J監督の本音「代表に選手を取られるのは困る」 鹿島重鎮が指摘…必要な「落とし所」

鈴木満氏はJFAの強化副部会長も務める
日本サッカー界において、日本代表とJクラブの関係性は、常に避けて通れない議論の的となる。特に主力選手を長期間拘束される招集問題は、現場の指揮官にとって頭の痛い問題である。
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Jリーグの監督の中には「代表に選手を取られるのは困る」と本音を漏らす人物もいる。目の前の勝利を義務付けられたプロの現場ゆえの、極めて切実な声と言える。だが、鹿島アントラーズのフットボールアドバイザーを務める鈴木満氏の視座は、その対立構造の先にある「共存共栄」という大きな円を見据えている。
「日本サッカーを発展させていく、Jリーグを発展させていくためには、やっぱり代表が強いっていうのは、すごく大事なことだと思います。野球でも、前回のWBCで日本が優勝したあと、人気や野球の商品価値がすごく上がったじゃないですか。そういう意味で代表が強いのは日本サッカー界の発展のために欠かせないことだと思います。だから代表チームとクラブの共存共栄は不可欠だと思いますね」
鹿島のフットボールアドバイザーを務める鈴木氏は、日本サッカー協会の技術委員会強化部副部会長として、代表強化の枢要にも携わっている。クラブの強化責任者としてのシビアな現実と、協会側としてのナショナルチーム強化という使命。その両面を知る立場にあるからこそ、調整の難しさを誰よりも痛感してきた。
(取材・文=森雅史/全5回の2回目)
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「代表チームとクラブの調整の難しさというのは、正直あります。代表は日本サッカー界のためにも勝たなければいけないというのはありますし、代表のスタッフも、日本サッカー協会の人間でも、やっぱり勝たないと評価されない。そしてそれはクラブも同じ。勝たないと評価されない。
クラブの人間は、たとえばそのチームの選手が代表で活躍して勝っても、自分のチームが負ければ職がなくなるということが現実にあるわけです。ですから代表が勝ったから手放しで『よかった』とはならないケースだっていっぱいあるんです。そこでどう代表とクラブとの落とし所を作っていくかという作業があります」
かつての招集現場は、現在よりもはるかに過酷な、あるいは理不尽とも言えるものであった。1990年代から2000年代初頭にかけては、現在のような国際Aマッチデー(IW)の概念さえ浸透しておらず、カレンダーに基づかない無理な合宿への拘束が常態化していたのである。
象徴的だったのは1997年だ。フランスW杯最終予選に向けて、集中開催からホーム・アンド・アウェー方式への変更が決定された際、日本サッカー界は「悲願」のためにリーグ戦を止めないまま代表活動を優先させた。結果として鹿島は、セカンドステージの17試合中、11試合ほどを代表選手抜きで戦わざるを得ないという、現代では考えられない異常事態を経験している。
「当時、日本はまだサッカーにおいて発展途上国で、世界に追いついてワールドカップへ出るためには協力してほしいという考え方が通用していました。今はルールを作りながら、お互いがもうできる限り『ウィンウィン』になるような調整が行われます。
IWならばクラブは必ず代表選手を送り出さなければいけない。ただIW以外で重要な大会、価値のある大会に代表を出したいけれども、クラブもゲームがあるということもあります。そんなときお互いに話し合い、たとえば1クラブから招集する人数の制限をしながらやっていきましょうという調整があります。他にも代表の活動期間が終わったら、できる限り速やかにクラブに戻ってもらうようなスケジュールも組んでもらいます」
クラブ側が代表活動を前向きに受け入れるための鍵は、派遣した選手が持ち帰る「付加価値」にある。鈴木氏は、その還元こそが最終的にクラブの利益に直結すると説く。単に選手が不在になることの穴を嘆くのではなく、代表という高い基準での経験が、いかに個の成長を加速させるかという視点である。
「例えば今、鹿島では早川友基が代表チームに招集されていますが、そこでプライドであったり、自信だったり、代表選手としての振る舞いなども経験し、そういう部分を吸収して変わってきています。それに人気という部分もある。代表選手が在籍しているということは集客という面でクラブの経営にも貢献してくれます。やはり大きく影響しますよ。
だから、一時的に代表選手がクラブを離れるけれども、サッカー的な部分での成長も期待できるし、代表という付加価値によってクラブの経営に貢献できるということも考え、出すことのデメリットよりも、それで得られるメリットのほうがはるかに大きいと考えています」
現在、日本代表とクラブとの調整は山本昌邦氏らが中心となり、属人的な感情論を排して「強化部会」という組織体で行う形になっている。それでもなお、現場の取り合いが起きる局面がゼロにはならない。しかし、かつての「発展途上国」ゆえの根性論からは脱却し、柔軟性を持ちながら互いの立場を理解し合う体制は、確実に整いつつあると言えるだろう。
代表の強化は、日本サッカー界全体の価値を底上げするためのエンジンである。一方で、日常の戦いに心血を注ぎ、地域の期待を背負うクラブの論理もまた、無視できない正義である。
この二つの正義が衝突する地点で、いかに合理的な落とし所を見出すか。鈴木氏が進める改革は、過去の混乱を教訓とし、組織として真の「共存共栄」を果たすための、終わりのない調整の記録でもある。その先には、代表が勝つことでJリーグの価値が上がり、Jリーグが発展することで代表がさらに強くなるという、強固な循環が待っているはずである。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。






















