W杯での「刹那的な善戦」か「未来図」か アジア勢と監督に見る代表強化の方向性
“アジア最強”のイラン、ケイロス監督は世界に出て極端に戦い方を変更
イランはワールドカップ予選を無敗で通過した。アジアでは傑出した成績だった。
【PR】ABEMA de DAZN、明治安田J1リーグの試合を毎節2試合無料生中継!
だがイラン代表を率いるポルトガル人のカルロス・ケイロス監督は、世界に出ると完全に戦い方を変えた。初戦のモロッコ戦はボール支配率36%、パス数は相手の半分にも及ばない194本(うち成功したのは129本)ながら1-0で勝利した。
勝ち点3を獲得し、次はスペイン戦なので、勝ち点1でも拾えれば上出来だった。そこで最初から低いラインを設定し、5-4-1から6-3-1へと後ろに人を集めて堅守に徹した。ボール支配率は30%で、パス数はスペインの805本に対して219本と大会屈指の乖離が表れた。結果はイランのDFラミン・レザイアンが必死に戻り、ジエゴ・コスタのシュートを阻もうとして逆にボールを相手の足に当ててしまい、これが決勝ゴールとなった。後半9分のことだった。
しかし失点したイランは、その後攻撃に比重をかけると、即座にスペインゴールを脅かすようになり、実際に先制されて9分後には幻の同点ゴールも叩き込んでいる(VARでオフサイドが発覚し取り消された)。もちろん、最初から渡り合っていたら壊滅的に崩されていた可能性もあるが、ここまで守備に重きを置く戦い方が最善の策だったかは疑問が残った。
スペインのフェルナンド・イエロ監督も「危険な相手だ。身体の大きな選手もいるし、組織力もある」と警戒していたように、おそらくイランはアジアで最も世界に伍して戦える潜在能力を持ったチームで、実際に前回ブラジル大会でもアルゼンチンを苦しめている。しかし、それまで欧州を拠点にして来たケイロス監督から見れば、落差ばかりが目についたのかもしれない。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。