“敗戦は罪”練習で「揉めたり喧嘩したり」 仲良しでは「勝てない」…鹿島に浸透する文化

鹿島アントラーズのイレブン【写真:徳原隆元】
鹿島アントラーズのイレブン【写真:徳原隆元】

鈴木満氏が語る「競争」と「結束」

 2026年北中米ワールドカップが間近に迫ってきた。日本代表がさらなる高みを目指すために、今、何が必要なのか。鹿島アントラーズの強化責任者として四半世紀以上にわたり現場を指揮し、現在はクラブのフットボールアドバイザーを務める鈴木満氏は、日本サッカー協会の技術委員会強化部副部会長として代表強化の舞台裏も知る。鈴木氏は代表の現場に漂う「世代交代の気配」を敏感に感じ取っている。(取材・文=森 雅史/全5回の5回目)

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「現在の日本代表も、世代交代の時期に来ていると思います。予選を勝ち抜くときに活躍した選手から、負傷者が増えた影響もありますが、新しい選手に変わっている。今回のワールドカップは、下のカテゴリーから上がってきている選手もいて、メンバーもかなり入れ替わるかもしれません。やっぱりワールドカップに出場するための競争は当然必要です。そして、選手間の競争は当然あるにしても、勝つためには結束しなければいけない。いかに競争と結束を両立させられるか。チームが結束して、目標に向かっていかないと勝てないんです」

 対立と協調という、一見矛盾するこの2つの要素を両立させることは、鹿島が30年かけて磨き上げてきたフィロソフィーの根幹でもある。

「鹿島にも個性の強い選手がいますから、やっぱり練習なんかではしょっちゅう揉めたり喧嘩したりという場面があります。だけどそういう競争しながらでも、いざ試合になったら結束しているんですよ。そういう切り替えをうまくやりながらやっていくチームのほうが私は勝つと思います。

 仲良しクラブということだけじゃ絶対勝てない。競争があって、その上で結束があることがチーム力になっていくのだと思いますよ。鹿島のフィロソフィーは『競争と結束。そして鹿島が勝つ』ということでずっとやってきています」

 その「競争と結束」はどこから生まれたのか。鈴木氏の脳裏には、常にジーコの言葉が刻まれている。負けることを「罪」とさえ捉える、勝利への異常なまでの執着心。それはときに、負けたときのショックを長く引きずるという副作用も生むが、それこそが王者の矜持であった。

「ジーコは負けに対する責任の重さの感じ方、罪悪感が、人並み以上なんですよ。負けることはすごく罪深いことであって、裏返せば、それが勝つことへの執着心とか執念になっているんです」

 ジーコは敗戦のあと「なぜ勝たせられなかったのか」という自責の念が強かったと鈴木氏は明かす。「ジーコの負けに対する厳しさは、『自分に矢印を向けろ』というもの」で、その考え方がチーム全体に浸透していったのだ。

「他のチームより、負けるということが、鹿島にとっては重いんですよ。負けること、タイトルを失うこと。それがどういうことか、『お前、ちゃんと身に染みているのか』『心から罪だということを分かっているのか』みたいな教育をずっとされてきていますから」

 また、鹿島は一度海外を経験し、再び鹿島に戻ってプレーしている選手が少なくない。

「やっぱり海外に行って選手が得られるものもあります。鹿島は一回海外に出て、戻ってくる選手を今増やしていますが、そういう選手が海外の厳しさであったり、日本とのいろいろな相違点であったりを、クラブに持ち帰ってくれているということもあります」

日本サッカーの「生き字引」としての役割

 鈴木氏の話のなかには、いたるところに鹿島がなぜ長年強豪でいられるのかという秘密が隠されている。一方で鈴木氏はこんな話も教えてくれた。

「Jリーグ30余年の歴史の中で積み上げてきたことのなかにも、成功した部分とそうではないところがいろいろあります。でも鹿島はずっと上にいることができた。海外を見ても、たとえばマンチェスター・ユナイテッドだったらアレックス・ファーガソン監督の時代はあんなに強かったのに、今は苦しんでいます。

 財政的な面を考えても、クラブの予算としては常に5番手、6番手ぐらいの規模でやってきました。それでもやり方を考えると、強さを維持できるんです。それはやっぱり優勝したからだと思います。山を登っている間は、頂上までどんな道になっていてどれくらいの距離があるか分からない。でも頂上に立って下を見ると、『あんなルートがあった』ともっといい選択ができるようになる。そしてそれを実行するんです」

 鈴木氏はそう言うが、一度頂点に立ってもなかなか続くことができないクラブもある。気付くことができた最適ルートをきちんとたどれることそのものが難しく、そして鈴木氏はその難しい仕事をこなしてきたということだろう。

 鈴木氏は現在、Jリーグの専門委員会である「フットボール委員会」の委員として、3期連続で施策の策定に携わっている。また、日本サッカー協会の技術委員会強化部副部会長も務めていた。古き良き伝統と、最新の海外事例。その両方を知る「生き字引」としての役割を、自ら課しているのである。

「Jリーグも、どういう背景があってこういうルールを作ったり、こういう施策を打ってきたか知っている人が減ってきました。でもそれを知って次につなげた方が絶対にいいものができる。そういう意味で、Jリーグや日本サッカー協会は僕を置いてくれているんです。現場に近いところで、自分が培ってきた経験を次世代につないでいきたい。日本サッカーが世界で本当に戦えるようになるまで、僕にできるお手伝いはまだあると考えています」

「勝つ」ことの本質を、これほどまでに突き詰めてきた人物は他にいない。鈴木氏が語る言葉の重みは、彼が積み上げてきた数多くの勝利という歴史そのものである。2026年、日本代表が新しい景色を見るためのヒントは、すべてこの「自分に矢印を向ける」という、あまりにも厳しく、しかし誠実な哲学のなかに含まれているのかもしれない。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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