焦りを乗り越えての成長 久保建英、余裕と自信に満ちあふれた見たことのない表情に覗く劇的変化

日本代表の久保建英【写真:Getty Images】
日本代表の久保建英【写真:Getty Images】

エルサルバドル戦では先発出場で1G2Aの大活躍

 森保一監督率いる日本代表(FIFAランキング20位)は、6月15日にキリンチャレンジカップでエルサルバドル代表(同75位)と対戦し、6-0で快勝した。カタール・ワールドカップ(W杯)後3試合目で第2次森保ジャパンの初勝利となった。MF久保建英(レアル・ソシエダ)は右ウイングで先発出場。1ゴール2アシストと余裕さえも感じさせる圧巻の出来だった。結果だけではなく、オフ・ザ・ボールでの動きや守備でも成長が見えた一戦。スペインで充実したシーズンを過ごした22歳が日本の絶対的な存在へと駆け上がりそうだ。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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 試合後、ミックスゾーンに現れた久保の表情はこれまで見たことのないほど優しく、そして強く、余裕と自信、エースとしての風格が漂っていた。終始にこやかに笑みを浮かべ、落ち着き払っていた。

「こうやって着実に、こういう試合で点を取るのも大事だと思う。(ゴールシーンは)基本的に彼(三笘薫)は単独で勝負できるけど、あそこまで高い位置だと縦というより中なので切り返すかなと思って、そこで僕がいい位置にいればもしかしてという軽い気持ちで。入って良かった。このレベルだったら贅沢すぎるラインアップ。明らかに僕たちのほうが質があった。今日はやりたい放題だったかなと思う」

 日本はこの日4-1-4-1の布陣で試合をスタート。久保の逆サイドは今シーズン欧州で活躍したMF三笘薫(ブライトン)が入り、同サイドのインサイドハーフはMF堂安律(フライブルク)が務めた。試合は前半開始50秒で久保のフリーキック(FK)にDF谷口彰悟(アル・ラーヤン)が頭で合わせて先制。すると、直後の同2分には一発レッドで相手DFが退場となり、PKで上田がA代表初ゴールとなる追加点を挙げるという、驚きの幕開けとなった。

 数的有利な状況で前半25分には三笘のパスを久保が左足で決めて国際Aマッチ2ゴール目を挙げた。早くも3-0とリードするなか、前半にもう1点を追加。そして後半15分、久保は相手の股を抜くパスで途中出場のMF中村敬斗(LASKリンツ)の初ゴールをお膳立て。“数字”として1ゴール2アシストを記録した。

守備など献身的な姿勢に成長の跡

 一方で“数字”に残らない存在感も光った。ボールを引き出すためのランニング、相手DFを引き付けるためのサポートのランニング、オフ・ザ・ボールの場面で積極的に走り続け、守備でも自身がロストすればそれをしっかり回収。献身的な動きでの貢献度が高かった。空回りするような動きはなく、余裕と自信に満ちあふれていた。

 ちょうど1年ほど前。21歳になったばかりだった久保の表情とは全然違っていた。当時は6月4日の誕生日の2日前にパラグアイ戦(4-1)があった。だが、この一戦にはこれまで“サブ”として出番の多かった選手がスタメンに名を連ねた一方で、久保はその先発も飾れず途中出場。それでも、のちにカタール・ワールドカップ(W杯)で活躍することになる堂安律(フライブルク)や鎌田大地(フランクフルト)、浅野拓磨(ボーフム)らがゴールやアシストで結果を残すなか、久保は存在感を発揮することはできなかった。その時「焦りが出た」と話していたが、表情は切羽詰まっていた。

「代表に入ってきて一旦フラットな状態からの1試合目で、嫌でも自分の立ち位置が見えてきたからこその焦り。普段はどこか冷静に出番を待っている自分もいたけど、この前の試合はいろいろと考えることがあって上手く試合には入れなかった」

 この悔しさは日本代表での立ち位置を突き付けられたから。だが、高き壁を乗り越えなければならない。ここから久保は強くなった。カタールW杯を経て、所属チームでも欠かせない存在へと成長した。スペインでリーグ9得点。シーズン後には海外メディアでMVPやベストイレブンに名を連ねた。1試合1試合での経験、結果が積み重なり、自信となってさらに久保を突き動かす。そんないいサイクルに入った。

 そのまま日本代表へ合流し、堂々としたプレーで違いを見せつけた。久保建英の物語はここから――。そう誰もが信じて疑わない65分間の舞台だった。

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