ドイツ育成現場から考える「日本スポーツ界の暴力・暴言根絶への道」 不適切な指導で”クビ”は普通――優先順位を間違えてはいけない

秀岳館高サッカー部の暴行疑惑で現場の課題が浮き彫りに(※写真はイメージです)【写真:Getty Images】
秀岳館高サッカー部の暴行疑惑で現場の課題が浮き彫りに(※写真はイメージです)【写真:Getty Images】

【ドイツ発コラム】「暴力・暴言問題」後編――何をやってもいいわけではないという線引きを明確に

 前回のコラム(前編)では、ドイツのクラブにおける取り組みとして、「無犯罪証明書の提出」「厳格な対処」「指導者を1人で行動させない」「指導者同士の組み合わせ」について紹介させていただいた。

 今回のコラムでは、さらに4つのポイントについて紹介したい。

【5】指導者を統括する立場の存在

 指導者と選手、指導者と保護者、指導者と指導者の間で何もかもがすべて円滑で上手くいくということは、正直そうはない。人間同士いろいろと問題が生じることもあるだろう。そうした時に、当事者同士だけではなく、間に入って話を聞き、方向性を一緒に見出してくれる存在はとても大切だ。ドイツであればどんなに小さな町・村クラブでも育成部長のような立場の人がいて、その役割を担ってくれている。

 指導者にとっても、保護者からのクレームすべてに対処するのはなかなかに大変なことなので、こうした立場の人がいるのは大きな助けになる。

 このポストに就く人に求められるのは「人間性」「コミュニケーション能力」「オーガナイズ能力」「サッカー愛」「クラブ愛」「指導者理解」。サッカーとはどんなスポーツで、それぞれの年代にはどのようなことが大切で、指導者にはどんな能力があることが必要で、どんな要素に取り組むべきかを知っていて、そのためにはどんな指導者をどの年代に誰と一緒に起用するのが最適かを判断できる人が望ましい。

 結局のところ現場における問題というのは、このポストに就く人が正しい人選ではないために生じることが多いのが現実だ。それだけに、クラブとしてもここの人選は非常に重要だし、同時にすべてを育成部長の責任として押し付けるのではなく、その人を中心に機能するような決定機関や方法を作り上げることが必要となる。1人に押し付けるとその人がいなくなった時にバタバタになってしまうというのは世界中いろんなところで起こる問題ではないか。

【6】指導者に求める要素を正しく提示

 何より大事なのは、クラブとして指導者に求めている要素を正しく提示することだ。ドイツのグラスルーツでは、ほとんどがボランティアコーチ。自分の時間を使って指導してもらっていることへ最大限のリスペクトを持ちながら、だからと言って何をやってもいいわけではないという線引きを明確にすることは欠かせない。だから町・村クラブであっても、ボランティアコーチとしてやってもらっているとしても、不適切な指導をしている場合は、クラブからクビを告げられることが普通にある。

「試合に帯同しているのに試合の間一度も出場できなかった」「出ても5分だけですぐに交代させられた」「何試合もメンバー入りさせてもらっていない」「指導者にひどい言葉を言われた」「首根っこをつかまれた」ということがあれば、すぐにクラブへと連絡は入る。

 育成部長やチームのほかのコーチとともにミーティングをし、厳しく注意をし、改善点を明らかにし、それでも繰り返しそうした問題が生じたら、クラブはすぐに対応する。

 スポーツにおける優先順位を間違えてはいけないのだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで、さまざまなレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、16-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで精力的に活動している。

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