383日ぶり弾も「セレブレーションは絶対にしない」 29歳が古巣に誓った”恩返し”「育ててもらった」

C大阪MF上門知樹は岡山戦で383日ぶりのゴールを決めた
ゴールセレブレーションを封印した一戦で、セレッソ大阪のMF上門知樹(うえじょう・さとき)が383日ぶりのゴールを決めた。右膝の大怪我を乗り越え、チームを百年構想リーグ地域リーグラウンドWESTグループの2位に導いた29歳のヒーローが、古巣・ファジアーノ岡山戦で抱いた万感の思いを追った。(取材・文=藤江直人)
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ファーストプレーで目標を成就させた。実に383日ぶりに決めたJ1公式戦でのゴール。空白期間に負った右膝の大怪我も乗り越えた。それでもセレッソ大阪の上門知樹は笑顔を浮かべなかった。
敵地のピッチに投入される直前。29歳のストライカーは“ある誓い”を立てていた。
「自分がゴールを決めてもゴールセレブレーションは絶対にしない、と。そう決めていました」
ファジアーノ岡山のホーム、JFE晴れの国スタジアムに乗り込んだ24日のJ1百年構想リーグ地域リーグラウンドWESTグループ最終第18節。2-1とリードして迎えた後半35分に、柴山昌也に代わって上門は投入された。
絶好のチャンスが訪れたのはわずか1分後だった。キーパー中村航輔が放ったロングボールを、敵陣の中央で1トップの櫻川ソロモンが収める。身長191cm・体重94kgの巨躯を誇るストライカーは、すぐに前を向いてボールを運ぶ。
次の瞬間、絶妙なスルーパスを供給した。ターゲットは右シャドーの位置から櫻川と入れ替わるように最前線へポジションを移していた上門。一気に加速する166cm・61kgの小柄なアタッカーの脳裏には、こんな思いが浮かんでいた。
「ファーストプレーだったので、前へいこう、もうゴールだけ、という意識でした。ソロ(櫻川)が上手くボールを前へもち出して優しいパスをくれたし、練習通りの形だったので、味方へのパスもまったく考えていませんでした」
最終ラインの裏へ抜け出した上門を阻止しようと、3バックの一角を務める大森博が左側から強烈なプレッシャーをかけてくる。それでも背番号7は、ボールと大森との間に自身の体がはさまれている状況を冷静沈着に把握していた。
「ボールが自分の体の右側にあったので、あとは思い切り振り抜くだけでした。入れ、という思いで打ちました」
ボールに触れないと判断した大森がシュートをブロックしようと、スライディングしながら必死に左足を伸ばしてくる。しかし、上門の執念が上回ったからか。大森の左足をかすめたシュートは軌道を山なりに変えて、岡山のキーパー濵田太郎の頭上を急襲する。必死に体勢を整え、伸ばした濵田の右手の先をかすめた一撃が鮮やかにゴールへ吸い込まれた。
「あれが僕の形ですし、相手の足に当たったんですけど、何とかゴールに入ってよかったです」
百年構想リーグ出場7試合目で上門が初めて決めたゴールには、特別な意味が込められていた。昨年5月6日のヴィッセル神戸とのJ1リーグ第15節を最後に遠ざかっていたJ1公式戦でのゴールに、仲間たちがまず喜びを爆発させた。
リザーブだった香川真司が、2試合連続の2ゴールを決めてベンチへ下がっていた20歳の横山夢樹が、ボランチに定着した21歳の石渡ネルソンを含めた全員が笑顔で駆け寄ってくる。誰もが上門の完全復活を告げる一撃を待っていた。
上門の姿は昨年6月4日を最後にピッチから消えていた。横浜FCとのYBCルヴァンカップ・プレーオフラウンド第1戦の後半41分に右膝を痛めて負傷退場。右膝の前十字靭帯および外側半月板を損傷する重傷だった。
長く、辛いリハビリをへてピッチへ戻ってきたのは4月11日。敵地に乗り込んだガンバ大阪とのダービーで途中出場したのを皮切りに、前節まで6試合、計107分のプレータイムをえながらゴールネットを揺らせなかった。
「1年ぶりくらいのゴールだったので、何かいろいろと考えるものがありましたけど、本当に(リハビリを)やってきてよかったと思っています。まだちょっと実感が湧いていないのであれですけど、とにかくホッとしています」
素直に喜んだ上門は、それでもゴールした直後は誓い通りに笑顔とセレブレーションを封印した。
理由はいまも岡山に抱き続ける特別な思いがある。沖縄県うるま市で生まれ育った上門は、県立与勝高校から2016シーズンにJ3のFC琉球へ加入。チームがJ2へ昇格した2019シーズンには14ゴールをマークした。
この活躍が見初められ、2020シーズンに完全移籍で加入した岡山での日々が、上門のサッカー人生のターニングポイントになった。2シーズンでリーグ戦だけで81試合に出場。2020シーズンの7ゴール、2021シーズンの13ゴールはともにチーム最多で、全20ゴールのうち11ゴールを当時はシティライトスタジアムの名称だったホームで決めた。
翌2022シーズンにはJ1のセレッソへのステップアップを果たした。琉球からオファーを受けた高校3年生の時点であまり乗り気ではなく、内定をもらっていった専門学校を経て調理師になる夢を描いていた上門は、J3からJ2を経て国内のトップカテゴリーへと登り詰め、5シーズン目のいまもプレーができる原点は岡山にあると畏敬の念を抱く。
「僕はこのスタジアムで育ててもらい、J1のカテゴリーへいかせてもらったと思っていますし、その意味でもどうしても結果がほしかった。それくらいリスペクトしているクラブですし、いまも感謝しています。なので、結果をもって恩返しがしたいと思っていましたけど、それでもゴールを決めてもゴールセレブレーションは絶対にしない、と」
いまも岡山に注ぐ感謝の思いが、待望の復活ゴールを決めた直後の笑顔とセレブレーションを封印させた。そして岡山のファン・サポーターも上門の凱旋を待っていた。J1へ初めて昇格した昨シーズン。ホームにセレッソを迎えた昨年10月18日のJ1リーグ第34節は、リハビリ中だった上門は不在だった。だからこそ、途中出場する瞬間を待ちわびた。
ピッチに足を踏み入れた瞬間に起こった拍手と、直後に決めたゴールを含めて上門はこう振り返っている。
「僕自身、古巣が相手だったのですごく気合いも入っていました。(岡山の)ファン・サポーターのみなさんはちょっと悔しいかもしれないけど、僕としてはリスペクトの思いも込めて、いい恩返しができたと思っています」
岡山が後半45分に1点を返した一戦は、6分台のアディショナルタイムを耐えたセレッソに軍配があがった。開幕直後こそ黒星が先行しながら最後は3連勝で締めたセレッソは、WESTグループの2位で地域リーグラウンドを終えた。
横山や石渡に象徴される若い力が台頭しているだけではない。4月に29歳になり、復調とともにチームにいぶし銀の彩りを加えた上門が、結果的に2位を確定させる千金のゴールをあげた。ヒーローはこんな言葉も残している。
「早い時間にもっと点を取るという課題はありますけど、それでも最後に勝ち切る力がついてきている。あと2試合、どちらともしっかりと勝ちたいし、次のシーズンにつながるような、いいゲームができたらと思っています」
J1の3位をかけるプレーオフラウンドでは、EASTグループ2位のFC東京と30日にホーム、来月6日にはアウェイで対峙する。ゴールセレブレーションを封印する必要のない最後の2戦へ。上門が静かに燃えている

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。











