イングランドを苦しめたコンゴの変貌 ストライキ寸前→惨敗から52年…躍進の背景

W杯ノックアウトステージ1回戦でイングランドに1-2で敗れる
52年ぶりにワールドカップ(W杯)に戻って来たコンゴ民主共和国が、グループKを突破しノックアウトステージに進出した。決勝トーナメント1回戦では惜しくもイングランドに1-2で敗れたが、先制するなど優勝候補を大いに苦しめた。
今大会ではアフリカ勢の躍進が目覚ましく、9か国出場してチュニジア以外はすべてグループリーグを突破。16か国中3か国が敗退した欧州以上の成績を残しているので、もはや望外の健闘という捉え方は当てはまらない。
だが52年前に「ザイール」の国名で出場した時は、取り巻く状況がまるで違った。1965年にクーデターで政権を掌握したモブツ・セセ・セコ大統領は、1971年に国名をザイールに変更。その3年後にアフリカ王者になり、W杯初出場も決めた代表チームには破格の報奨を約束した。ところが報奨金は関係者に横領され選手たちには渡らず、苛立つチームはストライキ寸前で大会に臨むことになったという。
当時W杯の出場枠は16か国。今大会の3分の1で、アフリカには1枠しか与えられていなかった。まだ各国リーグには厳然たる外国人枠が存在し、W杯でプレーする大半の選手たちも自国でプレーしていた時代に、ザイールは欧州2か国と前回1970年大会で3度目の優勝を飾ったブラジルと同じグループに組み込まれる。初戦はスコットランドに0-2と食い下がったが、2戦目はユーゴスラビア(当時)に0-9と記録的な大敗。最後のブラジル戦を前にホテルにはモブツ政権の関係者が現われ「このままでは祖国に帰れないぞ」と脅されたという。結局1974年西ドイツ大会のグループ2では、残り3か国の当該対決がすべて引き分けに終わったため、唯一蚊帳の外だったザイールから何点取れたかで順位が決まり、最後はブラジルがスコットランドを1つ上回る3ゴールを奪ってユーゴスラビアに続き2位通過を果たすのだった。
3試合で無得点14失点と惨敗したザイールに、各国のメディアからは「アフリカの参加は大会のレベルを下げる」と批判が噴出し、サッカーで国をアピールしたかったモブツ大統領は一転して興味を失う。今度はモハメド・アリとジョージ・フォアマンが雌雄を決したキンシャサでの世界ヘビー級タイトルマッチや音楽イベントなどに投資するようになるのだった。資金援助が大幅に縮小されたサッカーの代表チームは、次の1978年大会予選では2回戦で棄権。長期低迷に陥った。
しかしそれでも世界への初挑戦で惨敗をしたザイールは、長い歳月をかけて高い潜在能力を発揮していく。1997年にはモブツ政権が失脚。コンゴ民主共和国として生まれ変わった。そして2010年には、同国屈指の人気クラブ「TPマゼンベ」がアフリカ王者としてクラブW杯に出場。準々決勝でパチューカ(メキシコ)を1-0、準決勝ではインテルナシオナル(ブラジル)を2-0で下し、決勝では欧州王者のインテル(イタリア)に挑戦する(0-3で敗戦)躍進を見せた。因みにTPマゼンベは、1974年のW杯にも最多の7人の選手を送り込んだチーム(当時は22人登録)だった。
一方、今大会のチームは、登録26人中20人が欧州のクラブでプレー。人口1億を超える国の血縁からは、次々にタレントが輩出されている。初戦ではスター選手たちで固めたポルトガルに開始早々に先制されながらも落ち着いて反撃に転じる。前半終了間際には、プレミアリーグのニューカッスルでプレーするヨアヌ・ウィサのヘッドで追いつくと、ポストを叩くチャンスも創出。初めての勝ち点を獲得した。さらに3戦目ではウズベキスタンに3-1で逆転勝ち。ベスト16を賭けたイングランドとの対戦では死闘を繰り広げた。
52年間を隔てて2度のW杯で7試合を戦い計1勝5敗1分け。得失点では、まだ「14」ものマイナスが残っているが、帳消しにするのに半世紀は必要なさそうである。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。






















