酷暑の日本で「サッカーの質」は担保できない Jリーグはシーズン設定を再考すべき
Jリーグでも目立つ、気温30度超えの試合でのパフォーマンス低下
さすがに気温30度を超えると、ピッチ上の動きも明白に落ちる。
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例えば8月17日のJ1リーグ第23節、味の素スタジアムではサンフレッチェ広島が首位のFC東京を1-0で下したが、チームの総走行距離は広島の103.621kmに対し、FC東京が102.556km。スプリント回数は広島が123回、FC東京は153回だった。基本的に広島は焦れずにショートパスをつなぎ続け、FC東京は焦れずに守る。古巣との一戦を「鬼門だった」と振り返った広島の城福浩監督は、「リスクを負ってつなぎ続け、前半で相手を疲弊させたから後半のカウンターが活きた」と総括した。確かに相手に食いつかせてパスを繰り返すことで、FC東京が得意なカウンターの機会を最小限にとどめたのが奏功したと言える。
だが、気温32.1度の酷暑のなかでスタジアムに詰めかけた3万人を超えるファンが、こうした虚々実々の駆け引きを楽しめたかと言えば疑問だ。このコンディションで結果を追求すれば、当然選手たちもペース配分を意識する。同じ条件をマラソンに置き換えても、圧倒的な力の違いや自信の裏づけがなければ、ハイペースで飛び出し、逃げ切りを図るのは難しい。
実際に桁外れの酷暑のなかで開催され、テレビ中継の都合もあり日中に試合を行った1994年のアメリカ・ワールドカップ(W杯)でも、強豪国の極端なスタミナ切れが目についた。象徴的だったのが、ダラスで行われたグループリーグ第3戦のドイツ対韓国で、前半の3点リードを1点差に詰め寄られたドイツの選手たちは終盤完全にグロッキーで、自分の横を運ばれていくボールに足を出すのも辛そうだった。
ちなみにFC東京は、この試合を最後に果てしないアウェーの連戦に出たわけだが、翌週は24度と快適な札幌ドームで、総走行距離106.977km、スプリント回数200回を記録している。一方の広島も、翌週26.7度のホームゲーム(大分トリニータ戦/0-0)では、チーム総走行距離が116.062km、スプリント回数も167回と前週の1.36倍に伸びた。
あるいは7月31日には、浦和レッズ対鹿島アントラーズの一戦が31.2度の条件下で行われ、前所属の清水エスパルス時代から圧倒的な走行距離を誇る白崎凌兵が、試合終了のホイッスルが鳴るなりピッチに座り込んでしまった。この試合でも上下動が激しいサイドバックを抑えて走行距離(11.311km)もスプリント回数(21回)もチーム随一だったが、「今日は本当にやばいですよ」と疲労困憊の様子だった。白崎は山梨学院高校2年生時に、沖縄インターハイで日中の3日間連戦もこなしているが、これほど消耗はしていなかった。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。