異国の地で「勝負を見極めなければ」 解任直後の前J1監督がW杯のスタンドで得た再起へのヒント

失意の底から自費でアメリカへ…客席から見つめ直した「指導者の本質」
昨季の絶望的な状況からチームをJ1残留に導くも、今年のJ1百年構想リーグ戦終了後に横浜F・マリノスの監督を解任された大島秀夫氏。失意の底にいた彼は、指導者としての次なるヒントを求め、自費でW杯が開催されるアメリカ・ダラスへと渡った。サポーターの熱気、アルゼンチン代表の在り方、そして日本代表の激闘をスタンドから見つめるなかで、大島氏が取り戻した「サッカーへの熱情」と「新たな決意」に迫る。
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失意のなかで向かったのは、アメリカ・ダラスだった。
6月3日、横浜F・マリノスから解任が発表され、6日、ホームでの最終戦を3-0の見事な勝利で飾った大島氏。失意の中の21日、ダラス行きの飛行機に飛び乗った。
さかのぼること1年前。2025年6月19日、横浜FMは19位から勝点5差をつけられて最下位に沈んでいた。4月にスティーブ・ホーランド監督が退任し、後任としてパトリック・キスノーボ監督が就任したものの、成績不振により6月に解任され、シーズン途中で2度の監督交代劇が起きるという絶望的な状況だった。
そんな中で指揮を引き継いだのが大島氏だった。暫定監督として挑んだ初戦は昇格したばかりの岡山戦。浮上のきっかけにしたかったがこれを0-1と落とす。続くFC東京戦には正式に監督就任して臨んだが、0-3と連敗してしまった。
その後、チームは上向きになり、シーズン終盤には4連勝を記録。そして最後は15位にまで浮上して残留に成功した。しかし2026年、J1百年構想リーグEASTグループでは10チーム中7位という成績を理由に解任を言い渡されてしまう。
「去年は苦しみながらも目標がはっきりしていたから、チームを1つにまとめることができました。ただ、今年はクラブとして1つにすることができなかった。そこは骨身に染みて分かりました」
そんな反省を生かしつつ、次はどうするのか。そのヒントを求めるために大島氏は自分でワールドカップのチケットを手配し、飛行機と宿を予約してアメリカへやってきた。最初に観たのは22日のアルゼンチンvsオーストリア。歩いてスタジアムに向かうまでの間に、まず思うことがあった。
「アルゼンチンから、たぶん高いお金を払って、仕事も休んでワクワクしながら来ているんだと思ったんです。自分も同じ立場としてそういう思いを乗せてやって来ました。そんな人たちの気持ちを受け止めて、その人たちに『やっぱり行ってよかった』と感じてもらえるようにしなければいけないと改めて思いましたね。そして今できる、どんなことをすれば、そういう人たちに応えられるか、また探したいと思うことができました」
再び立ち上がる気持ちになって見た試合はどうだったのか。オーストリアについては「正直アルゼンチンとかなりチーム力の差があると思いました。でもチームで戦い、立ち向かおうとする姿勢には感じるものもありました」という。一方で、アルゼンチンには別の感情を抱いた。
「アルゼンチンは、メッシが守備をしない分、他の10人が必死になって走っている。チャンスだと思ったらメッシのために全員動く。とはいえ、僕はやっぱりサッカーで大切なのはチームであることだと思っているんです。だから献身さにしても、個人のスーパーな力でも、チームを助けるものであれば、それが力になる。どういう役割にするかはチームによるし、個人にもよります。そこをしっかり見極めるのも監督の仕事だと思いましたね」
メッシの2ゴールを見た3日後、同じダラスのスタジアムで大島氏は最上部に近い席から日本vsスウェーデンをつぶさに観察した。
「経験したことのない舞台ですし、結果によって次のステージが変わるようなシチュエーションというのもなかなかないと思います。そんな中でゲームプランは次々に変わる。たぶん監督1人では手が回らないでしょう。だからこそスタッフの力も含めて大切だと思いました」
「そして、どこかで勝負するというのを見極めなければいけない。私は外国人スタッフとばかりやって来て、彼らから日本人はそこをもっと考えたほうがいいと言われていました。今回ワールドカップの試合を見て、自分のそういう部分をもっと鍛えていかなければいけないと感じましたね」
こんな話をした後に、さらにいろんなディテールを語り続けた。日本人の勤勉さなどは特に目に付いたという。口調は熱を帯び、目は輝いた。まるで初々しい指導者のようだった。
大島氏はこの試合の翌日、帰国した。ダラスで決意を固め、日本の地を踏むとすぐに次の一歩を大股で踏み出すに違いない。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。















