欧州日本人プレーヤー「序盤戦査定」/オランダリーグ編 AZ菅原、フェイエ上田、NEC小川…唯一の“上出来”は?【コラム】

オランダリーグでプレーする選手たちを評価【写真:Getty Images】
オランダリーグでプレーする選手たちを評価【写真:Getty Images】

「欧州日本人・序盤戦通信簿」と題し、オランダリーグで活躍する面々を独自評価

 欧州各国リーグで活躍する日本人プレーヤーたちの序盤戦パフォーマンスを査定すべく、「FOOTBALL ZONE」では特集企画として「欧州日本人・序盤戦通信簿」を展開。それぞれ「飛躍の条件」をベースにオランダリーグで活躍する面々を独自評価していく。(文=河治良幸)

   ◇   ◇   ◇

【評価指標】
S=抜群の出来
A=上出来
B=まずまずの出来
C=可もなく不可もなく
D=期待外れ

■菅原由勢(AZ) 
評価:A
飛躍の条件:さらに圧倒的な存在に

 エールディビジと呼ばれるオランダ1部では現在5人の日本人選手が在籍しており、増加傾向にある。その中でも菅原はAZで5シーズン目となっており、すっかりチームの顔として定着している。今シーズンはAZも好調で、開幕5連勝を飾ってスタートダッシュに成功。9月28日のヘラクレス戦は1-1で引き分けたが、直近のフォルトゥナ・シッタート戦で4-0の大勝を飾っている。PSVが7連勝のため2位だが、2008-09シーズン以来となる3度目のリーグ優勝も現実目標になりそうだ。

 ヘラクレス戦はややインサイドの位置からワンタッチのクロスで1トップのパヴリディスのゴールを導くなど、菅原はここまで3アシストと攻撃面の働きが目立っている。安定した守備が大前提にあり、日本代表のドイツ戦でセルジュ・ニャブリを封じた1対1の守備対応を含めて、現在のオランダで1、2を争う右サイドバックと言っていい。夏には5大リーグへの移籍が実現できず、菅原自身も残念そうではあったが、切り替えてチームの勝利を支えるメンタルの強さというのはさらなる評価が上がるベースになっている。

■上田綺世(フェイエノールト) 
評価:C
飛躍の条件:出場時間を伸ばす

 上田綺世はベルギーのセルクル・ブルージュで22得点という結果を出して、オランダ王者でもあるフェイエノールトに移籍した。メキシコ代表FWサンティアゴ・ヒメネスという昨シーズン15得点のエースがおり、今季も7試合10得点という昨季を上回る驚異的な数字を叩き出している。3トップのチームで、ここまですべて途中出場の上田は必ずしもヒメネスに代わって入るわけではなく、並び立つ形もある。

 上田はここまで第4節のユトレヒト戦でマークした1ゴールだけだが、新天地で成長している実感は練習からもあるようで、アルネ・スロット監督のもとでスペースの使い方やディフェンスの背負い方など、フィニッシュに至る引き出しのところは伸ばせている実感があるという。ウイングの選手ではないので、ヒメネスを残してスタメンを飾るなど、出場時間を伸ばすための理想は2トップだろう。10番を付ける司令塔のカルビン・ステングスもパスの出し手と受け手の関係というだけでなく、ある種のライバルにもなってくる。その意味では構成によって、点を取らせる側の仕事も重要になるかもしれない。

 ただ、UEFAチャンピオンズリーグも入ってくるので、過密日程で出番が回ってくる期待もある。日本代表でも、ようやく流れの中でゴールを決めて、初めてA代表で勝利に貢献できたという実感を語っていた上田。途中離脱の原因となった怪我も深刻ではなく、1試合の欠場で復帰している。ベルギーでは最終的には良い結果を残したが、最初から理想のポジションに定着していたわけでも、ゴールを量産していたわけでもいない。まだ本当の評価をするには時期尚早かもしれない。

