W杯での「刹那的な善戦」か「未来図」か アジア勢と監督に見る代表強化の方向性

イラン代表を率いるポルトガル人のカルロス・ケイロス監督【写真:Getty Images】
イラン代表を率いるポルトガル人のカルロス・ケイロス監督【写真:Getty Images】

結果への“最短距離”を歩もうとする欧州の指揮官たち

 思い出すのは、フィリップ・トルシエ監督時代に初めてスペインとアウェーで対戦した時のことだった。

 この時の日本も1トップ以外は守備に専念する戦略を採り、同監督は0-1で終わったことに手応えを強調していた。アジアカップを制して自信満々でパリに乗り込みながら、フランスに0-5と粉砕された後で、何より指揮官が精神的な回復を必要としていたように映った。そしてケイロスやトルシエの選択を見れば、おそらくバヒド・ハリルホジッチ前監督が歩もうとしたのも常道だったのだろう。

 一方で同じアジア代表でも、オーストラリアやサウジアラビアは対照的な戦い方をしたし、コロンビア戦の日本も一部では「スペインのよう」に映ったという。オーストラリアは、前任で同国人のアンジェ・ポステコグルー監督が、何より未来を見据えてポゼッションスタイルへと舵を切った。サウジアラビアは、ロシアにもウルグアイにもポゼッションでは上回り、いずれも500本以上のパスを試みたが、結果は計6失点で連敗した。ハリルホジッチ監督なら「愚かな選択」と酷評したかもしれない。

 ただし反面、日本のファンの間でも、ポルトガルをポゼッションで上回り、再三創造的な崩しで魅了したモロッコの戦い方が共感を呼んでいる。モロッコを指揮したのは、フランス人のエルベ・ルナール監督だが「アフリカのチームは欧州で育った選手たちで構成されている」(ケイロス監督)ので、指揮官と選手たちの間には共通認識があり、特徴を見極め引き出すのも比較的スムーズだったに違いない。

 いずれにしてもアジア諸国がそれまで縁のない監督を欧州から呼べば、当然結果への最短距離を選択する。ただしそれでは刹那的な善戦はあっても、列強と肩を並べることはできない。未来図を描くのは、特性や事情を知り尽くした人間の責務である。方向も詰めずに「夢の国」を望むのは、あまりに虫が良すぎる。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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