退場処分→丸刈り猛省「まずは容姿で」 異例の“公開説教”から1か月半…20歳ストライカーが掴んだ“挽回の一歩”

ベガルタ仙台FW安野匠「信頼は僕が決めることではない」
ベガルタ仙台のFW安野匠がプロ2年目で初アシストをマークした。途中出場しながら不要なイエローカードを立て続けにもらい、退場処分を受けて周囲を激怒させたザスパ群馬戦から1カ月半。再出発の覚悟を丸刈りに込めて、信頼を取り戻そうと愚直に前を向き続けてきた20歳のストライカーの思いに迫った。(取材・文=藤江直人)
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急に視界が遮られた。敵地レモンガススタジアム平塚のピッチ上で、仰向けの体勢になってガッツポーズを作っていたベガルタ仙台の安野匠が、全身に別の重みを感じた。誰かが覆いかぶさってきていた。
安野は「南です」と振り返りながら、抱き着いてきた同期入団の南創太からかけられた言葉を明かした。
「お前、よくやったよ、と。本当にうれしかったですね」
湘南ベルマーレと対峙した16日のJ2・J3百年構想リーグ地域リーグラウンドEAST-Aグループ第17節。仙台が待望の追加点を奪い、リードを2点に広げた後半アディショナルタイム6分の光景だった。
仙台のロングボールに、左サイドで梅木翼が反応する。湘南の守護神、上福元直人もクリアしようとペナルティーエリアを飛び出してくるもボールに触れず、しかも競り合った梅木に収められてしまった。
湘南のゴールは無人と化している。すかさず梅木がインスイングで、シュート気味の軌道を描かせたクロスを放つ。ファーへ走り込んできていた安野の脳裏にはこの瞬間、こんな思いが浮かんでいた。
「相手のキーパーが出てきていて、翼くん(梅木)からボールが中へ入って来れば点を決められるかな、と」
新潟県の強豪・帝京長岡高校から加入して2シーズン目。待望のプロ初ゴールが生まれるのか、という期待はすぐに萎んでしまった。ゴールのカバーに入っていた湘南の袴田裕太郎がクロスをカットしたからだ。
しかし、ボールはまだ敵陣に大きく弾んでいた。絶対にあきらめなかったと安野が振り返る。
「自分の前で引っかかってしまったんですけど、まずは(攻守の)切り替えを早くしようと思いました」
袴田に突っかけ、相手の自由を封じる。ボールが相手の間合いにあっても、がむしゃらに体をねじ込んでいく。もちろんファウルはしない。それでいてクリアもさせない。必死に粘る安野の視界に味方が飛び込んできた。
「最後に駿太くん(荒木)の姿が見えたので、駿太くんにどうにかボールをつなげられれば、相手のキーパーも戻ってこられていない状況だったので。それがアシストにつながって本当によかったです」
袴田と激しく競り合いながら、最後は体を投げ出すような体勢から安野が必死に伸ばした右足のつま先がボールにヒット。これがペナルティーエリアの外側に詰めてきた荒木駿太への絶妙のパスになった。
すかさずボックス内へ侵入した荒木が、池田昌生を冷静にかわしてから左足を振り抜いた。
「匠(安野)がよく粘ってくれた。最後は自分が決めましたけど、みんなで取ったゴールだと思います」
百年構想リーグ出場15試合目にしてようやく決めた初ゴールに声を弾ませた荒木が、喜びを爆発させながら左コーナーフラッグ付近へ駆け抜けていく。ピッチ上の、そしてベンチの仲間たちも荒木のもとへ集まる。
もちろん歓喜の輪に安野も加わりたかった。プロになって初めてマークしたアシストよりも、荒木のゴールがうれしかった。しかし、袴田との攻防の影響で思うように体を動かせなかったと打ち明ける。
「その前の守備でけっこう走っていて本当に疲れていたので、喜びにいけずにその場で倒れていた感じです」
苦笑しながらこう振り返った安野は、ペナルティーエリア内で仰向けになったままだった。それでも荒木のゴールは確認できた。勝利を確実なものにしたのがうれしかった。だから人知れずガッツポーズを作った。
宮崎県の強豪・日章学園高校から加入して2シーズン目の南もまた、体を思うように動かせなかった。プロになって3度目の先発を果たした湘南戦で、試合終了を告げるホイッスルを初めてピッチ上で聞こうとしていた。
