片野坂体制の大分トリニータ、地方クラブでも堂々の躍進 6年でJ3→J1へ2段階昇格、”カタノサッカー”の神髄とは

ピッチ全体を盤上のように見立て、理詰めの作業を繰り返す

 そして、片野坂監督が語る「大分があるべき場所に帰ったJ1」での戦いとなった2019年は、カタノサッカーがJ1で通用すること示した。全体の動きは一見複雑に映るが、サッカーの基本を忠実に守っているに過ぎない。

 パスを出したら止まらずに、リターンをもらいにいく。あるいは2、3本先のパスを受けるために動き出す。三角形がひし型になり、それをピッチ全体に網のように張りめぐらせる動きで、相手を喰いつかせては剥がし、最終的にゴールに流し込める状態を作る。

 片野坂監督は囲碁や将棋の指し手のようにピッチ全体を盤上のように見立て、相手にとって嫌な位置に選手を配置させ、狙いどころにボールを誘導する極めて理詰めの作業を繰り返した。

 ただ、J1で2年目となると百戦錬磨の敵将たちも黙ってはいない。数的有利、位置的有利を消すために深く引いて守りを固めるチームもあれば、GKにまでプレッシャーをかけるチームなど様々だ。結果、マンツーマン気味の守備やミラーゲームにされ、個々の能力で抑え込まれた。

 今季はシーズン前に主力の流出が相次ぎ、苦戦の連続だった。守備は失点を重ね、ゴールがなかなか奪えないまま敗戦を重ね、2節を残してJ2降格が決定した。

 片野坂監督は全ての責任を負って退任することが決まったが、「最後まで大分らしいサッカーをして、これまでクラブを支えた方々に恩返しをしたい」と選手に伝え、もう一度チーム一丸となって天皇杯のタイトルを狙った。

 準決勝でリーグ王者の川崎フロンターレに勝利し、浦和を最後まで追い詰め、カタノサッカーを存分に示した。結果は準優勝に終わったが大分の新しい歴史を刻んだのは確かだった。

(柚野真也 / Shinya Yuno)



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柚野真也

1974年生まれ、大分市出身。プロ、アマ問わず、あらゆるスポーツを幅広く取材。現在は『オーエス大分スポーツ(https://os-oita.com)』で編集長を務める傍ら、新聞や雑誌、ウェブなど各媒体で執筆する。一般社団法人日本スポーツプレス所属。

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