トルシエ氏が語るオールジャパンは「美しく聞こえるが」 W杯優勝へ示す2つの道「どこまでも世界基準を」

FOOTBALL ZONE公式YouTubeでトルシエ氏と鈴木隆行氏が対談した
2002年日韓ワールドカップ(W杯)で日本中を熱狂に包み、史上初の決勝トーナメント(T)進出を果たした日本代表。当時チームを率いたフィリップ・トルシエ氏と、FW鈴木隆行氏のレジェンド対談が実現した。現在はそれぞれ異なる立場で指導やサッカー界を見つめる2人が、日本と世界の「選手育成」をテーマに激論を交わした。世界最高峰の育成システムを持つフランスの現状と、日本の育成が抱える根深い課題。日本が本当に「W杯優勝」という目標に向かって進むために必要な“ロードマップ”について掘り下げた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部)
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北中米ワールドカップ(W杯)も佳境。スペインとアルゼンチンが決勝に進出し、圧倒的な個を誇り大会を盛り上げたフランスはベスト4入りを果たした。そのフランスは世界最高峰の育成機関「クレールフォンテーヌ」を擁し、ティエリ・アンリやキリアン・エンバペら数々のスターを輩出し続ける。トルシエ氏は、フランスの強さの根源が「驚くほど早い段階でのシステム化」にあると指摘した。
フィリップ・トルシエ氏(以降、トルシエ)「日本の育成は12歳以降のユースや強豪校から力を入れるイメージですが、フランス協会が最も力を入れているのは、実は8歳から12歳の年代なのです。ここに日本の育成システムとの根本的な大きな差があります。8〜12歳の段階で、将来プロ選手になるための特性を備えているかどうかの評価がすでに行われます。つまり、早い段階でフランスのエリート層を特定するのです。フランスでは8〜12歳のための教本が国全体で徹底して共有されています」
ただ、フランスの育成アプローチは「個の表現」。ポテンシャルは身体的な能力や成熟度で判断されることが多い。
トルシエ「フランスは移民が多く、身体能力に恵まれている側面もあります。しかしそれを言い訳にしては進化はありません。この選考によって、選手たちは育成センターへとおくられる。身体能力の高さはもちろん否定しませんが、それ以上に12歳未満の徹底された育成システムがある。この育成の仕組みこそがフランスサッカー最大の強みです」
まずは“集団”よりも「個の表現」を徹底。軸には「創造性」と「主体性」を据える。トルシエ氏は「10年前のことなので記憶違いなら許してほしい」としたうえで「当時の日本の12歳以下のカテゴリには規律もあって、いい指導者もいた。ただどちらかと言えば全員に同じスキルを学ばせる育成だった」と、日本の課題を指摘した。
トルシエ「南米の影響かもしれませんしもちろん大事なこと。日本のエリート選抜はまず学校に基づいています。一方フランスでは、この年齢から創造性を育てる。具体的には3対2や4対3といった実戦的なシチュエーションを経験させる。『誰がどう動くか』『シュートかパスか』。謎解きのような課題が多い。規律や厳格さがより重視されている日本とは考え方が根本的に違います。このアプローチは賛否両論あり日本の指導者からは『早すぎる』と言われました」
「個人主義」のフランスでは、個の強い子どもたちを飽きさせないために「なぜこの練習をやるのか」の意味づけを徹底して説明する。一方で、日本では同じ練習の自動的な繰り返しが精度を高めるコンセプトになっている。この「意味づけ」と「反復」の差は、10代後半の成長プロセスにおいて興味深い現象を生むという。
トルシエ「面白いのは16~17歳でプロになった後、両者が真逆の要素を学ぶことです。日本の選手は海外に出て強い個性や判断力を学び、フランスの選手はプロの組織の中でチームの規律の大切さを学ぶ。入り口は全く違っていても、最終的に同じ『世界基準』というゴールにたどり着くのは非常に興味深いですね」
トルシエ氏は日韓W杯メンバーに「もっとリスクをとってほしかった」と24年来に本音を吐露した。
トルシエ「守備でも攻撃でももっと遊び心を持って自分自身で判断をしてほしかった。決断にはミスがつきものだが、リスクを負うことが必要。私は挑戦し失敗しても怒る監督ではない。そこに理由のある挑戦であれば私はいくらでも歓迎します。失敗を恐れずピッチの上でもっと自分らしさを表現してほしいです」
一方で、現在、首都圏で小学生対象のサッカースクールを4校展開し、育成の最前線に立つ鈴木氏は、日本の育成システムが抱える「現場の歪み」に危機感を抱いた。
鈴木隆行氏(以降、鈴木)「日本のサッカー協会の選抜、育成システム自体はすごく良いんですよ。上手い選手を育成して、どんどん上のレベルへ引き上げる仕組みはある。クラブチームに移った時に環境が厳しいところがたくさんある。特に指導者や、選手に対するコーチングの仕方に課題があります。技術的なことも大事だけど、コーチングの仕方は教育していかないと日本サッカーのレベルは上がっていかないというのはすごく感じている」
鈴木氏の指摘に、トルシエ氏も同意。日本サッカー界が発展するためには、指導者のライセンス制度や多様性において、より「オープン」になる必要があると説いた。
トルシエ「簡単に言うと日本サッカー界はもっとオープンにならなければいけません。隆行氏のように海外経験を持つ人が戻り、子どもたちの視野を広げることが不可欠。これまでは元プロやサッカー経験者など『サッカー界の人間』で仕切られがちでした。しかし最先端の戦術や理論に詳しいジャーナリストや解説者もいる。サッカーは決して経験者だけのものではありません。もっと門戸を広げ、自由で平等な競争環境を作るべきです。もし、現場の指導者が足りないのなら、ヨーロッパの小国のように一般の親御さんでも協会認定のライセンスを取得しやすくすればいいのです」
現在の日本代表は、幼少期に国内で身につけた規律と、海外移籍後に培った主体性がハイブリッドに融合し、過去最強とも言える強さを誇っている。しかし、目標が「W杯優勝」であるならば、現状のスピード感では足りないとトルシエ氏は断言する。
トルシエ「進むべき方法は2つあります。1つは、今のやり方のまま海外組が自然に増えるのを待つこと。ただ、選手たちは中堅クラブで満足せず、『ビッグクラブでプレーできなければ自分のキャリアは失敗だ』と言い切れるほど高いノルマを自分に課し、完璧を求めるメンタリティを持つ必要があります。そしてもう1つは、国内における育成の劇的な変革と『多様性』の受け入れです」
トルシエ氏は、日本が真の世界基準に到達するためには、外の世界に対して門戸を開く覚悟が必要だと語る。
トルシエ「日本はフランスと違い、移民やルーツを多様に持つ選手が劇的に増える国ではありません。しかし、だからこそ徹底した『サッカー強化対策』として、有能な外国人選手や指導者を国内へどんどん招き入れ、内側から世界基準をミックスしていく必要があります。『オールジャパン』という言葉は美しく聞こえますが、それだけが正解ではない。目指すべきはどこまでも『世界基準』なのです」




















