発表前日は眠れず「5回ぐらい夢を見た」 塩貝健人の覚悟…耳に届いた「移籍は失敗」

W杯メンバーに選出された塩貝健人【写真:徳原隆元】
W杯メンバーに選出された塩貝健人【写真:徳原隆元】

塩貝健人はW杯メンバーに選出された

 日本サッカー協会(JFA)は5月15日、都内で北中米ワールドカップに臨む日本代表メンバー26人を発表した。3月の英国遠征で初めてサムライブルーのユニフォームに袖を通したばかりのヴォルフスブルク所属の21歳FW塩貝健人は、滑り込みでその切符を掴み取った。
(取材・文=林遼平)

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 日本代表発表の前日、塩貝健人はほとんど眠れなかった。

「発表の前はすごく緊張していて3時間ぐらいしか寝れなくて。それも5回ぐらい夢を見てました」

 ハッと目が覚めると、夢の状況が思い浮かんだ。そこでは何度も森保一監督がメンバーを読み上げていた。目が覚めるたびに現実に引き戻され、時間が刻一刻と近づくことを感じた。

「でも、起きた時に思ったのは、全部選ばれる夢だったんです」

 果たして、固唾を飲んで見守った日本代表のメンバー発表。自身の名前が読み上げられ、それはまさに正夢になった。

「もう、めちゃめちゃ嬉しかったですね。嬉しかったというか、あまり実感が湧かなかったというか」

 それが塩貝の率直な第一声だった。W杯最終メンバーへの招集。じわじわと実感が湧いてくる中で、すでに次の言葉が続いた。

「選ばれるだけでは意味ないと思うんで、しっかり活躍して、選ばれた以上に期待に応えなければいけない。優勝というところを全員が掲げていると思うので、それに協力していきたいと思います」

 メンバー発表の翌日である5月16日、ヴォルフスブルクはブンデスリーガ最終節でザンクトパウリとの残留争い直接対決を3-1で制し、16位でシーズンを終えて、入れ替えプレーオフへ向かうことになった。土壇場で首の皮一枚つないだ勝利。塩貝は後半途中から出場し、“クローザー”としてピッチに立った。ゴールを狙うというよりも、前線で起点となったり、守備に奔走することを求められた中、自身のできることを全うした。クリスティアン・エリクセンの浮き球のパスに走り込んだ場面はわずかにタイミングが合わなかったが、「あれはエリクセンのパスが良かったので、あそこに走り込まなければいけない。ああいうところを逃さないようにしていきたい」と悔やみながらも前を向いた。

 激闘の余韻が残る試合後の取材エリア。彼が口にしたのはクラブの話だけではなかった。

 代表に選ばれた事実は喜びとほぼ同時に、静かな責任感を帯びていた。慶應義塾大学在学時に横浜F・マリノスで特別指定選手としてプレーし、2年前にオランダのNECナイメヘンへ移籍。そして今冬、ヴォルフスブルクへ渡った。その一連の決断について、塩貝は「このワールドカップのためだけにそういう決断をしてきた」と明言する。

横浜FMを離れる際に反感を買うことも覚悟していた。海外移籍が“失敗”と見られるリスクも分かっていた。「もし選ばれてなかったら、本当に移籍した意味があったのかなという話でもあるので」。それほどの重さを背負って、ここまで来た。

 W杯を見据えて新天地を求めたが、ヴォルフスブルクでの半年も決して順調ではなかった。冬に加入後、チームは低迷し、監督も交代。出場機会も限られた。そういった状況もあって「こっちで結果を残せていないと、『移籍は失敗だった』といった声も聞こえていた」。

 それでも3月の代表活動でアピールし、先週末のバイエルン戦では途中起用でピッチに立ち、カウンターからDF4人を相手にチャンスを作った。プレーで、その意思を示した。

「バイエルン戦で見せた“本当に選ばれたい”という意思が監督に伝わったのかわからないですけど、このワールドカップに懸ける思いは誰よりも強いと思う。それを示すことができたと思います」

 周囲への反響に触れた際、塩貝は小さい頃からの友人たちが驚いているだろうと語りつつ、「(高校生だった)4年前からここまで来たということに、自分自身が驚いている」と正直な思いを述べた。その言葉には積み重ねてきたことへの手応えと、決断の正しさへの確信が、静かに滲んだ。

 選ばれることへの喜びは本物だ。しかし、塩貝の言葉はすでにその先にあった。

「選ばれるだけでは意味がない。怪我などで選ばれなかった人の分も責任を持ってやらなければいけない。結果を出せなかったらいろいろな批判も買うと思う。そういう意味では本当に結果を残して、みんなから称賛されるようなプレーを見せたいです」

 ただし、今はまだW杯ではない。

「1部に残留することは簡単ではないと思うし、2部のチームは勢いもある。でも、実力は僕たちの方があると思っている。僕の点で勝たせます」

 現地時間5月25日から始まる2部・パーダーボルンとの入れ替えプレーオフ。代表合流前に、まずそこで結果を残す。眠れなかった夜を正夢で終えた男は、次の戦いへと目線を向けた。

(林 遼平 / Ryohei Hayashi)



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林 遼平

はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。

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