2年で5G→得点王も「最低限」 半年で2桁…エースが示した基準「もっとやらなきゃ」

名古屋FW山岸祐也が得点王を獲得
地域リーグラウンドを終えたJ1百年構想リーグで、10ゴールをあげた名古屋グランパスの山岸祐也が得点王を獲得した。2024シーズンの名古屋移籍後は怪我の連鎖に苦しんできたストライカーが32歳にして覚醒を遂げた背景には、シーズンから指揮を執る68歳のミハイロ・ペトロヴィッチ監督の存在があった。(取材・文=藤江直人)
【PR】ABEMA de DAZN、2/6開幕『明治安田Jリーグ百年構想リーグ』全試合生配信!毎節厳選6試合は無料!
J1百年構想リーグで放った24本目のシュートで初めて見せた形だった。
敵地・エディオンピースウイング広島に乗り込んだ、23日の地域リーグラウンドWESTグループ最終第18節。サンフレッチェ広島に1点をリードされて迎えた前半アディショナルタイム2分だった。
敵陣の左サイドでボールをもったDF高嶺朋樹が、前方にいた左ウイングバックの中山克広へ鋭い縦パスを通す。次の瞬間、高嶺は右手でリターンを要求しながら、中山の内側のレーンを駆け抜けていく。
高嶺と中山がホットラインを開通させようとしていた矢先に、山岸祐也の脳裏にひらめくものがあった。
「いままでの自分だったら、(左右からの)速いクロスに飛び込んでゴール、という形がほとんどなかった。自分の得点パターンを増やしていくためにも、新たにゴールできる場所はどこだろうと考えたときに『あそこだ』というのは、この百年構想リーグが始まってからずっと意識しているところではあったので」
中山のリターンを受けて広島ゴールの左側のポケットを突いた高嶺が利き足の左足を振り抜き、セオリー通りに相手キーパーと最終ラインとの間に、低く、かつ速いグラウンダーのクロスを通した直後だった。
それまでは相手ゴール前の中央で気配を消していた山岸が、自身のなかで「あそこだ」と言い聞かせてきたファーへ向けて突如として加速。完全に虚を突かれたからか。広島の選手は誰も反応できなかった。
最後はスライディングしながら、相手ゴール前のスペースを左から右へ通過してきたクロスに、必死に伸ばした右足をワンタッチさせる。同点に追いつく一撃は、山岸にとっても価値のあるゴールになった。
これで百年構想リーグにおいて堂々の10ゴールに到達。8ゴールをあげているチームメイトの木村勇大、ガンバ大阪のデニス・ヒュメットらを振り切ってWESTグループ得点王を獲得した。
山岸はアビスパ福岡時代の2022、2023シーズンにJ1リーグで続けて10ゴールをあげている。このときは、ともに全34試合に出場。プレータイムも、それぞれ2614分と2890分を数えていた。
しかし、期待を背負って名古屋に移籍した2024シーズン以降は怪我の連鎖に悩まされた。2シーズンであげたゴールはわずか5。昨年11月には右足のクリーニング手術を受けて最後の2試合を欠場した。
そして、リハビリ中だった同12月中旬に、ミハイロ・ペトロヴィッチ新監督の就任が決まった。ミシャの愛称で親しまれる、セルビア出身の68歳の指揮官の独自のスタイルを頭に叩き込もうと、同監督が日本で指揮を執った広島や浦和レッズ、北海道コンサドーレ札幌の試合映像をYouTubeなどでチェックした。
長谷部茂利監督(現・川崎フロンターレ監督)のもと、守備に重点が置かれた福岡時代に連続10ゴールをあげている実績を見ても、身長183cm・体重80kgのサイズをもつ山岸は非凡な得点能力をもっていた。
そこへ指揮官が常に標榜する攻撃的スタイルが加わる。最前線を主戦場とした山岸は、通常時の<3-4-2-1>が攻撃時には<4-3-3>や、もっと言えば<4-1-5>になる可変システムへ必死に順応した。
ペトロヴィッチ監督の要求は予想通りだった。攻撃陣を代表するようにシャドーの木村が言う。
「とにかく相手ゴールへ、というプレーを求められています。逆に相手ゴールに向かわないプレーをしたらぶち切れられますからね。実際に練習からよく怒られているので」
実質的なオールコートマンツーマンの守備から、ボールを奪えば相手ゴール前へ。シャドーの木村や和泉竜司、アタッカーながら左右のウイングバックに入る中山克広や浅野雄也らとのコンビネーションを磨きあげた。
