名古屋ユンカーの“2点目”はなぜオフサイド? 新導入3Dラインを元主審・家本氏が解説「常に真横にカメラがあるわけではない」
【専門家の目|家本政明】VAR介入でオフサイド判定になるプロセスと疑問に回答
2月18日に行われたJ1リーグ開幕節で、名古屋グランパスは横浜FCと対戦し1-0で勝利を収めた。移籍後初ゴールを決めたデンマーク人FWキャスパー・ユンカーの得点が決勝弾となったが、“幻の2点目”のオフサイド判定が物議を醸している。元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏がこのシーンについて「オフサイドではない可能性もある」と持論を展開した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
【PR】ABEMA de DAZN、明治安田J1リーグの試合を毎節2試合無料生中継!
◇ ◇ ◇
1点を加えた名古屋は前半17分、再びユンカーにチャンスが巡ってくる。DF丸山祐市のロングパスからユンカーが抜け出して左足でフィニッシュしたが、ここでビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が介入。今年から導入された「3Dライン」で確認されたのち、オフサイドの判定となりゴールは認められなかった。
しかし、会場や配信先で表示された確認画像が斜めのものだったことからSNS上では判定を疑問視する声が続出。正確なジャッジが下されたのか議論が勃発した。
この問題に対し、元Jリーグ主審の家本氏は「常に真横にカメラがあるわけではないので、テクノロジーを使って正しいオフサイドラインを導き出している」とVARが行うオフサイド判定へのプロセスを明かしている。
「Jリーグの場合、ワールドカップ(W杯)のようにカメラ台数が多くはないので画像はある程度斜めになる」としたうえで「正確に判定できるようにテクノロジーによって計算しつくされたラインが引かれている。人間の個人的見解で歪めることはない、公正な線になっている」と、家本氏は正当性を主張した。
新たに導入された「3Dライン」は昨年までの「2Dライン」と異なり、空中の細かな位置まで判定が可能。2Dでの判断が難しい場合は、最新の3Dでの確認に移る流れとなっている。
ユンカーの得点シーンでもその流れに則り、横浜FC選手の最終ライン(青色の線)と攻撃側の名古屋ユンカーの最前位置(赤色の線)に線を引き、それぞれ垂線を伸ばした画像が会場や試合中継で共有された。
しかし今度は、基準となる垂線を引いた位置に疑問の声が上がる。ユンカーはつま先、横浜FCの選手(DF和田拓也)は右脇から垂線が地面に下ろされている。ただユンカーの位置を表す赤い線上に和田のつま先が掛かっているようにも見え、垂線の基準が本当に右脇で正しかったのかと指摘するファンもいた。
この点に関して、家本氏も「オフサイドではない可能性もある」と意見を展開。「映像を見る限り、脇とは別の部位が最終ラインなのではないかと思っている。アップにしてみると、赤の線に(横浜FC選手の)つま先が掛かっているように見えるため100%オフサイドとは言い切れない」と自身の見解を述べた。
類似した例として湘南FW町野の抜け出しシーンを紹介
一方で、VARのオフサイド判定に関していえば、同日に行われたサガン鳥栖対湘南ベルマーレ(1-5)では何度も介入が実行される場面があった。
特に、前半36分の湘南の2点目につながった抜け出しの判定は名古屋ユンカーのシーンと類似している。
MF石原広教のスルーパスに抜け出したFW町野修斗が折り返してFW大橋祐紀が得点を決めた場面で、町野の飛び出しは一度副審がフラッグアップ。VARが介入し、「3Dライン」で確認の結果、鳥栖の最終ラインの選手のつま先が残っていたことでオンサイドとなり得点が認められた。
家本氏は「湘南の得点は名古屋ユンカー選手の件と類似していて、かつクリアに正しい判定が導き出されている」と見解を示し、新たに導入された「3Dライン」によるジャッジで、異なる印象を与えていたことを指摘していた。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。