世界に衝撃与えた「マイアミの奇跡」 ブラジル相手の得点は“偶然の産物”ではなかった

中田英寿とが城彰二ボールを奪いにいく様子【写真:Getty Images】
中田英寿とが城彰二ボールを奪いにいく様子【写真:Getty Images】

【五輪“初戦”の記憶】1996年アトランタ大会「日本 1-0 ブラジル」…路木の起用に見えたわずかな弱点を突く狙い

2008年北京大会

2012年ロンドン大会

 Jリーグが創設されて3年目、日本サッカーは28年ぶりに長い低迷のトンネルから抜け出した。西野朗監督率いるU-23代表がアトランタ五輪アジア地区最終予選を突破。本大会へ進出するのは銅メダルを獲得した1968年メキシコ大会以来のことだった。

 だが組み合わせ抽選の結果、いきなり日本の前に世界最強の相手が立ちはだかった。2年前にはワールドカップで4度目の優勝を飾り、さらに有望なスター候補たちが沸き上がるように登場していたブラジルが開幕戦の相手に決まるのだった。

 “ドリームチーム”とも呼ばれるブラジルは、大会直前にはニューヨークで世界選抜を下し、自他ともに認める優勝候補筆頭として開幕を迎えるマイアミに乗り込んできた。

 日本にとって“王国”ブラジルは、明らかに雲の上の存在だった。まだ全員がJリーガーの日本に対し、ブラジルはPSVからバルセロナへ高額移籍した“フェノメノ”(怪物)の異名を取るロナウド(当時はロナウジーニョと呼ばれた)、インテルからレアル・マドリードへとステップアップしていたロベルト・カルロス、さらにすでにプレミアリーグに進出していたジュニーニョ・パウリスタらに、リバウド、ベベット、アウダイールという3人をオーバーエイジで加えていた。

 弱点を探り勝機を見出すのは至難の業だった。しかしそれでも日本代表のスタッフは、ブラジルのトレーニングに通い試合の映像を分析し、少しずつチャンスの糸口を炙り出していく。それに対しおそらくブラジルのマリオ・ザガロ監督は、何も日本対策を講じないまま開幕戦を迎えていた。

 7月21日、18時半、まだ十分に日差しが照り付けるマイアミのオレンジ・ボウルで試合は始まった。自信満々のブラジルは、最初からフルパワーで押し込むようなことはしない。ゆっくりと横パスを交えながら、相手の出方を窺い、力を見極めたところで攻撃を加速していく。4-4-2のブラジルに対し、日本は3-4-2-1。守護神の川口能活の前に3人のDFを配し、ベベットは鈴木秀人、サビオには松田直樹が対応。田中誠が統率する。ベベットへのパスを供給するリバウドを伊東輝悦が警戒し、サビオとの連係が多いジュニーニョは本来サイドバック(SB)の服部年宏をボランチに抜擢して注視する態勢を選択した。またブラジルのストロングポイントとなるロベルト・カルロスの強烈な攻撃力に対応するために、日本の右サイドにはしっかりと戦える遠藤彰弘(保仁の兄)を起用。逆に左ウイングバックには、攻撃力の高い路木龍次を配した。実はこの路木の起用に、日本陣営のブラジルのわずかな弱点を突こうとする狙いが隠されていた。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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