長谷部誠、今季ブンデス最終戦で示した驚くべき技術 「ボールが来るだいぶ前から…」的確パス&指示に記者脱帽【現地発コラム】

フランクフルトの長谷部誠【写真:Getty Images】
フランクフルトの長谷部誠【写真:Getty Images】

今季最終戦で勝利したフランクフルト、シーズン後半戦で苦戦も7位でフィニッシュ

 元日本代表キャプテンのMF長谷部誠と日本代表MF鎌田大地を擁するフランクフルトは、最終節で日本代表FW堂安律がプレーするフライブルクに2-1で勝利した。この日の勝利と他会場の結果により、フランクフルトは7位でフィニッシュ。来季UEFAカンファレンスリーグの出場権を手にした。現地時間6月3日に行われるRBライプツィヒとのドイツカップ決勝で優勝すれば、来季UEFAヨーロッパリーグ出場権を手にする可能性も残している。

 今季のフランクフルトは非常に順調なシーズンを送っていた。第17節終了時点でリーグ4位。クラブ史上初参戦となったUEFAチャンピオンズリーグ(CL)ではグループリーグを突破し、決勝トーナメント進出を果たした。このままいけばブンデスリーガにおける立ち位置はバイエルン・ミュンヘン、ボルシア・ドルトムント、ライプツィヒに次ぐ強豪クラブとして堅実なものとなるはずと思われたが、23年に入るとパフォーマンスが揺らいでくる。

 最終節のフライブルク戦で3バックのセンターでスタメン出場した長谷部は1つの試合をターニングポイントとして挙げていた。

「前半戦からウインターブレイクまでは非常にチームとしても良い形でプレーできたと思います。リーグでも、CLでも。ただウインターブレイク明けてからがなかなか……。最初は勝ってたんですけど、ただやっぱり試合内容はそんなに良くなくて。そしてCLのナポリ戦のホームでの敗戦からガクンときてしまった」

 フランクフルトはとてもエモーショナルなクラブだ。ファンの熱狂はどの試合でも凄い。特に情熱を注いでいたのがヨーロッパの舞台なのだ。2017-18シーズンにドイツカップで優勝し、18-19シーズンに5年ぶりとなるELに出場すると勢いそのままに準決勝まで進出。翌シーズンもELベスト16まで勝ち残っている。

 21-22シーズンにはついにELで優勝を果たし、そして今季、夢の舞台だったCLへと参戦。決勝トーナメント1回戦で対戦したナポリには成熟度の高さをまざまざと見せつけられ2戦合計0-5で散ったわけだが、フランクフルトは近年、ヨーロッパカップ戦の舞台に常にいたクラブなのだ。

「気持ちを入れ替えてリーグに集中して、来季の挑戦権獲得を!」というのは頭の中では分かっている。しかしその心理状況を上手くコントロールするのは簡単なことではないし、メンタルが噛み合わないと、イメージどおりにプレーすることはできない。試合を重ねてもなかなか勝てず、気が付くと順位はどんどん下がっていく。ついには2月25日のライプツィヒ戦(1-2)から10戦連続未勝利という状況に陥った。

「カップ戦を良い形で終われれば…」ドイツカップ優勝を長谷部も渇望

 そんな苦しい時期を支えたのが長谷部だった。今年1月に39歳となったブンデスリーガ最年長選手は、今季リーグで18試合に出場。特に後季は17試合中14試合に出場し、13試合がスタメン出場だ。

 最終節のフライブルク戦でも随所に鋭いプレーを見せて、チームに安定感をもたらしていた。ボールを落ち着け、中盤スペースにタイミング良く顔を出す鎌田やMFマリオ・ゲッツェへ縦パスをズバズバと通していく。足もとへのパスだけではなく、相手守備の状況に応じては、サイドのスペースや相手守備ライン裏へのチップパスなど、バリエーションも豊富だ。

 記者席からグラウンドの様子を見ていると、長谷部はボールが自分のところに来るだいぶ前から周りの選手に指示を出しているのがよく分かる。次の、次の、次の、そのさらに次のはるか先の局面まで見えているようだ。1点を追う展開もあり、後半26分にコロンビア代表FWラファエル・サントス・ボレと交代となった。

 山あり谷ありのシーズンで前半戦のことを考えれば、もう少し良い順位でフィニッシュができなかったかと悔やむ思いもあるだろう。それでも終盤にもう一度調子を取り戻し、フライブルクに最終戦で勝利し、来季ヨーロッパカップ戦出場権を獲得できたことはポジティブなことだ。長谷部もこう振り返る。

「そうですね、終わり方は良かったですね。もちろん(他会場の)ヴォルフスブルクの結果もありましたけど、来シーズン最低でもカンファレンスリーグに出れる結果で終われたのが良かったです。

今日は今季ホームで最後の試合で、監督も最後でしたし、何人かの選手も、ホームでは最後の試合だったので、そういう選手を気持ちよく送り出せるというのと、あとやっぱりカップ戦決勝に向けて、チームの雰囲気が良くなるかなという意味ではすごく大きな勝利だったと思います。カップ戦を良い形で終われれば、また違う感覚があるかなと思うので、最後もう1試合やりたいですね」

 ドイツカップ決勝で対戦するライプツィヒとの戦績はフランクフルトの5勝7分4敗とわずかにリードも、ここ最近のリーグ順位ではライプツィヒのほうが上。決勝戦という独特な雰囲気の試合だからこそ、長谷部の持つ冷静沈着さとゲームインテリジェンスが極めて重要になるかもしれない。果たしてオリバー・グラスナー監督はどんな布陣を採ってくるだろうか。泣いても笑っても今季のラストマッチだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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