村井満氏が辿り着いた境地「180度変わった」 AI時代を生き抜く“スポーツ経営”の価値

前Jリーグチェアマンの村井満氏(右)と中央大の渡辺岳夫教授【写真:増田美咲】
前Jリーグチェアマンの村井満氏(右)と中央大の渡辺岳夫教授【写真:増田美咲】

ビジネスに生かした「ラッキーファンインデックス」

 前Jリーグチェアマンで、現日本バドミントン協会会長の村井満氏は、2027年4月に誕生する中央大学「スポーツ情報学部」で客員教授を務める。開設準備室室長の渡辺岳夫教授との特別対談の最終回は、データ分析がスポーツビジネスにもたらす価値について。またビジネスに対する考え方の変化も明かした。(全4回の4回目/FOOTBALL ZONE編集部)

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 スポーツ界におけるデータ分析は競技の上においてだけでなく、ビジネスの分野でも大きな可能性を秘めている。渡辺教授はポーランドのサッカークラブ「ヴィスワ・クラクフ」の例を出した。

渡辺「ポーランドのクラブでは、その試合のプレーが良かった、あるいはスタジアムで起こる体験を200ぐらいの指標にまとめて、サポーター1人1人に『ラッキーファンインデックス』というのをつけているんです。この指標が高い人には『この人が来ると勝率が上がる』とVIPルームを用意したり、低い人には『このグッズを買うとポイントが上がるよ』と上手くビジネスにも繋げている。これってサポーターの試合への参加意識を高める上で、ものすごく効果があるな、と。『俺はラッキーファンインデックス高いから、今日行ったらチームを勝たせられるかもしれない』と参加意識は高まりますし、面白い施策。スポーツビジネス界を目指す子たちは、その結果をどう社会価値を生み出すことにつなげていくか、付加価値を高めていくかを考えてほしいと思っています」

村井「まだまだサービスを開発していく余地はありますよね。『俺が行くと勝つ』って思っているサポーターやファンたちが、内面にある確信みたいなものを表出させてサービスに転換していくことがやっぱり大事。誰もスタジアムに行けなかったコロナ禍の時に、投げ銭をやったじゃないですか。推している選手にタップすると、直接クラブや選手にお金を届けられる。『見てるよ』『俺ここにいるよ』ということなんですよね。スタジアム空間から離れても『いつもいるよ』という心理だったりする。そういうのはまだまだビジネス化していくことができる。ビジネス化というと平たい言葉ですが、やっぱり一緒に作り上げていくことが大事なんです」

 ファン心理や感情をビジネスに転換していく上で、村井氏がJリーグチェアマン時代に突き詰めて考え抜いたのが「ライブとは何か」というテーマだった。

村井「僕は一時期、ライブって何かということを相当こだわって考えていた時期がありました。なぜかライブの時には拍手が起こる。だけど再現性が保証されている映画やテレビを見ていると、見て感動はするんだけど、拍手するわけではない。歌舞伎にしてもオペラにしても、何百年も同じストーリーをやって、全員が結論を知っている。でも、生身の人間が演じることで、もしかするとあそこで滑って転んじゃうんじゃないか、と固唾を飲んで見守ることがある。

 ライブの定義は、主役とお客様、主客が常に入れ替わって、同時進行で動いていくこと。時にゴール裏のサポーターが主役になる時もあるし、歌舞伎の『よっ、成田屋!』という合いの手を入れる観客が演じる中に加わることもある。主客が入れ替わり、同時進行で動いていく筋書きがないドラマには拍手が起こるということなんですよね。どういう時に人間の心が動き、それをビジネスに再現していくことができるのかみたいなこともヒントがいっぱいあるような気がしますね」

中央大学の教壇で学生に伝えたいこと

 2027年4月から新設されるスポーツ情報学部では、村井氏は客員教授に就任。「スポーツ統括団体(リーグ・協会)経営論」を担当し、潤沢な実経験で培われた「実践知」を伝えていく。リクルートで働いていたビジネスマン時代、Jリーグチェアマン時代、そしてバドミントン協会会長を務める現在を通じ、見えてきたものがあるという。

村井「今回の新設学部にスポーツビジネスという概念があります。僕はJリーグのチェアマンになり、バドミントン協会の会長に就任した時は、いかにスポーツ界にお金が回るか、学校体育の延長線上ではない、運動会ではないビジネスとしてスポーツをどう仕立てていくべきなのかという観点でずっとやってきました。けれども最近、私の中ではむしろ180度逆側になってきていて、『ビジネスがスポーツなんだ』と思うようになってきたんです。

 国際ルールを守りながら国際競争に勝ちに行くというゲームなんですよ。ちょっとしたルール違反をすると、こっぴどくやられる。コンプライアンス経営というのはまさにレフェリーのルールに従ってやっていくようなものですし、必ずしもナレッジやビジネスプラクティスを再現することが今のビジネス界ではなくなってきて、競合が打った手も全部生成AIが分析してくるような状況なので、常に新しいことが求められてくる。環境変化に即座にその場で考えて、リーダーが判断していかなきゃいけないような状況は、ビジネスがまるでスポーツのようになっているんです」

渡辺「面白いですね。ビジネスがスポーツ。学ぶことって、たくさんあると思いますよ。だってスポーツは子どもたちが自分で選んだ種目なら楽しそうにプレーするじゃないですか。でも企業の中で働いている人は意外と楽しそうに仕事していないですよね。それはなぜかと、色々考えていくと、やっぱりスポーツは明確なスコアシステムがありますけど、企業で働いている人たちは必ずしも明示的なスコアがつかない。下手すれば、誰が上司になるかによって、ルールがコロコロ変わってしまいます」

村井「だから、ビジネス界はもっとスポーツから学ばなきゃいけない。逆に言うと、スポーツで学んだ人たちはどんどんビジネス界でスポーツ的なエッセンスで企業経営をしていくべきなんだという、そういう視座に僕は変わってきている。今回、学生と一緒に勉強していきますけども、単なるスポーツクラブで働くだけじゃなくて、『スポーツ経営』という概念を企業経営にどんどん移植していくべき立場の皆さんなんだよ、ということをぜひ伝えたいなと思います」

(FOOTBALL ZONE編集部)



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