森保J優勝のヒントはドイツ代表? 道筋を示す名手の”言葉”…求められる「この国は違う」

森保J優勝の鍵はドイツ代表?【写真:徳原隆元&アフロ】
森保J優勝の鍵はドイツ代表?【写真:徳原隆元&アフロ】

W杯優勝国連載①「優勝は突然起きない」

 アメリカ、カナダ、メキシコの3か国で開催されるワールドカップまであと1か月を切った。8大会連続8度目の出場となる日本代表は、今大会の目標に“W杯優勝”を掲げる。FOOTBALL ZONEでは「W杯優勝国の法則を探る」と題し、これまで優勝経験のある8か国を分析。全6回の連載で、日本代表の現在地を検証していく。(取材・文=中野吉之伴/全6回の1回目)

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 前回大会カタールW杯で日本はグループリーグでドイツ、スペインという元世界王者を撃破し、世界に大きな衝撃を与えた。さらに3月の親善試合では完全アウェイのイングランド戦でも1-0の勝利を収め、「W杯優勝を目指す」という言葉が少しずつ現実味を帯び始めている。

 実際、日本代表がここ数年で積み上げてきたものは大きい。欧州主要リーグでプレーする選手は当たり前となり、5大リーグ優勝クラブや欧州大会を戦うクラブに所属する選手も珍しくなくなった。世界との差は確実に縮まっている。

 ただ、その一方で冷静に見つめなければならない現実もある。目標に到達するまでは、まだまだ時間と経験は必要なのかもしれない。それはワールドカップ優勝というものは突然起きていないということを、歴史が示しているからだ。

 過去、男子W杯で優勝を経験した国はウルグアイ、イタリア、ブラジル、ドイツ、イングランド、フランス、スペイン、アルゼンチンのわずか8つ。

 特に近年において、無名の挑戦者が一気に頂点に駆け上がった例は存在しない。この30年間で初優勝を飾ったのは、1998年のフランスと2010年のスペインのみだ。

 2010年のスペインは当時世界最強の呼び声高いバルセロナ勢を軸に完成された集団だった。 シャビ、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケツらが共有するプレーモデルは、クラブと代表の垣根を越えて浸透し、そこにレアル・マドリーのイケル・カシージャス、セルヒオ・ラモス、シャビ・アロンソらが融合。すでにその2年前に欧州選手権を制するなど、むしろ満を持しての優勝だったといえる。

 大会前FIFAランキング18位から優勝を果たした98年のフランスは唯一の例外とされるかもしれない。とはいえ、開催国として準備期間が十分だったのが有利に働いた。戦力的にはジネディーヌ・ジダン、ティエリ・アンリ、ディディエ・デシャン、リリアン・テュラムら世界トップクラスの黄金世代が成熟。こちらもその2年前の欧州選手権でベスト4入りを果たしていたことから、無名の挑戦者が世界王者になったわけではないといえるだろう。

 直近2大会を見ても、世界王者は大会前からすでに優勝候補としての空気をまとっていた。そんな世界基準を最も分かりやすく示しているのが、選手たちのクラブレベルでの立ち位置だ。 CLベスト8クラスのクラブで主力を担う選手がチームの中核を占め、さらにCL優勝経験を持つ選手が複数いるケースが非常に多い。

 2014年のドイツは13年に欧州を制したバイエルン勢と決勝進出を果たしたドルトムント勢が骨格となり、2018年のフランスはCL上位クラブの中心選手をそろえ、圧倒的な個の力の集合で頂点に立った。22年のアルゼンチンではメッシのほか、アンヘロ・ディ・マリアがCL優勝経験を持ち、それ以外の選手も欧州強豪クラブで経験を積み上げ続け、どんな強豪相手にも屈しないチーム力を作り上げていた。

 ここが、日本代表がこれから越えなければならない壁でもある。もちろん、日本人選手の地位は一昔前とは比較にならないほど高い。バイエルンやリバプールに所属する選手もいるし、ヨーロッパや国内リーグやカップ戦でタイトルを勝ち取る選手は増え続けている。

 ただ、W杯優勝を狙うためにはもう1つ2つのステップアップが必要なのも、事実である。CLベスト8クラスのカテゴリーに所属するだけではなく、レギュラーとなり、さらには中心選手となる選手が増えてくることが、やはり重要になる。

 もちろん、日本が今すぐ優勝する可能性は0ではない。様々な要素全てががっちりハマったら、頂上まで駆け上がっていく未来だってないわけではない。それを起こせるだけの地力は備わりつつある。カタールで見せた2つの大金星は、日本が世界を驚かせる力を持つ確かな証明だった。

 だが驚かせた後に待っているのは、相手からの警戒であり、対策だ。今大会では日本の良さを引き出させないための戦い方を徹底して挑んでくるはず。W杯優勝に必要なのは、そうした対策さえも凌駕し、世界に「この国は違う」と認識させるほどのワールドクラスの“何か”を手にすることだ。

 ここで思い出されるのが、2014年に優勝したドイツのバスティアン・シュバインシュタイガーの言葉。

「アルゼンチンにはメッシ、ブラジルにはネイマール、オランダにはロッベンがいた。でもドイツはチームとしてワールドクラスだった」

 このメッセージは、日本代表が進むべき現実的な道筋を示しているのではないだろうか。

 日本からいずれメッシ級の天才が現れる可能性を否定したりはしない。だが、現実的に目指すべきは一人の怪物を待つことではない。チーム全体の基準値をさらに引き上げ、チームとしてワールドクラスになることは目指せる。

 そのためには世界中にいる名だたるライバルを相手に、誰もが驚愕するほどのパフォーマンスをコンスタントに発揮し、バイエルンやパリSG、バルセロナやレアルマドリードといったカテゴリーやそれに準ずるクラブで、レギュラーを勝ち取る選手がどれだけでてくるのかがカギになる。

 日本に必要なのは、熱狂の延長線上で夢を見ることではなく、勝つ国になるための現在地を冷静に見極めて、対策を練って、階段飛ばしにではなく、これからも着実に、我慢強く成長し続けることだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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