「サッカーをする」とは何か? 躍進フライブルクの名監督に会見で直撃――「それなら負けたほうがいい」と語るワケ

記者会見で記者が質問、シュトライヒ監督が説明「私にとってのサッカーとは…」

 記者会見で試合内容について聞かれると、シュトライヒは「最初からいい形で入れた。前線から素晴らしい守備をした。いいタイミングでプレッシャーをかけることができていた。コンパクトに守り、そして我々はサッカーをした。サッカーをすることが大事だ。チームは上手くやってくれた。幸せだ」と試合の振り返りをしていた。

 奇しくもこの日の勝利がシュトライヒにとってブンデスリーガ通算100勝目というメモリアル日となった。メディアとしてはそのあたりの感想が聞きたい。でも当の本人にとってはそうした数字は何の意味も持たない。

 記者会見で最初の質問として「試合後喜んで抱き合っていたスタッフがいましたが、あれはどなたでしたか?」と聞かれると、「みんなと抱き合ったよ」とばっさり。次の記者が「今日が通算100勝目となりましたがご感想は?」という質問がくると、明らかに機嫌が悪くなった。

「強豪レバークーゼンに対して、素晴らしい内容で試合をして、2-1で勝利したんだよ。そ
の試合の後で最初にそんな質問をしないでくれ。サッカーの話をしよう」

 その後いくつかの質問に答えた後、記者会見が終わりそうになったので、最後に質問をさせてもらった。どうしても聞きたかった。

「最初のお話で、今日自分たちは『サッカーをした』と話していました。ではあなたにとって『サッカーをする』とはどういうことでしょうか?」

 シュトライヒはこっちをじっと見て、しばらく考えた後、丁寧に答えてくれた。

「私にとってのサッカーとは、いつでもバリエーションを持ってプレーすることだ。強いチームに対してもサッカー的にアプローチをすることが大切だ。どんな試合でも自分たちでボールを持つ時間を作ることが大事だ。そしてボール失ったら相手に対して適切にアタックしていく。そのためにはピッチ上で自信を持ってプレーできるかどうかが問われる。私たちはボールを持ったら多くの選手がボールに触る状況を作り出す。そして自分たちでボールを持ってビルドアップをしてボールを運んでいく。後ろで守備を固めて守るなんてしたくない。それなら負けたほうがいい。ボールを持ってプレーし続ける。それが私が思うサッカーだ」

 毎年のように監督が代わるのが日常茶飯事なプロサッカーの世界で、シュトライヒのフライブルク監督としてのキャリアはすでに満10年にもなる。「継続は力なり」というが、何をどのように継続しているかが重要なのだ。

 この日の対戦相手レバークーゼン監督ゲラルド・セオアネが「ファンタスティックな監督だよ。これ以上できない以上のことをしている。彼の持つ人間性は本当に素晴らしい。すべての監督にとってお手本となる存在だよ」と称賛していたことがある。

 妥協を許さず、いつでも全力での取り組みを要求しつつ、選手を愛し、どんな時でも全力で守る。そんな指揮官の下、成熟していくチームがブンデスリーガで旋風を起こす。ここからさらにどんな物語となるのか、楽しみでしょうがない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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