広島×清水戦の「警告→一発退場」判定変更は妥当? 元主審・家本政明氏が考察「現場の判断は非常に難しい」…審判団を称賛

広島のDF塩谷司が退場になったシーンを解説【写真:徳原隆元】
広島のDF塩谷司が退場になったシーンを解説【写真:徳原隆元】

【専門家の目|家本政明】広島×清水戦、VARの成果が出たジャッジ

 9月3日のJ1リーグ第28節の鹿島アントラーズ対浦和レッズの一戦(2-2)で「家本政明LABO」というオンライン同時視聴イベントを開催した元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏。レフェリー目線の独自解説が好評を博したなか(※見逃し視聴チケットは5日から購入可能。詳細は「家本政明LABO」公式サイトまで)、家本氏が「FOOTBALL ZONE」の取材に応じ、同日に行われたJ1リーグ第28節のサンフレッチェ広島対清水エスパルス戦(2-0)のジャッジについて解説した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 今回、取り上げたのは後半15分に広島のDF塩谷司が退場となったプレーだ。広島の攻撃を凌いだ清水は、自陣からカウンターに転じる。最前線でFWチアゴ・サンタナが身体を張ってボールを収めて、相手2選手に倒されながらも、バックパスを味方につなぐ。そこから右足アウトサイドの1タッチパスが前線に出たところに、清水のMF乾貴士が走り込む。

 センターサークル内から徐々に右サイドへ流れていってボールを受けた乾は、少し減速してからゴールへ直線で迎えるように進路を取る。この時に対応した塩谷が、乾を倒してカウンターを食い止めた。副審の目の前で起きたファウルに対して、福島孝一郎主審はイエローカードを提示。しかし、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が入り、約5分の中断後、塩谷はイエローカードではなく、レッドカードという判定になった。

 このジャッジについて家本氏は、「VARが入って修正したことで、妥当な判定に持っていくことができたなと思っています」と、VARを含めた審判団を評価した。

「現場の赤か黄色かという判断は非常に難しいので、最初にイエローカードを出した判断についても十分に理解はできます。あの現場の方向感で、倒された位置が右サイドであり、ゴールからも距離がある。さらに中央には広島の別の選手が戻ってきていました。そういう状況を考えても、一発で『赤』とジャッジすることは非常に難しい。DOGSOの成立条件を考慮すると、現場では“オレンジ”と感じるなかで、『赤か、黄色か』を、ためらいながらも決断しなければいけません」

 絶対的な確信が持てない場合、処分を一段階下げることは判断として妥当だという。「疑わしきは罰せず」ということだ。そして、VARで起きた事象を細かくチェックできた結果、この場面はDOGSO(通称ドグソ/Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity/決定的な得点機会の阻止)であり、一発退場が適切と判定された。

 家本氏は、「ジャッジは非常に難しかったと思います。最初、乾選手は中から外に行っていますが、最終的にはゴール方向に向かっていると言える状況でファウルを受けています。さらにファウルが成立した時点で、中央にいたDFがカバーに追い付けるかというと、ちょっと追い付けない位置と距離にいます。これにより、競技規則上もDOGSOとなる4要件を満たしているので、VARが介入したことも妥当ですし、主審が映像を見直して、自身が一度下した判定をイエローカードからレッドカードに修正したことも妥当だと思います。個人的には、この一連の流れは非常に納得感あるものです」と続けた。

 DOGSOの4つの要件とは、「反則が起きた位置とゴールまでの距離」「プレーの方向」「守備側競技者の位置と数」「ボールをキープできる、またはコントロールできる可能性」となっている。これを瞬時に判断するのは、鍛えられたレフェリーであっても、簡単なことではない。だからこそ、今回の判定についてはVARが導入された意義が現われている。

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家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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