世界王者に必要な“0.6”「優勝を勝ち取る」 守備組織だけではない…森保Jに求められる能力

W杯優勝国連載③世界王者に必要な“守備”
アメリカ、カナダ、メキシコの3か国で開催されるワールドカップまであと1か月を切った。8大会連続8度目の出場となる日本代表は、今大会の目標に“W杯優勝”を掲げる。FOOTBALL ZONEでは「W杯優勝国の法則を探る」と題し、これまで優勝経験のある8か国を分析。第3回は守備組織について。(取材・文=中野吉之伴/全6回の3回目)
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ワールドカップ優勝国とは、圧倒的な攻撃力で勝ち上がってきているのだろうか?華やかなスターがいて、ゴールを量産し、相手をねじ伏せる。そんなイメージもあるかもしれない。
だが、実際に歴代王者の戦いを振り返ると、見えてくるのはまったく違う姿だ。近年のW杯優勝国の平均失点は、およそ0.6。つまり1試合に1点も取られていない。世界王者はまず、失点しないチームでなければならない。
サッカー界ではマンチェスター・ユナイテッドの伝説的監督、サー・アレックス・ファーガソンが使ったことで世界中に広まったとされるのが、「攻撃は試合を勝ち取り、守備は優勝を勝ち取る」という言葉。守備は組織的な規律とハードワークで構築できるため、大会を通して安定さを期待することができる。ドイツではプロコーチライセンス指導者講習会にあたるヘネス・バイスバイラーアカデミーなどで、この格言が引用されるようになり、 サッカー界における常識として浸透している。
2010年南アフリカ大会のスペインは象徴的だった。シャビ、イニエスタを中心とした“ティキ・タカ”の華やかさが語られがちだが、優勝までの決勝トーナメント4試合はすべて1-0だ。試合を相手に渡さず、最後に1点を奪って閉じる。
とりわけ準決勝のドイツ戦は分かりやすい。4-0でアルゼンチンを粉砕し、勢いに乗っていたドイツに対し、スペインはボール保持率63%前後でひたすら試合を握り続けた。決勝点はカルレス・プジョルのCKからのヘディングだったが、相手に流れを渡さないために巧みにボールを保持し続け、ドイツに自分たちの試合を一度もさせなかったことが勝因だった。
守備力とは単に引いて耐えることではない。相手に試合の流れを渡さず、自分たちで展開を選べること。そこまで含めて優勝国の守備なのである。
2014年ブラジル大会のドイツは、その点で非常に示唆的だった。大会を象徴するのは準決勝で7-1で開催国を破ったブラジル戦ではなく、むしろ決勝トーナメント1回戦のアルジェリア戦である。下馬評は圧倒的にドイツ優位も、アルジェリアは背後を狙う鋭いカウンターで何度もドイツ守備陣を突破し、決定機を作り出す。しかしドイツはラインを下げず、マヌエル・ノイアーがGKでありながらペナルティーエリア外まで飛び出し、ハイラインの背後を何度も消す戦いを選び、延長戦で2-1で勝ち切った。
この大会のドイツは平均失点0.57、保持率56%前後。押し込まれても引かずに相手の良さを削りながら、自分達の良さを出す局面を狙い続ける極めてバランスのいいチームだった。
苦しい試合で構造を失わないのは、2022年カタール大会のアルゼンチンも同じだ。決勝のフランス戦で前半はロドリゴ・デ・パウル、エンソ・フェルナンデス、アレクシス・マック・アリスターの中盤が回収力と強度でフランスを封じ、2-0と主導権を握る。終盤にエムバペの2発で追いつかれ、延長で再勝ち越し後にまた追いつかれても、アルゼンチンは崩れなかった。
FIFAのコーチフォーラムでアルゼンチン代表監督リオネル・スカローニはこう振り返っている。
「戦術や戦略は重要な材料だ。しかし最も重要なのは、選手たちが互いのためにプレーすることだ。そして一つのシステムや、やり方しか持たないチームでは勝てない」
前線にはリオネル・メッシ、フリアン・アルバレス、アンヘル・ディ・マリアと、最後は前線で決定的な仕事ができる選手がいる。その選手の活かし方を準備して、整理して、修正しながら、展開に合わせて、自分たちで戦い方を選び直せる強さがあった。
もちろん、守備だけでは勝ち切れない。攻撃での構造作りも当然、必要になる。その点で興味深い数字は近年のW杯優勝国は1試合平均約14.6本のシュートを放ち、そのうち約8本がペナルティーエリア内からのシュートだというもの。実に半数以上である。
平均クロス数は約15本前後と、欧州主要リーグの平均20〜25本と比べても少ないことと併せて考えられるのは、単純な放り込みや無理なミドルで終わらず、最後は中央へ侵入し、ゴール前で仕留めているための術をもっているということだ。
W杯は守備ブロックが低いチームが多い。特に、一発勝負の決勝トーナメントはさらにこの傾向が強くなる。ペナルティエリア内の密集度は高くなり、クロス成功率が低くなる。優勝国に得点王がいたのはほとんどなく、近年では2002年のブラジル代表ロナウドただ一人。ただ優勝チームを分析すると、中央でゴールを決める存在がいる一方で、他にも得点源がちゃんといる。
では日本代表はどうか。
守備組織は整ってきている。カタールW杯でも強豪相手に耐える力を示し、前線からのハイリスクなプレスという切り札も見せた。選手の質も確実に上がっている。だが、世界王者の基準と照らし合わせた時に問われるのは、その一つ先である。
決勝トーナメントという局面において、試合展開や相手の対策に応じて、自分たちも戦い方を修正し、順応し、変え返せるかどうかだ。
2018年ロシアW杯のベルギー戦、日本は2-0と理想的な形でリードした。しかしベルギーがマルアン・フェライニ、ナセル・シャドリを投入し、空中戦とサイドの圧力を強めて構造を変えてくると、日本は流れを切り返せず、最後に自分たちのCKからのカウンターで沈んだ。
2022年カタールW杯のクロアチア戦も同じだった。前半は守備から入り先制に成功したが、後半以降クロアチアが中盤でテンポを落ち着かせると、日本は自分たちのリズムに持ち込むことができなかった。延長を含めて流れを変える保持、システム変更、交代策による再設計がうまくいかず、最終的にPK戦で敗れて涙をのんだ。
日本代表も確実に前進している。だが世界王者を目指すなら、守れるかどうかだけでは足りない。カウンターとセットプレーだけでは厳しい。グループリーグと決勝トーナメントは違うのだ。そして今回の北中米W杯では決勝トーナメント1回戦がまだベスト32。これまでよりも1試合多い。
相手に試合を動かされた時、こちらももう一度展開を動かし、返せるか。こちらの切り札に対する対策を相手が持っていた場合、さらにもう一つギアを上げたり、ゲームコントロールに持ち込めるかどうか。
W杯優勝国は、最も派手に攻める国ではない。試合の流れがどう転んでも、勝てる可能性を探り出し、辛抱強く、勇敢に決断し直せる国である。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。















