W杯優勝に必要な調整力「必ず発揮」 優勝国の共通点…スタメン以外に求められる役割

W杯優勝国連載④優勝国は大会中に完成する
アメリカ、カナダ、メキシコの3か国で開催されるワールドカップまであと1か月を切った。8大会連続8度目の出場となる日本代表は、今大会の目標に“W杯優勝”を掲げる。FOOTBALL ZONEでは「W杯優勝国の法則を探る」と題し、これまで優勝経験のある8か国を分析。第4回は大会中の調整力について。(取材・文=中野吉之伴/全6回の4回目)
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ワールドカップが近づくたびに「本大会までにどこまでチームを完成させられるか」が議論になる。連係は整っているか。戦術は浸透しているか。ベストメンバーは固まっているか。
もちろん重要な視点だ。
だが歴代のW杯優勝国を振り返ると、最初から100点の完成度で大会に入ったチームはほとんど存在しない。むしろ世界王者に共通しているのは、グループリーグを勝ち抜けるだけの土台を持ちながら、大会を戦う中でピークを決勝トーナメントへ合わせていく成熟曲線である。
ここで大事なのは、未整備で入ることとは意味が違うという点だ。優勝国は決して準備不足のまま本番に飛び込んでいるわけではない。最低限崩れないベースを持ち、そのうえで大会を通じてチームを100点に近づけていくのである。
2010年南アフリカ大会のスペインは初戦でスイスに0-1で敗れた。大会前の優勝候補筆頭がいきなり足をすくわれ、国内では批判も起きたが、だがビセンテ・デル・ボスケは大きくチームをいじらなかった。自分達が培ってきたことへの自信を揺るがさず、その後は1-0を積み重ねながら徐々に完成度を上げていくことができた。
2014年ブラジル大会のドイツも同じだ。ポルトガルに4-0で快勝し、華々しくスタートしたが、その後はガーナに2-2、決勝トーナメント1回戦のアルジェリア戦も延長戦までもつれた。この苦戦の中で、守備ラインの整理、フィリップ・ラームのボランチから右SBへの再コンバート、負傷選手の復帰、交代選手の使い方などが少しずつ定まっていく。
この大会のドイツで見逃せないのは、代表監督ヨアヒム・レーヴだけの力ではなかったことだ。レーヴはことあるごとに「負傷している選手は本戦では必ず本当の力を発揮してくれる」と口にしていたが、それを現実にしたのはフィジカルスタッフの調整力だったといえる。大会前に負傷を抱えていた選手がいても大会中に100%のコンディションになると確信し、メンバー入りをためらわなかった。
さらにメンタルスタッフも機能した。大会直前、スポンサーイベントでユリアン・ドラクスラーとベネディクト・ヘーベデスが同乗した車が人身事故を起こすアクシデントがあったが、心理療法士の迅速なケアによって精神的な混乱を最小限に抑えたという。またチーフスカウトのウルス・ジーゲンターラーは、ポゼッション一辺倒では危険だと分析し、高温多湿の気候や相手の守備的戦術を踏まえたカウンター対応をレーヴに進言していた。
つまりドイツは、大会中に偶然完成したのではない。専門スタッフを含めた総合運営によって、少しずつ100点へ近づけていったのである。この「完成」には、主力11人だけではなく、交代選手の役割浸透も含まれる。優勝国はスタメンだけが整っているのではない。試合展開に応じて、途中から入る選手がどのスイッチを押すかまで共有されている。2014年ドイツならアンドレ・シュールレは裏への推進力、マリオ・ゲッツェはライン間への侵入だった。
2022年アルゼンチンではレアンドロ・パレデスが守備強度、ラウタロ・マルティネスが前線の圧力といったように、交代が単なる疲労対応ではなく、チームを別モードへ切り替えるスイッチになっていた。さらにはエンソ・フェルナンデスの先発化、フリアン・アルバレスの抜擢、中盤の守備強度向上、そしてリオネル・メッシを中心に据えながら周囲の役割を固定することで、グループリーグの不安定さは決勝トーナメントで消えていった。
逆に、大会中にピークを作ろうとして失敗したのが2018年、2022年のドイツである。18年W杯前最後のオーストリアとの親善試合後にレーヴ監督は、「本番になれば我々は本領を発揮する」と自信満々に語っていたし、ファンも「本番で上げてくるはず」という期待はあった。
だが実際には、守備の基準、主力のコンディション、交代選手の役割、試合を変えるための明確なスイッチが曖昧なまま本戦に入ってしまった。ベースがないまま、ピークを後ろに置こうとしても、修正する土台そのものが存在しなかったのである。
何を修正すればよくなるか以前に「このチームはどうやって勝つのか」が曖昧だった。未完成と未整備は違う。優勝国は未完成でも、勝ち方の骨格だけは明確になっている。それはW杯優勝国の多くがグループリーグ1位で通過していることからもわかる。決勝トーナメントにピークを合わせるためには、グループリーグを勝ち抜ける最低限の完成度が必要になる。土台がなければ、修正を試みる前に大会は終わるのだ。
そして忘れてはいけないのは、一昔前と比べてそれなりのベースでグループリーグを突破できるほど今のワールドカップは簡単ではないということ。以前であれば60-70%の仕上がり具合でも内容は良くないながらも勝つことができるくらい、強豪国とそれ以外の国とは差があった。
世界的な守備戦術とフィジカルレベルの向上で、ゴールを守ることに徹したらどんな国でもゴールをこじ開けるのは難しい。焦れて攻め急いでミスから失点というパターンはどの国にも起こりうる。
それこそ、日本代表もカタールW杯でドイツ、スペインを破りながら、コスタリカには0-1で負けている。最終的に決勝トーナメント進出できたからよかったが、本来勝ち点を計算していたはずの相手に負けたことが及ぼす影響は小さくはなかった。勝ち点を計算できる試合がそんなにあるわけではないことを、真剣に自覚することが大切だろう。
日本が世界王者を目指すなら、大会を戦いながら、チーム全体を100点へ近づけていくという、この総合運営力を身につけなければならない。そのためには決勝トーナメントを一つでも、二つでも勝つという経験をまず積み重ねることが欠かせない。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。















