題。フェアな交渉と調整を期待したい」

 そう語る金田氏は、「結局、サッカーは誰のものなのか?」と問う。

「スポーツは、ファンに見てもらい、支えてもらってなんぼの世界。大事なファンを置き去りにするのは最悪の結果だ。サッカーを支え、愛し、応援してくる人がいてこそ成り立つ。ビジネス面も重要であり、サッカー界を支えているのは確かだが、その面が強くなりすぎて本質が抜け落ちている気がしてならない。ファンが犠牲になる負の連鎖はどこかで断ち切らないといけない」

 高騰する放映権料の現状を憂う金田氏は、サッカー界全体の問題として捉えるべきと提起した。

「今回の代表戦に限らず、サッカー界全体で放映料が高騰しすぎている。女子W杯でも放映問題は持ち上がったが、ファンが試合を見られない事態が続けば、サッカー自体が衰退する。適正範囲の交渉というものがあるはずだし、そこはサッカー界全体の課題とも言える。今回、日本サッカー協会は苦しい立場だったと思う。協会としてできることも限られたはずだが、最後の最後まで諦めずに可能性を模索した点は素晴らしい。今回の件が一石を投じる形になってくれればと願う」

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金田喜稔

かねだ・のぶとし/1958年生まれ、広島県出身。現役時代は天才ドリブラーとして知られ、中央大学在籍時の77年6月の韓国戦で日本代表にデビューし初ゴールも記録。「19歳119日」で決めたこのゴールは、今も国際Aマッチでの歴代最年少得点として破られていない。日産自動車(現・横浜FM)の黄金期を支え、91年に現役を引退。Jリーグ開幕以降は解説者として活躍。玄人好みの技術論に定評がある。

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