W杯で避けるべき空中分解「数多くある」 優勝国に見る共通点…森保Jに必要な”次の一手”

W杯優勝国連載②優勝監督に求められること
アメリカ、カナダ、メキシコの3か国で開催されるワールドカップまであと1か月を切った。8大会連続8度目の出場となる日本代表は、今大会の目標に“W杯優勝”を掲げる。FOOTBALL ZONEでは「W杯優勝国の法則を探る」と題し、これまで優勝経験のある8か国を分析。第2回は優勝監督に焦点を当てる。(取材・文=中野吉之伴/全6回の2回目)
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ワールドカップ優勝国と世界最先端の戦術は常にセットなのだろうか?
どんな大会でも監督の戦術論とシステム、選手構成は必ず注目される。明確なゲームプランとそれを可能にするチーム戦術の浸透は、いうまでもなくベースとなるところ。ただ、歴代のW杯優勝国を振り返ると、世界王者を生んだ監督たちは必ずしも革命的な戦術をもたらす存在ではない。
クラブチームと代表チームはその性質から違う。そしてクラブレベルのリーグ戦とW杯のような短期決戦では準備の仕方も当然異なってくる。彼らに共通して優れた手腕を見せていたのは、チームを一つに束ね、誰を、どこで、どのように起用して勝つかを明確にするマネジメント能力である。
代表はスター選手を並べればうまくいくものではない。ここ最近はその傾向がさらに明確なものになっている。ロナウド、リバウド、ロナウジーニョという“3R”を擁し、2002年日韓大会を制したブラジル代表が最後の成功例と言っていい。それだけが理由ではないが、事実としてブラジルは以後24年間、優勝から遠ざかっている。
2010年のスペインは“ティキ・タカ”の華やかさで語られがちだが、決勝トーナメント4試合はすべて1-0。ビセンテ・デル・ボスケが、難しい試合でも崩れないチームの輪郭を作り上げたのが大きかった。過去のスペインには、バルセロナとレアル・マドリードという二つの世界的なクラブの派閥争いが代表内でも存在していた。
だがデル・ボスケは「バルサの価値観もレアルの価値観も、代表では一つにする」という姿勢を崩さず、「ロッカールームが機能しなければ勝利に近づけない。選手が主役に見えて、実は監督の望むことが遂行される状態が理想」と語っている状態を見事に作り上げたのだ。自尊心を必要以上に刺激せずに同じ方向を向かせる達人といえる。
2018年のフランスだとディディエ・デシャン監督は世界的ストライカーのカリム・ベンゼマを外し、世界を驚かせた。「最も上手い23人」ではなく「最も噛み合う23人」を選び、役割が衝突しない“設計図”を優先した。特に面白いのはブレーズ・マテュイディ。 本来中央MFなのに左に流して、相手SB封じのために走らせ続けた。本人は華やかさを失う役割だが、不満を出させなかった。ここにデシャンの凄さがある。彼は全員を気持ちよくプレーさせる監督ではなく、全員に自分の役割を納得させる監督だ。
2022年のアルゼンチンはどうだろう? 初戦サウジアラビアに敗れた後、リオネル・スカローニが最も恐れたのは戦術の乱れではなく、更衣室の動揺だった。本人も「まだ何も失っていないと伝えた。雰囲気とモチベーションが何より重要だった」とFIFAの技術フォーラムで振り返っている。若手のエンソ・フェルナンデスを抜擢し、フリアン・アルバレスを先発に押し上げながら、控え選手ひとりひとりに「お前が必要だ」と声をかけ続け、チームの一員としての空気感を作り出した。
スカローニ最大の仕事は、史上最高の選手であるリオネル・メッシを中心に据えながら、「メッシが何とかするチーム」ではなく 「全員でメッシを勝たせるチーム」に変えたことだった。
W杯における選手登録は26人だが、優勝国を見れば、実際に中心となって戦うのは多くて15〜16人程度。選手それぞれがチームにおける立ち位置と役割をどれだけ理解して、チームのために貢献できるかがカギとなる。過去の大会を振り返ると、優勝候補と言われながら、我のぶつかり合いでチームとしてのまとまりを作り上げることができないまま、空中分解をしてしまった例も数多くあるのだ。
W杯優勝国に共通するのは選択肢の多さではなく、できるだけ多くの選手を起用することでもない。
オリンピックのホッケーで男女ドイツ代表をともに金メダルへ導いたマルクス・バイスがこう語っていたことがある。
「本当の意味でのチームとは、プレッシャーやストレスに襲われる状況においても、自分たちの共通の目的のために設定されているチームタスクを着実に執行し、その中でそれぞれが自分の力を最大限発揮することができ、他人任せではなく、それぞれが主体的にチームのための責任を担うことをいう」
監督に求められるのはまさにその手腕だといえる。
現在の日本代表も選手層は厚い。欧州主要リーグで戦う選手が増え、個々の能力だけを見れば過去最高水準にあるかもしれない。過去W杯優勝国のメンバーと比べると、まだまだ確かな差はあるものの、鈴木彩艶、佐野海舟、久保建英、上田綺世、堂安律など、日本代表の面々は世界的にも評価は高い。
日本代表はすでに、互いの役割を理解し、一つの目的のために戦えるだけのまとまりを持っている。そして森保監督が、カタールW杯で見せたドイツ戦、スペイン戦の後半は、吹っ切れた前からのハイリスクなプレッシングと素早い縦への仕掛けによって、普段以上に選手の能力を解放して押し込んだ。ただ、それはあくまで一つの切り札である。すでに世界はその手を知り、次は対策を準備してくるだろう。
だからこそ、日本が次に問われるのは、チームとしてのまとまりを土台にしながら、個のリミットを、別の形でも外せる戦い方を準備できるかどうかである。
各ラインに世界トップレベルの軸を持てるようになること、その周囲を世界レベルの補完性をもつ選手が支えられるようになること、そして「選手個々の良さを最大限に引き出し合えるチーム」を描けるようになること。
日本が優勝国へ近づくために必要なのが、まさにそこにあるのかもしれない。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。















