「この人がいたらやられない」 偉大な先輩を理想に…川崎DFが不測のCB起用で示す“野心と忠誠”

川崎フロンターレDF佐々木旭が見据える未来
本職は左サイドバックだが、その守備センスとビルドアップ能力を買われてCBとしてプレーしている川崎フロンターレのDF佐々木旭。CBとしてスタメンフル出場した、J1百年構想リーグ・第17節の町田ゼルビア戦。1-1からのPK戦勝利を手にした後のミックスゾーンで、熱い心の内を聞くことができた。
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それに触れる前に、彼の特徴とこれまでの経緯に触れておきたい。佐々木は右利きだが、左足でも高性能のキックを繰り出せることができ、ボールタッチも両足でそつなくこなすことができることから、縦突破からのクロス、カットインからのクロスとシュート、ボランチやインサイドハーフのエリアまで侵入してからのゲームメークやフィニッシュワークへの関わりと、近代サイドバックに必要とされる能力を持っている。
高校時代は無名だったが、その高い能力を評価されて進んだ流通経済大学で才能が一気に開花。大学屈指のサイドバックとして多くのJクラブの激しい獲得レースの末に、「フロンターレらしいサイドバック」として川崎に加入した。
「Jリーグでナンバーワンのサイドバックになりたいし、もっとやれることを増やして、上のステージで活躍できる選手になりたい」
そう意気込んで川崎に入ると、ルーキーイヤーから左サイドバックとしてチームの主軸になった。プロ2年目は怪我に苦しみ、出場時間を大幅に減らしたが、プロ3年目の2024年以降は再び主軸として躍動するようになった。
ただ、2022年に谷口彰悟が移籍でチームを離れ、2024年からセンターバック(CB)に負傷者が増えたことが佐々木を取り巻く環境を変えた。180cmのサイズがあり、両足が蹴れて、守備力もカバーリングセンスもある佐々木にCBとしての白羽の矢が立ち、そこからはサイドバック・CB兼用として稼働するようになった。2024年は左サイドバック(SB)で10試合、右SBで4試合、CBで19試合にスタメン出場。2025年は左が9試合、右が13試合、CBで10試合にスタメン出場。今年はスタメン出場した全ての試合でCBを担っている。
「今も左SBをやりたいという気持ちは正直あります。でも、今CBとしてやっていることが、左サイドバックに戻った時に必ず生きることはこれまでのシーズンで感じていますし、CBもいつまでも急造ではなく、完璧にこなせるようになれば、冨安健洋選手のようにもっと上の世界で戦える選手になれると思っているので、モチベーション高く毎試合臨んでいます」
町田戦後、こう口にしたように、大学2年時にボランチやトップ下から左SBにコンバートされて以降、佐々木の明確な目標は「左SBのスペシャリストになる」ことだった。
それまで複数のポジションをこなす中で、なかなか明確な居場所が見出せずに苦しんでいた。それでも、自分の持ち味である両足のキック、スピード、高さをフルに生かせる場所として左サイドバックに大きな未来を見出すことができた。
『明確な居場所』を見つけてからの佐々木が描いた成長曲線の凄まじさは、当時リアルタイムで取材をしていて知っている。『急成長』という言葉がぴったりなほど、左サイドバックで伸びた。
前述した通り右利きだが、左足でロングキックやインカーブ、アウトカーブのキックが蹴れるように努力を積み重ねて来た。だからこそ、縦突破からライナーや逆サイドへのクロスを中の状況を見ながら上げることが出来るし、相手を抜き切らないでのアーリークロスも武器だった。さらにカットインをすれば利き足の右で何でもできる。左SBというポジションを大学で確立した時の楽しそうにプレーする表情や躍動感は印象にとても残っている。だからこそ、左SBへのこだわりが強いことは十分に理解できる。
だが、そのこだわりに自分が左右されてしまうこともいけないということも十分に理解している。求められたポジションでしっかりとプレーするという実直さも彼は持ち合わせているからだ。
実は大学4年生の1年間、こちらもチーム事情でずっとCBでプレーをしていた。SBでのプレーを希望していたが、中野雄二監督に「この先、絶対に今の経験が生きるから」と説得され、CBとして自分にベクトルを向けながら1年間真剣にこなした。
中野監督の言葉通り、まさに今あの経験が生きているからこそ、プロの高いレベルで両方のポジションをこなすことができている。
両方にきちんと向き合っている彼の心の内側に今あるものは、左SBに対する熱い思いと、SBとCBのどちらも中途半端にしないという強い信念だ。
「SBでもCBでも『チームを勝たせられる選手』になりたいんです。CBで言えば、谷口彰悟さんが目標で、ルーキーの時の1年間しか一緒にプレーしたことはないのですが、『やっぱりこの人が後ろにいたらやられないな』と安心感がすごかったんです。カバーリングと潰しに行くところの判断とプレーの質がきっちりとしていて、本当に『水を漏らさない守備』を90分間通してやるんです。僕もCBをやる時はそこを意識しますし、そういう選手になりたいという理想像です。サイドバックではCBでの経験を生かして、よりCBの意図や守備面で水を漏らさない立ち位置が取れる選手になれると思います。これまでは相手だけを見てビルドアップの立ち位置を決めていましたが、CBが出しやすいポジション、途中で奪われても守備に入りやすいポジションなどを考えながら出来るので、よりこれまでと違ったサイドバックができると思っています」
野心と忠誠。この2つの心を持った佐々木はまだまだ進化するだろう。冨安のように器用さと技術力を磨き続け、谷口のように年齢を重ねていくにつれて円熟味が増していけば、より大きな存在感を放っていくはず。これから広がる未来に心から期待したい。
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。
