そのなかで山岸はフィニッシャーに加えて、木村たちを生かすポスト役も担う。1試合を欠場した百年構想リーグでは出場17試合、プレータイム1139分で、前述したようにWESTグループ最多の10ゴールをあげた。
福岡時代の2022、2024シーズンと比べれば、出場試合数はちょうど半分。プレータイムは2022シーズンの約43.6%に、2023シーズンの約39.4%にとどまった状況でゴール数では並んでみせた。
さらに驚かされるのが、プレータイムに比例するように山岸のシュート数も減っている点だ。
2022シーズンは41本、2024シーズンには55本だった山岸のシュート数はわずか29本。8ゴールをあげた木村の37本やヒュメットの34本だけでなく、10ゴールでEASTグループの得点王を獲得したレオ・セアラ(鹿島アントラーズ)の41本と比べてもはるかに少ない。これらの数字が何を物語っているのか。
名古屋の総得点31は、百年構想リーグを戦ったJ1の20クラブ中で最多だった。放ったシュート総数205本は、広島の235、FC東京の218本に告ぐ3位。チーム全体で数多くのチャンスを作り出している。
そこで相手ゴール前で他のタスクも担いながら、チームメイトたちが作ってくれたチャンスで確実にゴールネットを揺らす。得点王獲得は新たなスタイルのなかで、山岸の決定力がより研ぎ澄まされた証となる。
さらに広島戦の同点弾に象徴される旺盛な探究心も加わる。低く速いクロスをワンタッチで沈めたゴールを「あの形から生まれたのはよかった」と喜んだ山岸は、積み重ねた10ゴールを意外な言葉で総括した。
「最低限かな。チームが首位通過できなかったので、うれしいかと問われたら別にそれほどではなくて」
2節を残してWESTグループの首位に立っていた名古屋は、セレッソ大阪との前節で1-6とまさかの大敗を喫して首位から陥落。逆転へ一縷の希望を託した広島との最終節も2-4で敗れて3位で終えた。
広島戦では山岸が同点ゴールを決めた直後に勝ち越され、エンドが変わった後半開始早々にも追加点を奪われて戦意を削がれた。後半はシュートを放てなかった自分を責めるように、山岸はこんな言葉を紡いだ。
「ゴール以外2度ほどチャンスがあったんですけど、どちらかを自分が決めるとか、勇大が決めるとか、雄也が決めていたら、もしかしたら再びパワーが出て逆転できていたかもしれない。実際、僕たちはそういうチームになっていかなきゃいけない。4点を取られたら5点を取るような、そういうチームにならなきゃいけない」
取られたら取り返すは、ペトロヴィッチ監督が志向するスタイルでもある。決して守備を軽視しているわけではない。まずは攻撃を重視する指揮官のイズムを代弁するように、山岸はさらに続けた。
「フォワードで2桁ゴールを取れるような選手が2、3人は出てこないと、やはり優勝や優勝争いといったものはできない。だからこそ僕たちはもっと、もっとやらなきゃいけないと思っています」
2桁ゴールをマークする一人を、まず自分が担ってみせる。そこへ新天地のシャドーで結果を出した木村、ペトロヴィッチ監督が札幌を率いた2023シーズンに12ゴールをあげている浅野、さらに怪我からの復帰を目指すマテウス・カストロらに続いてほしいとエールを送る山岸は、連敗フィニッシュにも努めて前を向いた。
「ここまで1試合1試合、チームとしても個人としても成長できた部分がたくさんあった。最後の2試合を勝っておけば首位通過だったけど、逆に言えば(3位という結果は)自分たちがまだ成長できる部分だと思う。だからこそ勝負強さというものを選手の一人ひとりだけでなく、チーム全体としても身につけなきゃいけない」
ペトロヴィッチ監督のもと、昨シーズンは16位に低迷した名古屋は8月に33歳になる山岸個人を含めて、チーム全体が右肩上がりの軌跡を描いている。手応えを自信に変えていくためにも、2024シーズンからJ1で4連敗中の天敵、EASTグループ3位のFC町田ゼルビアと対峙するプレーオフラウンドは未来への試金石となる。

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。











