森保Jに現れた“飛び道具”「野球選手目指していた」 驚異の飛距離…堂安律が絶賛した26歳

代表初招集4人のうち最長135分をプレーした中野就斗
待望の日本代表デビューを果たしたサンフレッチェ広島の中野就斗が、第3次森保ジャパンに新たな武器をもたらした。低く速い軌道を描く飛び道具のロングスローで魅せた26歳は、広島で主戦場とする右ウイングバックに加えて、システムが<4-2―3-1>に変わった10月5日のニュージーランド代表戦では右サイドバックでプレー。絶妙のクロスで上田綺世のゴールに絡んだ中野は、濃密な代表活動を終えて何を思ったのか。(取材・文=藤江直人)
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待ち焦がれてきた日本代表に26歳にして初めて招集された中野就斗は、所属するサンフレッチェ広島の武器の1つに組み込まれている自身のロングスローに対してこんな持論を唱え続けてきた。
「ロングスローはほぼ気持ちなので。届け、という強い思いが味方のゴールにつながるんです」
広島は昨シーズンから攻撃時にロングスローを導入している。当時のミヒャエル・スキッベ監督(現ヴィッセル神戸監督)は「相手チームにストレスを与えられる」とロングスローを積極的に繰り出す目的を明かし、群馬・桐生第一高校や桐蔭横浜大学でロングスローを得意としてきた中野がスロワーに指名された。
広島が柏レイソルを3-1で破り、3シーズンぶり2度目の優勝を果たした同年のYBCルヴァンカップ決勝。中野は前後半を通じて実に9度もロングスローを投じ、そのうち2つをゴールに結びつけている。
両肩のアイシングやマッサージなど、試合後に入念なケアを施す中野はこんな言葉を残してきた。
「僕は小さいころに野球選手を目指していたので、肩の強さにはかなり自信があるんですよ。僕のロングスローは相手チームにとってかなり脅威になっているはずだし、チームには空中戦に強い選手がたくさんいる。だからこそ、いいボールさえ相手ゴール前へ入れられれば得点できる確率が上がると思っています」
FC町田ゼルビアが多投した2024シーズンにさまざまな批判を浴びたロングスローは、今ではプレミアリーグの複数クラブを含めて世界でも珍しくなくなった。ロングスロー担当コーチを置くクラブさえある。
潮流の1つとなったロングスローを、第3次森保ジャパンも取り入れた。中野だけでなく、町田でスロワーを担うMF相馬勇紀も復帰した今シリーズ。チーム内に新たに生まれた合言葉を中野はこう明かした。
「代表チームでもロングスローをうまく使っていこう、と言われていました」
中野が右ウイングバックの先発を射止め、慣れ親しんだ広島の本拠地、エディオンピースウイング広島で代表デビューを果たした9月28日のベネズエラ代表との国際親善試合。1-1で迎えた後半25分に敵陣右サイドの中ほどで獲得した日本がスローインで、中野が絶対的な自信を抱いてきた飛び道具が初めて披露された。
直前に相手キーパーが倒れ込み、治療で試合が中断していた。その間にタッチライン際に置かれていたタオルで入念にボールを拭き、満を持して放たれた中野のロングスローは相手ゴール前の中央まで飛んだ。
教訓となった失点シーン
舞台を国立競技場に変えて、ニュージーランド代表と対峙した10月5日のキリンカップ決勝。システムが「3-4-2-1」から「4-2-3-1」に変わったなかで、中野はポジションを右サイドバックに変えて2度目の先発をゲット。両チームともに無得点で迎えた前半14分と24分に、ともに右サイドからロングスローを投じた。
5秒ルールもあってタオルではなくユニフォームでボールを包み、急いで表面を拭いてから投じた最初の一投。美しい軌道を描いた低空のボールは予想以上に伸びて、飛び出してきた相手キーパーにキャッチされた。
次の機会でもタオルで表面を拭く時間はなかった。それでも再び低空で相手ゴール前の中央まで飛んだロングスローに、飛び込んできた上田綺世が頭で合わせる。しかし、得点には至らなかった。
実は4分後の前半28分にも、日本は右サイドでスローインを獲得している。そしてロングスローに備える相手の裏をかくように、中野は右サイドに迫ってきたボランチ佐野海舟に普通のスローインでボールを預けた。
そして佐野からリターンを受けると、堂安律や佐野との短いパス交換で右サイドを攻略。最後は久保建英が縦へ抜け出し、ゴールライン際でキープしたボールを戻す。以心伝心でフォローしてきた中野が放った緩やかなクロスを、ファーから相手の最終ライン裏へ入り込んできた上田が巧みに収めて、左足で素早く押し込んだ。
日本の先制ゴールに関わった中野は、前半終了間際に再び久保のリターンを受けて左足で放ったシュートを含めて、伊東純也との交代でベンチに下がるまでの64分間のプレーを次のように振り返っている。
「得点につながった部分もそうですし、ああいう高い位置からのクロスやシュートというのは自分の武器でもあるのでもっと出していきたかった。ああいう(ヨーロッパ組が多い)状況でも遠慮せずにどんどんやっていく姿勢が得点にもつながっていくと思うので、そういうところをもっともっとやっていければ、と思いました」
右サイドハーフとして先発した堂安は、右サイドで縦のコンビを組んだ中野のプレーを称賛した。
「4バックだと僕とタケ(久保)が細かくパスをつないでいるなかで、もう1人の味方が僕たちを追い越してくれると攻撃にさらに厚みが出る。その意味で、今日は中野が本当に攻撃的にプレーしてくれた」
それでも中野は反省点を挙げるのも忘れなかった。たとえばバックパスを相手に渡した前田大然のミスで一気にカウンターを発動され、同点とされた前半32分。高い位置を取っていた中野は自陣へ懸命に戻るも、ゴールを決めたベン・オールドにわずかに追いつかなかった場面を踏まえてこう振り返った。
「速さを含めた相手のクオリティの高さから、ちょっとでも判断が遅れると失点につながってしまう。その後は攻めているときこそ守備を考えながら、それでも攻撃に厚みを出していくところを意識し続けていました」
広島で3バックの一角でプレーする試合はあっても、右サイドバックでの経験はほとんどない。それでも中野は言い訳をしない。むしろ「今回の経験を思い出で終わらせるつもりはありません」と前を向いた。
「この2週間で起きたすべてをプラスにとらえて、映像を見返して改善していくしかないと思っています」
異例の半年契約で来年初頭のアジアカップまで続投することになった森保一監督。今回初招集された4人のうち、中野のプレータイム135分は最長をマークした。2人の追加招集を含めた7人の国内組のなかでも然り。そのうえで異彩を放った自身のロングスローを中野はこう振り返っている。
「なかなか合わせる時間がなかったんですけど、代表の武器になれば、そこは自分の特徴でもあるので……」
シンガポールでブラジル、パラグアイ両代表との国際親善試合に臨む11月シリーズへ。そして、4大会ぶりの優勝を至上命題に掲げるアジアカップへ。再び代表に名を連ねれば、そのときにはさらに熱い気持ちを込めて両腕を降り続ける自身の姿を思い浮かべながら、広島に戻った中野は成長の二文字を貪欲に追い求めていく。

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。



















