ひと際目を引いた久保建英の表情 ガーナ戦前ウォーミングアップ時、カメラは何を捉えた?
【カメラマンの目】ガーナ戦に臨む前に見せた久保のワンシーンに注目
サッカーは選手、スタッフ、レフェリー、記者・解説者、フォトグラファーなど、それぞれの立場から見える世界がある。22歳の時からブラジルサッカーを取材し、日本国内、海外で撮影を続ける日本人フォトグラファーの徳原隆元氏が、日本対ガーナの一戦を現地取材。カメラマンの目に映った独自の光景をお届けする。
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「一歩、二歩目を大事にしていこう」
ガーナとの対戦を前にノエビアスタジアムのバックスタンド側でウォーミングアップを行う日本の選手たち。ダッシュを繰り返す合間の給水の際に吉田麻也がチームメイトたちに向かってかけた言葉がこれである。
フィジカルを武器とするアフリカの選手のドリブルは力強く、球際での争いも激しいものとなる。試合の趨勢を握る局面の勝負で勝利するには、相手との距離をより詰め自由にさせないことが重要になる。ディフェンスの選手となればより接触プレーで負けるわけにはいかない。このキャプテンが発した言葉はチームメイトだけでなく、自分自身に向けられた言葉であったのかもしれない。
そうしてウォーミングアップを黙々とこなすサムライブルーたちの表情は、試合が近付くにつれ引き締まったものとなっていく。そのなかでひと際、集中した表情を見せていたのが久保建英だった。その表情から察するに、彼が強い思いを秘めてこのガーナ戦に臨もうとしていたことは明らかだった。
最近の久保のプレーはおそらく彼自身が一番感じていただろうが、決して納得する内容ではなかった。持ち前のテクニックで相手DFをかわすが、ゴールに近づいた最終局面となると敵守備網に突破を阻まれたり、味方へのパスを選択しても正確性を欠く場面が見られていた。
ゴール前に迫れば相手守備もより厳しくなりスペースもない。最前線で光彩を放つことは簡単なことではないが、攻撃の選手としてはゴール、あるいはそれを生み出すための決定的な仕事ができなければ、それまでのプレーで人々を魅了する華麗なテクニックを見せたとしても、評価を上げることはできない。魅せることはできるが、実働を考えると絶対の選手とはなり得ていない。それが久保の評価へとなりつつあった。
こうした状況下に置かれていた久保としては、序列を上げてレギュラーを奪取するためには何としても自分の存在意義を示す必要があった。そして背番号11はこの先発出場のチャンスに好プレーで結果を出した。チームの良い流れに乗ったと言ったほうが的確かもしれない。
日本は先のブラジル戦では力を発揮できなかったが、カタール・ワールドカップアジア最終予選の序盤戦で躓いたことが転機となり、組織的な守備が向上し、ボールを奪ってからの手数をかけないスピードに乗ったカウンター攻撃を繰り出すシンプルかつダイナミックなサッカーを展開するようになっている。
ガーナ戦の久保は、このスタイルに上手く適応した。攻撃陣を形成した三笘薫と堂安律に呼応するように、ボールを縦へ素早く繋ぐ意識を強く持ったプレーでガーナ守備網を攻略していく。ボールを前線へと運ぶ手段はテクニックの見せどころであるドリブルに限らず、パス攻撃にも表れ、ガーナDFの接近を察しては素早くボールを繰り出していた。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。