J1清水、監督交代で白星再スタートも楽観視できない訳 「監督が替わって勝てるなら毎試合で替えた方がいい」の重み

清水の監督に就任したゼ・リカルド氏【写真:下舘浩久】
清水の監督に就任したゼ・リカルド氏【写真:下舘浩久】

【J番記者コラム】ゼ・リカルド氏を新監督として招聘、初陣の福岡戦で3-1と白星発進

 平岡宏章監督の契約解除から8日後の6月7日、清水エスパルスはヴァスコ・ダ・ガマを数日前まで指揮していた現職監督のゼ・リカルド氏を新監督として招聘すると発表した。そこから1週間後、清水の練習場の三保グラウンドで初練習に臨んだ。当日の午後に行われた新監督就任会見で大熊清ゼネラルマネージャーは新監督の招聘理由を「コレクティブに、そして攻守にインテンシティーが高いサッカーをやっている。それが清水の目指す『主導権を握るサッカー』に通ずる」と話し、Jリーグ初采配となる不安については「チームは生き物。変わらないリスクもあれば変わるリスクもある」とリスク覚悟での招聘であることも明かした。

 ゼ・リカルド監督は現状の16位という順位から脱出するためには「選手たちの自信を取り戻す」ことをベースに「戦う姿勢を全面に出して90分を通して戦う」ことだと話した。監督初采配は4日間の準備期間しかない6月18日のJ1リーグ第17節・アビスパ福岡戦。福岡はここまで失点が「10」とリーグ最少失点を誇るチーム。いまだにホームゲームで勝利がない清水は前節のFC東京戦で開幕ホーム未勝利のクラブワースト記録を更新し、この試合で勝利できなければそのワースト記録もさらに伸び9試合となる状況で、もし負ければ最下位の18位になる可能性もあるなど、プレッシャーのかかる試合でもあった。

 前日の会見では大きな変化で選手に迷いが生じてしまわないようにシステムもこれまでどおりの「4-4-2をベースとする」と話したが、実際には大きな変化が見られた。

 1つはシステムを守備時に「4-4-2」、攻撃時は2ボランチの一角のMF宮本航汰をアンカーにしてボランチのMF白崎凌兵と2トップの一角FW神谷優太をインサイドハーフのポジションへ配置。両サイドハーフのMF後藤優介とMF西澤健太をタッチライン際の高いポジションを取らせFWチアゴ・サンタナとの3トップを形成し、「選手の立ち位置を変えることで相手に脅威を与えることができる」と可変システムを採用した。

 2つ目はゴールキックから開始する際に4バックの4人全員を下げて横並びとし、ビルドアップの安定を図り、相手を引き付け中盤にスペースを空けさせ攻撃を組み立てた。その結果、清水のこれまでとは違う戦術に福岡の対応が整わず、前半7分に西澤が先制点を決め、前半終了間近の41分にはチアゴ・サンタナの豪快ヘディングシュートが決まり前半を2-0で折り返すことに成功した。

 そのほかにもコーナーキック(CK)では左右のキッカーを変え、プラスして一工夫を加えていた。また、古くは三都主アレサンドロ、市川大祐の両サイドバック(SB)のタイミングの良い上がりからのクロスが清水の攻撃の代名詞となり、今シーズンもDF山原怜音のクロスは清水の武器となっていたが、ゼ・リカルド監督は相手のカウンター攻撃を警戒し、SBの攻撃参加は極力控えて守備に集中することを求めた。ただし、守備陣の攻撃参加をまったく認めていないわけでなく、そこはブラジル人監督らしく「創造性」にも重きを置き、2得点目はセンターバック立田悠悟の持ち上がりからであり、両SBの2人もそれぞれこの試合では2本ずつのシュートを放っていた。

 前半は準備してきたことが上手くハマり理想の展開となったが、後半は福岡が対策し、プレスの強度を高めたためにビルドアップが思うようにいかずに押し込まれる時間が続き、我慢し切れずに後半35分に失点。しかし、後半40分に途中出場のFWベンジャミン・コロリが3点目を決めて3-1で6試合振りの勝ち点3を獲得。新監督の初陣を今シーズンのホーム初勝利で終わることができた。

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下舘浩久

しもだて・ひろひさ/1964年、静岡市(旧清水市)生まれ。地元一般企業に就職、総務人事部門で勤務後、ウエブサイト「Sの極み」(清水エスパルス応援メディア)創設者の大場健司氏の急逝に伴い、2010年にフリーランスに転身。サイトを引き継ぎ、クラブに密着して選手の生の声を届けている。

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