アルゼンチンは「手段を選ばない」 神の手、ベッカム退場誘発…試合ごとに増す「ダークな凄み」

2大会連続で決勝進出を果たしたアルゼンチン代表【写真:徳原隆元】
2大会連続で決勝進出を果たしたアルゼンチン代表【写真:徳原隆元】

アルゼンチンは過去7回の準決勝ですべて勝利

 やはり、メンタルだなと思った。準決勝のアルゼンチン対イングランド、決勝進出をかけた試合は開始直後から、いや開始前から異様なムードだった。国歌演奏の時から殺気立っていた。スペイン対イタリアは「ゲーム」だったが、この試合は「闘い」。それが、画面を通しても感じられた。

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 開始直後からアルゼンチンは闘志むき出しだった。球際は激しく、肉弾戦も辞さない。胴タックルに脇固め、頭突きに巴投げ、主審の笛がないのをいいことに、次々と荒業を繰り出す。プレーが止まると、選手たちは主審に詰め寄り猛抗議。これで、主審をコントロールし、相手を精神的に追い詰める。

「勝つためなら手段を選ばない」アルゼンチンの真骨頂だ。86年メキシコ大会でのマラドーナの「神の手」、98年フランス大会でのシメオネの「ベッカム退場誘発」、すべては勝つため、因縁のイングランド戦を制するためのものだ。

 闘志が空回りしてのイエローカードも想定内。今大会は、ここまで9枚。ベスト4進出チームでは最多だ。前回22年カタール大会準々決勝では、オランダ相手に10枚、両チーム合わせて大会史上最多18枚という常軌を逸した試合もしている。

 ラフプレーだけでなく、精神的に相手を追い詰めるのも得意中の得意。挑発行為に時間稼ぎ、相手を苛立たせ、メンタルを破壊して自滅へと追い込む。そういう駆け引きが抜群にうまい。「ここぞ」の場面で見せる恐るべき集中力。今大会だけではない。これまでも、ギリギリの状態から奇跡的な勝利を重ねてきた。それこそが、アルゼンチン代表の遺伝子でもある。

 もちろん、技術、戦術もトップレベル。マラドーナやメッシばかりが注目されるが、他の選手もハイレベルだ。この日も守備選手を増やして逃げ切りを狙うイングランドに対し、右サイドからメッシが何度も仕掛けてエンソ・フェルナンデスが同点ゴールにラウタロ・マルティネスが逆転ヘッド。見事な逆転勝ちを収めた。

 驚くべきは準決勝での強さだ。今回が7回目だが、そのすべてに勝利して決勝に進んでいる。1次リーグは軽く流し、決勝トーナメントで苦しみながらも調子を上げるのが必勝パターン。トーナメント戦に勝つための「術」を知っている。

 歴史的な背景もある。圧倒的な足技、個人技が武器のブラジルに対し、アルゼンチンは肉弾戦で対抗した。ライバルのドリブルをフィジカルで止めた。対戦相手に嫌がられても、関係ない。マラドーナやメッシら「神」がいるのだから。

 逆にイングランドは過度にアルゼンチンを意識したかのようだった。「主審はメッシと仲がいい」「アルゼンチンの青色ユニホームは86年、98年と同じ」などネガティブな報道も多かった。「負けられない」の気負いが、ケインまで自陣に戻して守り切ろうという消極策につながったのかもしれない。

「ミックの呪い」も同様だろう。1人のファンの存在で勝ち負けが変わるわけではないだろうが、その姿にイングランド中が凍り付く。スタンドから、世界中から「負の念」が送られる。同点ゴール後、国際映像はミック・ジャガーが諦めたように首を横に振るシーンを映し出した。その通りに負けた。空中戦に強いストーンズが決勝点を献上するおまけ付きで。

 試合後、選手たちは「マルビナス(フォークランド諸島)はアルゼンチンのもの」と書かれた旗で勝利を祝った。紛争は1982年に起きたものだが、近年石油の埋蔵が分かって問題が再燃したという。FIFAは政治的なメッセージを禁じているし、処分の対象となるのは間違いない。それでもお構いなしに旗を掲げるところに「サッカーは戦争」という執念を感じる(決して褒められたことではないけれど)。

 マラドーナでさえ達成できなかった連覇まであと1勝。華麗なプレーでファンを沸かし、ゴール、アシストと信じられないような活躍を続ける39歳メッシの陰で、強靭な精神力を持つアルゼンチンは試合ごとに「ダークな凄み」を増している。

(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)



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荻島弘一

おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。

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