ドイツ育成現場から考える「日本スポーツ界の暴力・暴言根絶への道」 不適切な指導で”クビ”は普通――優先順位を間違えてはいけない

基準を丁寧に打ち出すことで、保護者や選手とコミュニケーションも取りやすくなる

【7】定期的なコーチ会議

 ボランティアコーチに正しい認識を持って指導に取り組んでもらうためにも、定期的なコーチ会議には意味がある。クラブとしてどんなことを求めているのか、どんな問題があったのか、どんな改善策が必要なのか、なぜ大切なのか。そうしたことを知識として学ぶ機会を作ることが大事なのだろう。お父さんコーチとして新しく入ってきた人には、経験あるコーチがサポートに入っていろいろと教える機会を持ったりしている。

 また、地方サッカー協会や近くにあるブンデスリーガクラブが主催となって地元の指導者対象に無料講習会も開催されるので、そこへの参加を促すことも少なくない。強制ではないが、学ぶことで指導現場での取り組みが上手くいくようになり、学ぶことの大切さ、楽しさを知れるようになると最高ではないか。

【8】保護者への啓蒙活動

 厳しい指導をした方がいいと考える保護者はドイツにもいる。熱心すぎる両親の中には、「小さい頃からもっとサッカーが上手くなるようなトレーニングを!」というのを要求する人もいる。どれだけ指導者が子供たちのためにと思ってプログラムをしても、それを物足りないと不満を口にする保護者がいたらやりにくいことこの上ないのは確かだ。

 僕が所属しているクラブでも幼稚園年代のコーチから、最初の試合前に「なんで上手い子だけでチームを組まないんだ?」「この組み合わせだと試合に勝てないんじゃないか?」という質問が保護者から出てきた、と相談を受けたことがある。

 子供たちが経験を積み重ねている段階であるのと同じように、親もまた親としての経験を積み重ねることが大切であり、その過程で学ぶことが必要になる。

 だからこそ、クラブに加入してきた時から、「サッカーというスポーツのあり方」「サッカーはチームスポーツだということ」「それぞれの年代で取り組み方」「自立した大人になるために大事なこと」「子供たちの成長に大切なこと」「保護者として子供たちのためにすべきこと」などを丁寧に伝えていくのが必要になる。

 そうやった基準を丁寧に打ち出すことで、保護者や選手との間でコミュニケーションも取りやすくなる。

◇   ◇   ◇

 暴力・暴言なんてあり得ない。サッカーは、スポーツの現場では子供たちの基本的人権を守り、安心・安全を守り、サッカーやそのスポーツの楽しさ、奥深さを伝えることが第一になければならない。「上手くなる」「強くなる」「大会で勝ち残る」というのはそれがあったうえで、取り組まれるべきものなのだ。どちらかではない。絶対的なベースとして「基本的人権を守り、安心・安全に子供たちがそのスポーツを心の底から楽しめる環境」があったうえで、もっと上手くなるために、もっと強くなるために、そしてもっと好きになるために、どんな取り組みが大切かを追い求めていくことがなければならないのだ。

 今回紹介したドイツの現場での取り組みにしても、すべてが上手く機能しているかというとそういうわけではない。問題はどこにでもある。でもそうした時に、どんな対応をするのか、どのように改善しようとしているのか、ということからは学べることがたくさんあるのではないだろうか。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで、さまざまなレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、16-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで精力的に活動している。

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