カズ効果で「動画が世界に拡散」 福島23歳が欧州移籍も…本人否定「あれで決まったわけじゃないよ」

福島のカズ【写真:徳原隆元】
福島のカズ【写真:徳原隆元】

2ゴールを決めた三浦知良「みんなに助けてもらってプレーできている」

 カズが実に23年ぶりに天皇杯でゴールを決めた。J3福島ユナイテッドのFW三浦知良は8月19日、ホームのとうスタで行われた天皇杯1回戦の大山サッカークラブ(山形)戦に先発出場。PKで2得点し、チームの7-0大勝に貢献するとともに大会の最年長得点記録を大幅に塗り替えた。カズの天皇杯本戦でのゴールは神戸時代の2003年12月23日、準々決勝セレッソ大阪戦の先制点以来。来年2月に還暦を迎える59歳が、大記録を打ち立てた。

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「立ち上がりは難しい試合になるかもしれないと思ったけれど、勝つことができてよかったです」。カズは笑顔で試合を振り返った。前半12分に味方が得たPKを右隅に決めて先制点をマーク。45分の出場予定を延長して臨んだ後半10分にはエリア内で倒されて得たPKを自ら決めてチーム5点目となるゴールも決めた。

 PKだけではなく、チャンスはあった。福島自慢の速いパス回しに加わり、相手DFを翻弄。最前線でフリーになって惜しい場面も作った。これまでほとんど打てなかったシュートも6本。後半13分に交代するまで攻守にピッチを駆け回り、チームの勝利に貢献した。

 106回目の天皇杯だけに戦前の記録は残っていないが、常識的に考えて大記録。日本サッカー協会も「最年長で問題ない」としている。これまでの「最年長」は2021年に北海道コンサドーレ札幌のMF小野伸二がJFLソニー仙台戦で直接FKでマークした41歳255日。それ以前は40歳まで日本代表で活躍したFW川本泰三の41歳105日だった。59歳174日のカズは小野の記録を18年近く更新したことになる。

 天皇杯出場は横浜FC時代の2019年8月14日の3回戦、横浜F・マリノス戦に先発して以来。7年ぶりの出場で23年ぶりのゴールをあげた。ともにPKとはいえ、日本での公式戦1試合複数得点は、京都時代の2000年11月23日のJ1ヴェルディ川崎戦でハットトリックして以来26年ぶり。どれを見ても、驚くべき数字が並ぶ。

 もっとも、カズ自身は数字には関心がない。23年ぶりと聞いても「そんなになるの」と淡々とした様子。それよりも目の前の試合に勝つこと。チームのために貢献すること。プロ41年目の新シーズンに向けて「目標はチームのJ2昇格」と話し、「個人的な目標はない」と話しているほどだ。

 開幕したばかりのリーグ戦では、2試合連続逆転負け。15日のツエーゲン金沢戦はメンバーから外れてアウェー遠征にも帯同しなかったカズにとって、この試合はチームに勢いを取り戻すための大事な一戦だった。試合前の円陣では控え組中心のメンバーたちに向けて「勝ってチームを盛り上げよう」と話した。

 何よりもチームの起爆剤となるのが、カズのゴール。寺田周平監督が「カズさんが決めると盛り上がるし、チームの士気も上がる」と話したように、序盤からカズにボールが集まった。この日FWでプレーして自らも1得点した20歳のDF千葉虎士は「カズさんへのアシストは狙っていました。カズさんが決めると(気持ちも)上がるので」と話した。

 カズの存在でメディアが集まり、チームが注目される。先月25日の天皇杯福島県代表決定戦で切れ味鋭いドリブルからカズの公式戦4年ぶりゴールをアシストし「自分が得点するより反響が大きい。カズさんのお陰です」と話した23歳のFW永長鷹虎は直後に欧州移籍が具体化してチームを離脱。クラブ内でも「動画が世界に拡散した効果だ」と話題になった。

 もちろん、移籍の話はそれ以前からあったし、カズも「あれで決まったわけじゃないよ」と笑って否定したが、59歳のプロ選手が周囲に与える影響が大きいのも事実。「みんなに助けてもらってプレーできている」というカズだが、その存在がチームの力になっていることは間違いない。

 2回戦を突破して、26日の3回戦では日産スタジアムで横浜FMと対戦する。「アジアを代表するクラブだし、日本サッカーを引っ張ってきたチーム。福島にとって大きな経験になるけれど、経験するだけではなく勝ちに行く」とカズ。読売クラブ時代から天皇杯では「何度も負けてきた」相手だが、目指すのはJ2昇格を狙うチームを勢いづけるための勝利だ。

 過密日程からカップ戦要員としてプレーしているが「横浜戦の前に、中3日で鳥取とのアウェー戦がある」とリーグ戦を忘れることはない。どんな記録的なゴールより、最優先はチームの勝利、目標を達成することにある。

 この日、2得点にもカズダンスは披露しなかった。先月25日の公式戦4年ぶりゴールのときも見せなかった。周囲の期待は分かっているはずだが、本人は「(得点しても)やらないかもしれませんし、やるかもしれません」と素っ気なかった。

 封印しているわけではなく、もともと決勝点など重要なゴールの後に踊るもの。次に披露するのは天皇杯で横浜相手にゴールを決めたときか、リーグ戦で出場のチャンスに恵まれてゴールしたときか。まだまだ、この日の2得点を「打ち止め」にする気持ちはカズにはない。

(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)



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荻島弘一

おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。

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