欧州初挑戦→半年で退団「苦しかった」 日本代表から”発破”…心に刺さった「お前はいつ入るんだ」

FC東京の稲村隼翔【写真:徳原隆元】
FC東京の稲村隼翔【写真:徳原隆元】

セルティックから期限付き移籍中のFC東京DF稲村隼翔

 J1百年構想リーグ地域リーグラウンド最終戦。1位を決めた鹿島アントラーズと2位のFC東京の一戦、0-1で敗れたFC東京のCB稲村隼翔は試合後のミックスゾーンで、反省の弁を語りながらも、このシーズンの本音を口にしてくれた。

【PR】ABEMA de DAZN、2/6開幕『明治安田Jリーグ百年構想リーグ』全試合生配信!毎節厳選6試合は無料!

「今、FC東京で経験のある選手たちとプレーすることで学ぶことも物凄く多いですし、何より試合に出続けられることで得られるものは多いと実感しています」

 稲村がFC東京に加入したのは今年1月のこと。スコットランドの名門・セルティックからのレンタル移籍という形だった。

 東洋大学3年時の2023年にアルビレックス新潟入りが内定し、2024年は特別指定選手ながら主軸として躍動。ルヴァンカップ準優勝の原動力の1人にもなった。プロ1年目の2025年はJ1前期を不動のCBとして躍動し、7月にセルティックへの完全移籍を果たして、一気に世界に駆け上がって行った。

 しかし、初の海外クラブでは不遇の半年間を過ごすことに。ベンチ入りにもほぼ絡むことができず、試合出場はわずか1試合でFC東京にレンタル移籍という形になった。

「一言で言うと、やっぱり『自分の弱さを知った』時間でした」

 稲村は静かにあの半年間について振り返り始めた。

「本当に苦しかった。何度も自分と向き合おうと思って、自問自答して、どうやったら試合に出られるのか模索をして。(前田)大然くんや(旗手)怜央くんからもいろいろなアドバイスをいただいたのですが、なかなか事態が全く好転しなくて、考えても、考えても、どうしていいか分からない状態でした」

 大きな夢と希望を抱いての海外挑戦での苦難は想像以上に自分を追い込み、混乱を生み出した。活路を見出せない中で、中学時代に所属をしたFC東京からのオファーが届き、悩みに悩んだ末、一度日本に戻ることを決断した。

「何か変えようと必死になっていた時に、日本に戻る話が来て……。相談に乗ってくれていた大然くんも怜央くんも『環境は自分で選ぶことも大事だし、試合に出ることが本当にサッカー選手にとって大事なことだから、日本に戻ることは100%ネガティブではないよ』と言ってくれた。

 もちろん、たった半年で帰国することは本当に情けないことだし、自分が本当に弱いと思ったし、いろいろな感情がありましたが、大然くんから『年齢的にももう一度やり直せるから、必ず(ヨーロッパに)戻ってこい』と背中を押されて、『もっと成長をして、もう一度必ず戻る』と、今、この時を大事にすると心に決めてFC東京に来ました」

 自分の未熟さ、甘さ、そして世界の厳しさを痛感する形となってしまったが、それはチャレンジした者にしか分からない領域であり、味わえない経験だ。それにJリーグに戻って来たからと言って、必ず試合に出られる保証がない中、彼は24歳のCBとしてFC東京の最終ラインを束ねる存在として躍動をしているのは、彼が決して弱い存在ではないことを実証している。

 チャレンジした強さ、そして戻るという決断をして、その先でもう一度這い上がるために力を発揮する強さを、稲村は持っている。

「あの経験を生かすも殺すも自分次第だと思うので、そういった面では今とても有意義というか、いろんな選手に刺激をもらいながらサッカーができています」

 数ある刺激の中で、前田の「必ず戻ってこい」の言葉と同じように、稲村の心を大きく揺さぶった言葉を1週間前に受けたという。その言葉の主はW杯5大会連続出場という偉業を成し遂げようとしているDF長友佑都だった。

「北中米ワールドカップのメンバー発表があった時に、佑都さんに『おめでとうござます』と伝えたら、『お前はいつ(代表に)入るんだ』と言われたんです。本当に心に刺さったし、悔しさと同時に強く背中を押してもらったように感じました」

 レジェンドからの発破を受けて、さらに奮い立った。前田も長友も決してリップサービスではなく、稲村の実力をきちんと評価をしての言葉だった。裏を返せば、それだけの可能性を持っているのは間違いない。

「僕はもっともっと強い覚悟を持ってサッカーに打ち込まないといけない。そうしないとヨーロッパには絶対に戻れないし、A代表にも入れない。今思うとあの半年間で本当に重要な言葉をたくさんもらっていたのに、あの時は自分にいっぱいいっぱいになってしまって、聞いていたつもりでしたが、素直に心に入って行っていなかった。それも僕の甘さだと思ったし、今からでもその言葉を大事にして、自分にベクトルを向けてコツコツと練習や試合を積み重ねていけば、未来を切り開いていけると思っています」

 まだ何も成し遂げていない。悔しさも情けなさもすべて受け止めて、再起を誓ったからこそ、飽くなき向上心と強い信念を持って今この時を戦えている。本物の強さの意味を追い求めながら、稲村はまっすぐに未来を見つめている。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



page 1/1

安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング