ドイツ代表、人気低迷→回復の舞台裏 ピッチ内外で魅力満載、フリック体制下で進む“プロジェクト”とは?

試合へのこだわり、勝利への飢えが強まる代表チーム

 義務だからではなく、「全力で守備をしようぜ!」という欲求を引き出せるかが重要なのだ。素晴らしい守備をした時に感情を爆発させるほど喜び、それを味方選手と分かち合えるかどうか。例えばイングランド戦の後半10分、見事なコンビで左サイドを突破してきたイングランドだが、最後の1対1でCBニコ・シュロッターベック(フライブルク)が見事なブロック。ガッツポーズを見せるシュロッターベックのもとに、GKマヌエル・ノイアー(バイエルン・ミュンヘン)やCBアントニオ・リュディガー(レアル・マドリード)が駆け寄り力強くハイタッチした。ギリギリのところでクリアしたルーカス・クロスターマン(RBライプツィヒ)にノイアーが大喜びで抱きつくシーンもあった。

 試合終盤にはリュディガーがチームメイトに叫んで気合いを入れる。ノイアーが拳をたたいて鼓舞する。良い試合をするだけではなく、しっかりと試合を勝ち切れるようになるためにと、それぞれが支え合おうというアクションが随所に見られるのが印象的だった。

 試合へのこだわり、勝利への飢えがどんどん強くなってきている。だからこそ6月シリーズ4試合目のイタリア戦では5-2と大勝しながら、終盤ちょっとしたミスから2失点したことにノイアーは怒りを露わにしていた。勝ったからいいのではない。良い試合内容で終わったからいいのではない。

 トーマス・ミュラーはフリック監督とともに取り組んでいる“プロジェクト”がいいものであるのを認めたうえで、イタリア戦後に次のように話している。

「まだすべての分野で足りないところがある。どんなチームにも負けないようなパーフェクトなチームになりたいのであれば。特に“サッカー的な賢さ”のところはまだまだ」

 どれだけ優勢的に試合を進めていても、決定的なシーンでミスが出て得点機を逸したり、失点をしたりしたら、試合には勝てない。ベスト4以上に進出できるチームとなるために、ドイツは飽くなき野心で自分達のやるべきことを見つめ続けているのだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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