小川航基は開幕2戦連発も、強豪クラブとの対戦で沈黙

■斉藤光毅(スパルタ)
評価:B
飛躍の条件:厳しいマークを破る

 昨シーズン途中にベルギー2部のロンメルから加入し、半年間で主力に定着。モーリス・スタイン前監督は名門アヤックスに引き抜かれたが、コーチから昇格したイエルン・ライスダイク監督は開幕から左の主翼として、斉藤に全福の信頼を置いている様子だ。本人も個人として結果を残すことが、チームの勝利に直結することを自覚している。第3節のヘーレンフェーン戦で2得点を挙げたが、相手のマークが厳しく、なかなかゴール前で決定的な仕事ができていないのは良い試練と考えるべきか。

 9月24日のフィテッセ戦では今季初めてアシストを記録したが、後半の早い時間帯に交代。次のエクセルシオール戦は開幕戦以来の欠場となった。ここからパリ五輪を目指すU-22代表の活動をこなしながら、所属クラブでも結果を残していかないといけない難しいチャレンジだが、A代表を目指す斉藤はそんな環境も笑顔で受け入れて、さらなる成長につなげようとしている。カットインという最大の武器を磨きつつも、周囲とのコンビネーションを含めて脅威になっていけるか。この壁の先には当然ステップアップの道が続いているはずだ。

■小川航基(NECナイメヘン) 
評価:B
飛躍の条件:ゴール前の存在感アップ

 横浜FCからオランダに渡り、すぐに開幕戦から2試合連続のゴールを挙げるなど、順調な滑り出しだった。点取り屋としてペナルティーエリア幅に構えながら、186センチの小川を上回るサイズの相手にも怯まず、ロングボールを2列目に落とすなどの役割もこなしている。ただ、やはり最大の仕事はフィニッシュだ。第5節のPSV戦ではチームもなかなかボールを運べない状況で、190センチのアーメル・ベリャ・コチャップとブラジル人のアンドレ・ラマーリョという欧州でもトップクラスのセンターバックコンビに封じられて、チームも小川本人もシュートチャンスすらほとんど作れなかった。

 その小川に代わって投入されたバス・ドストは1か月遅く加入してきたが、元オランダ代表の豊富な経験と196センチという欧州基準でも破格のサイズがある。ここ2試合はドストがスタメン、小川が途中から入る構図に変わっている。サイズだけでなく、ターゲットマンとしての仕事は現時点でドストに軍配が挙がるのは仕方がないところ。小川も34歳のベテランFWから学べるところは多いと認めるが、やはり点を取るという仕事で違いを見せていければ、序列を覆すことは十分に可能だ。もちろん状況によってロヒール・メイエル監督が、ツインタワーという選択をするかもしれない。日本代表に入るだけでなく、エースストライカーを目指す小川にとって欧州最初の挑戦で、高い壁に出会えたことはポジティブに考えるべきだ。

■佐野航大(NECナイメヘン)
評価:C
飛躍の条件:オンザボールの決め手

 グループリーグ敗退に終わったU-20ワールドカップでも、確かなインパクトを残した佐野航大は8月14日付けでJ2ファジアーノ岡山からNECに移籍。FW小川航基とチームメイトになったが、すでに開幕してからの加入ということもあり、なかなか試合に絡めていなかったが、第5節のPSV戦で途中から欧州デビューを果たした。

 ここまで全勝の強豪を相手に3点リードされた時間帯の登場だったが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)に取り消された“幻のゴール”でインパクトを残した。岡山や代表ではボランチから左サイドハーフ、ウイングバックと複数ポジションをこなしてきたが、NECでは4-3-3の左ウイングが持ち場になりそう。斉藤光毅(スパルタ)でも分かるとおり、ウイングは個人の突破力がカギになる。機動力の高さやクレバーな戦術眼、そして正確なキックを武器とする佐野だが、個での打開力を磨いて行くには格好の環境であり、成功の基準となる。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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