「駿太くんもものすごく苦しい時間を過ごしていたし、点を決めたい、という気持ちは練習の段階から伝わっていたので。駆けつけたかったんですけど本当に疲れていて、その場に座り込みたかったんですけど」
南が任されていた右ウイングバックから、左コーナーフラッグまでは距離があった。逡巡していた矢先に、ペナルティーエリア内の中央で、仰向けになってガッツポーズを作る安野の姿が飛び込んできた。
気がついたときには安野の上に覆いかぶさり、祝福の言葉をかけていた。後半27分に右サイドからカットインする得意の形で、最後は利き足の左足でプロ2点目となる先制ゴールを決めていた南が振り返る。
「同期のあいつもすごく苦しい時間を過ごしていて、やっと結果を、ひとつアシストを残していた。彼を思う気持ちがありましたし、同期は全員がゴールかアシストを一人ずつ決めているなかで僕も安心したので」
忘れもしない4月4日のザスパ群馬戦。1点をリードした状況で投入された安野は、直後に不必要なイエローカードを立て続けにもらって退場処分を受けた。苦境に陥った仙台は同点とされるもPK戦の末に勝利した。
自分の非を認めない安野に対して、ゲームキャプテンを務めていた松井蓮之は衆人環視のピッチ上で、ユニフォームの左胸の部分をつかみながら激しく叱責。森山佳郎監督も試合後の会見で怒りを爆発させた。
時間の経過とともに我に返った安野は、夜になって松井へ電話を入れて感謝と謝罪の思いを伝えた。松井から「お前のよさを消さずに練習から頑張れ」と檄を受けた安野は、直後に髪の毛を丸刈りにした。
「言葉で伝えるのは本当に難しいし、特に自分はそれが下手なのでまずは容姿で示そうと。中身が変わらないと意味がないですけど、本当にこういう気持ちでサッカーします、という意思を示しました」
出場停止だったSC相模原戦をへて、続く3試合はベンチ入りメンバーから外れた。謹慎の意味合いも込められていただけに、5月2日のブラウブリッツ秋田戦でベンチ入りした際にはチーム内で議論が起こった。
「まだみんなに受け入れられる段階ではないと思いますけど、安野とは『同じような行為は絶対に許されない』とかなり話をしました。ピッチの外も含めて『常にチームを第一に考えて行動してくれ』と」
ベンチ入りさせただけでなく、秋田戦の後半34分から安野を投入された森山監督は、謹慎期間中に20歳になった安野の再出発を後押しした。秋田戦は1-3で敗れ、開幕から続けてきた連勝は13で途切れていた。
3点ビハインドから一矢を報いた同37分の武田英寿のゴールは、相手ペナルティーエリア内で必死に粘り、最後はピッチ上に転がされながらも相手にボールをわたさなかった安野が絡んでいた。
アシストはつかない。しかし、そんなものは関係ない。安野は秋田戦後にこんな言葉を残していた。
「本当に取り返しのつかない行為だったと思っています。自分がした行為はもう変えられないので、心を入れ替えて、自分がチームのために何ができるのかを常に考えながらずっと行動してきました」
湘南戦は秋田戦以来、3試合ぶりに出場機会を得た。初めてプレーする試合会場のレモンガススタジアム平塚のピッチへ、隣接する神奈川県茅ヶ崎市出身の安野は胸中に期する思いを秘めて臨んでいだ。
「両親だけでなく兄、そして親戚も含めて、けっこう大勢観に来ていたので」
常に応援してくれる家族が見守る目の前で決めたプロになって初めてのアシスト。チーム内の信頼を取り戻しながら、再び前へと進んでいくきっかけにしたいのか。こう問われた安野は静かに首を横に振った。
「信頼は僕が決めることではないので。とにかく何かチームのためにしよう、という思いでピッチに立ちましたし、それがああいう(アシストという)結果になって、形になったのはよかったと思っています」
同期の盟友、南の友情が込められた言葉とともに、安野のなかでアニバーサリーが刻まれた2026年5月16日。20歳のストライカーはもちろん満足せず、前だけを見つめながら今度はプロ初ゴールを求めていく。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

















