ポステコグルーが「テーブルを叩いた」 激しく拳を…日本に必要なメンタル強化「引きすぎた」

ブラジルに1-2で敗れた
森保一監督率いる日本代表は現地時間6月29日、アメリカ・テキサス州ヒューストン・スタジアムで行われたFIFA北中米ワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦ブラジル戦で1-2の敗戦を喫した。チームはベスト32で敗退が決定。かつてJ1の横浜F・マリノスやスコットランド1部セルティックなど名門を率いたアンジェ・ポステコグルー氏が日本について分析した。
◇ ◇ ◇
横浜F・マリノスの監督を3年間務め、スコットランドの名門セルティック監督に就任すると、古橋亨梧、岩田智輝、前田大然、旗手怜央、井手口陽介と6人もの日本人選手を次々に獲得したポステコグルー氏は、ブラジルのガブリエウ・マルティネッリが後半アディショナルタイム6分に決勝弾を決めた瞬間、目の前のテーブルに激しく拳を叩きつけたという。
英民放「IT V」が生放送した試合が終了して、カメラがスタジオに切り替わり、冷静さを取り戻したポステコグルー氏は、そんな感情の爆発があったことなど視聴者にはまるで悟らせず、「後半は終始引いた上、プレスが甘くなっていた」と日本の敗因を淡々と語ったが、司会者が「テーブルを叩いた」と明かした。
もう1人の解説者、元マンチェスター・ユナイテッド主将のロイ・キーン氏は「引きすぎた、判断ミスも色々あったと言うのは簡単だが、それがW杯の重圧というもの。結局はその重圧を跳ね退けなくてはこの舞台で勝ち抜くことはできない。問題は日本がこの経験を4年後につなげることができるかということだ」と言った。
F組で日本の戦いぶりは素晴らしかった。強いオランダを相手に2-1とリードされながら試合終盤に劇的な同点ゴールを奪った。チュニジアには格の違いを見せつけた形で4-0大勝。守りを固めたスウェーデンとの最終戦も1-1で切り抜け、無敗で勝ち点5をしっかりと積み重ねた。
もちろん相手はW杯史上最多の5回優勝を誇るサッカー王国ブラジルだ。2006年のドイツ大会では先制点を奪いながらも大量4点をもぎ取られ4-1惨敗した記憶も鮮明に残っていた。しかし、今回の日本なら決して無様な試合はしない。それどころか勝機もある。そんな楽観的な思いを抱かせるほど、今回のグループステージ3試合で日本は安定した強さとクオリティを発揮した。
けれどもそんなポジティブなムードも虚しく、またもトーナメント戦の初戦で敗退した。しかも試合終了間際に決勝弾を喰らった。あれは本当に心が砕けるような決勝弾だった。
あともう少しで延長戦に突入するところだった。本当にほんの2、3分だった。けれどもあの決勝ゴールは、田中碧のらしくないボールロストから始まり、アシストをしたブルーノ・ギマランイスにはプレスがかからず、ゴールスコアラーのマルティネッリへのパスコースもぽっかりと空いていた。
疲れなのか、それとも危険エリアでの反則を極度に恐れたのか、正規の90分が終了する間際のあのときだけ、魔が差したかのように、プレッシャーが緩み、日本の守りに隙が生じた。
しかしこれが勝ち抜き戦に入ったW杯の深淵なのだろう。佐野海舟の先制点はまさに見事の一語だった。ブラジルを負かすのに不可欠なワールドクラスのゴールだった。こんなゴールがブラジル相手に奪えるなんてと、夢心地になった。最高の気分だった。日本中が沸きに沸いたに違いない。
しかし皮肉なことに、この1点が重圧に変わった。
1点をリードしてからの日本は、テーブルを叩いて悔しがったポステコグルー氏が言った通り、あまりにも守備に重点を置きすぎた。前半、4本あったシュートが後半わずかに1本になった。一方のブラジルは前半8本だったフィニッシュに後半は11本を上乗せし、その内5本を枠内に集めた。
佐野が先制したのは前半29分。近代サッカーで残り61分をただひたすら守って相手をゼロに抑えるのは難しい。それがブラジル相手となれば至難の業である。
今回のブラジルは守備に弱点があるとされ、英国大手ブックメーカー「ウイリアム・ヒル」のオッズによれば、日本に勝利した後でもフランス、アルゼンチン、スペイン、イングランドの後塵を拝する5番人気となっている。しかしそれでも優勝候補の5番手、攻撃力には定評がある。そんな相手にボールを持たせすぎては、どんなに守備を固めても、どこかでほころびが生まれてしまうのは仕方がない。
しかも日本が攻めてこないと見下ろして、ブラジルは前に人数を集めて、さらに押し上げを強めた。前半も相手にボールを持たれる展開だったが、先制点を奪うまでは高い位置でのプレスでボールを奪い返し、ブラジル陣営に押し込むシーンも再三あった。
あの先制点前の攻守のバランスを保つ精神的な強さが必要だった。勝ちを意識して1点のリードが心理的な重圧になり、日本本来の攻撃力が完全に影を潜めてしまった。
グループ戦で戦力的には世界に通用するレベルであると証明した日本代表だが、さらなる高みを目指すには、いみじくもキーン氏が言ったように、W杯の舞台で重圧に負けないメンタルの強さを身につけることなのだと改めて実感させられたブラジルとのラウンド32だった。
(森 昌利 / Masatoshi Mori)
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。





















