未知の世界でゼロからスタート なぜ東大元JリーガーはIT業界でのセカンドキャリアを選んだのか

IT業界に転身した久木田紳吾【写真提供:SAPジャパン】
IT業界に転身した久木田紳吾【写真提供:SAPジャパン】

【元プロサッカー選手の転身録】久木田紳吾(岡山、松本、群馬)後編:欧州最大級のソフトウェア企業「SAP」の日本法人に就職

 東大初のJリーガーとして、2011年にJ2ファジアーノ岡山に加入して注目を集めた久木田紳吾(33歳)は今、ソフトェア企業の「SAP(エス・エー・ピー)ジャパン」で働いている。セカンドキャリアでなぜこの道を選び、ビジネスの世界で成し遂げたい目標は何なのかを聞いた。(取材・文=石川遼)

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 久木田は東京大学を卒業し、2011年に岡山と契約。東大卒として史上初のJリーガーとなった。J2松本山雅FC、J3ザスパクサツ群馬を渡り歩き、2019年に通算9年間にわたるプロキャリアに終止符を打った。

 引退後には、SAPジャパンに就職。ドイツに本社を置く欧州最大級のソフトウェア企業の日本法人だ。就職が決まった時点では業界に関する知識はもちろん、仕事に必要なITスキルすらも持ち合わせていないゼロからのスタートだった。

「僕の今の仕事は『アカウント・エグゼクティブ』と言って、日本語で分かりやすく言えば法人向け営業ですね。ただ、厳密には営業以外にもやれることがあって、“総合窓口”という感じ。初めはお客さまのことも、SAPの製品のことも何も分からなかった。そのなかで、まずはお客さまのことを理解することから始めました。会話の中から顧客が何を求めているのかをキャッチアップし、分からないことがあれば調べて、誰かに聞いてということをひたすら繰り返していました」

 Jリーグからビジネスの世界へ。身を置く環境も、仕事の内容も一変し、右も左も分からないところからのスタートだったが、選手時代に培った能力は今の仕事にも十分に生かせている。その能力は2つあるという。

「まず1つはオーナーシップ。与えられたことには、自分で責任を持ってやるべきことはやるということですね。これはサッカー選手時代に身についたというか、すり込まれたというか、そうせざるを得なかったという部分。サッカー選手は激しい競争の世界で、そのなかで自分の序列が今どのあたりなのか、ほかの選手と比べて自分が上手いのか下手なのかがおのずと分かってきます。そういう競争からは逃げられないですし、序列が下がって試合に出られなくなったら『今年クビになるだろう』ということも自分で分かります。こういうマインドを持てていることは、ビジネス界でも役に立っています。周りのせいにせず、やるべきことをちゃんとやり続けられる能力というのは意外と差別化要素になるんだなと実感しています」

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