バイエルンでも「指導者に十分お金が回らない」 ハードな収入事情…考えるべき“ビジネスモデル”

欧州の指導者のリアルな待遇とは?(写真はイメージです)【写真:ロイター/アフロ】
欧州の指導者のリアルな待遇とは?(写真はイメージです)【写真:ロイター/アフロ】

ザンクトペルテンで指導者を務めるモラス雅輝氏

「プロの指導者としてやっていきたいです」

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 まっすぐなまなざしで純粋に夢を語る若者が世界中にたくさんいる。夢を見ることは力になる。ただ、指導者という職業は誰にでもなれるものではないし、プロ指導者としてやっていくための立場につくためには、想像以上にハードな道のりを歩まなければならない。(取材・文=中野吉之伴)

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 特に日本の場合は町クラブやJクラブのスクールからスタートが多い中、給料と労働日数時間とのバランスが良くないことが多いため、どんなに奮起して頑張っても30歳までというケースが少なくない。家庭のことを考えるととてもじゃないが続けられないという話はよく聞く。

 ヨーロッパの事情はどうだろう? プロクラブのアカデミーで育成部門のトップ指導者ともなれば、年俸は数千万円から一億円クラスにまでグンと上がる。ただ多くの育成指導者は正規雇用されているわけではなく、月数万から10万円弱での雇用というケースが一般的だ。一方でヨーロッパでは他に仕事をしながら指導を続けられるというルートがある点が大きく違う。

 浦和レッズとヴィッセル神戸でアシスタントコーチを務め、オーストリアを中心に20年以上の指導者歴を持ち、現在オーストリア2部ザンクトペルテンでテクニカルダイレクター、育成ダイレクター、U18監督とさまざまなタスクを兼任しているモラス雅輝氏は、現場について次のように語った。

「その通りだと思います。 ヨーロッパのプロサッカーを支えているのは間違いなく育成現場であり、グラスルーツ。そしてそこで活動されている指導者の方々はプロ契約ではなく、それぞれ仕事を持ってやっています。社会的な構造の中でドイツやオーストリアの場合はフルに仕事をしても、午後の4時や5時に仕事が終わって、その後サッカークラブで活動ができるっていう環境がある職種があるのは大きなメリットですね。僕のアシスタントコーチの一人も、オーストリア大手携帯会社のいいポストにいます。多分日本だと管理職に就いている人が当たり前のように午後四時半に仕事を終えて、毎晩のようにプロクラブのアカデミーに来て、選手たちにサッカーを教えるってことはできないと思うんですね」

 日本だとそれこそ学校の先生がやらなければならないことが多数あり、残業時間が長すぎて、だから部活動の地域移行プロジェクトが動き出してという背景があるが、欧州だと学校の先生は比較的時間の融通が持てる職種として有名だ。それこそ小学校の先生だったら午前中で授業が終わり、午後はまるっと自分の時間ということもある。僕のこれまで関わってきた街クラブでも本職先生で指導者を楽しんでいる人はかなりいたし、育成ダイレクターは進学系学校の先生だったりすることが多かった。いわば教育のスペシャリストが育成指導者としても関われるのだから、補完性はとてもいい。うらやましい話だ。

 今の日本の社会的な構造から考察すると、どうしてもプロ指導者としてやらないと厳しいという事情があるわけだし、そのための運営や経営をプロフェッショナル化する必要があるのも理解できる。ただ、だからといって全てのクラブがプロ化するのは現実的な解決策とはならない。指導者の収入を上げるために、月謝を上げる必要性はあるとはいえ、際限なく上げ続けることはできない。抱える選手からの収入アップに頼るやり方では遅かれ早かれ限界を迎える。

 それこそ行政が部活動の地域移行を推進しようとしていて、その理由を「健康的な生活を営むためにスポーツが担う役割は大きい」「地域におけるコミュニティとして世代を超えた交流がとれる」「ただその役割をこれ以上学校の先生に背負わせるのは難しい」とするのであれば、スポーツクラブ運営に対する補助金制度を抜本的に改変されなければならないのではないか。現時点では外部指導員手当が設けられているが、別次元の予算枠を設けられない限り、誰でもスポーツを楽しめる環境なんてできっこない。

「正直なところ、今のご時世でスポンサーを見つけてどうのこうのも難しいと思います。月謝の金額を上げるって言っても、今の経済的な状況とかいろいろ考えると、『倍にしても払いますよ』という親御さんはいるかもしれませんけれど、全体的に見たらどうしても限界がある。上げたら辞めざるをえない選手の方が多いのであれば、本末転倒になってしまう。これはサッカー界だけの話ではなくて、他のスポーツ含めてスポーツ界全体で考えなくちゃいけない大事なテーマです。グラスルーツの環境整備や無理なく回せる仕組みを作らなければならない。一部の人の頑張りだけでは近い将来ダメになりますよ」

 月収を上げることは、それだけ保護者や選手からの要求高も上がることを意味する。それをなしえるためには、より優れた指導者がより最適な関わりをして、よりプロフェッショナルに取り組むことが求められる。となるとそれだけの人材を探して、採用して育てて、そこにもちゃんとお金を出してってなったら、結局またお金が必要になる。それを実践できる団体がどれだけあるだろう?

 行政からのサポート以外で考えられるのは、サッカークラブとしても、指導者としてもサッカー以外の収入源を増やすことが考えられる。

「確かにそれは考えるべきポイントだと思います。サッカーとは別のところでつながりを作って、ビジネスモデルを作っていくことが求められているのかもしれないです。お金はいくらあっても足りないのが正直なところ。プロクラブのうちでも苦しいところはあるし、それこそ世界的トップクラブのバイエルンでも、アカデミー指導者までには十分なお金が回らない。僕たちだってもっと育成指導者にお金を払いたいんだけど、それができないもどかしさを感じながらやっています。クラブとしては、指導者としての収入だけではなく、他に仕事を見つけてそこで収入を得てくれていることに大きく助けられています。『クラブが』『指導者が』だけではなく、お互いにできるところからいろんな可能性を探っていくのが大事だなと思っています」

 サッカーとの関わり方は本来さまざまだ。サッカー一本で関われる人がいるのは素晴らしいが、それだけがすべてではないはず。いろんなサッカーとの関わり方、生き方ができるようになったら、もっとスポーツ界にもゆとりが生まれるのではないだろうか。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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