いじめは「日本の方が起こりやすい」 飲酒、喫煙…育成年代に求められる「向き合う姿勢」

サッカー界でも不祥事問題が起きている(写真はイメージです)【写真:ロイター】
サッカー界でも不祥事問題が起きている(写真はイメージです)【写真:ロイター】

モラス雅輝氏が近年起こる問題に提言

 近年、日本の高校・大学部活動における不祥事がメディアを賑わすことが増えてきている。飲酒、喫煙、いじめ、そして指導者によるパワハラ問題。なぜこうした問題が起こってしまうのか。当事者同士の問題としてだけでは解決できない構造的な欠陥があるのではないか。スポーツ界としてだけではなく、社会全体として取り組まなければならないテーマであるのは間違いない。

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 浦和レッズとヴィッセル神戸でアシスタントコーチを務め、オーストリアを中心に20年以上の指導者歴を持ち、現在オーストリア2部ザンクトペルテンでテクニカルダイレクター、育成ダイレクター、U-18監督と様々なタスクを兼任しているモラス雅輝と考察してみた。(取材・文=中野吉之伴)

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「まず飲酒や喫煙に関しては、日本とヨーロッパではそもそも法律が違う。ドイツやオーストリアだと16歳を超えればビールは飲める。もちろん選手として上を目指すんであれば食生活には気をつけなければならないし、健康やパフォーマンスを考慮して、正しく向き合って、というアプローチはしますけど、禁止することはできない。

そして16歳で飲酒がオッケーとされるのは、16歳で自身のことに責任を持って取り組むことが社会的なベースにあるからです。

 僕は高校生時代にドイツの高校に通っていたんですが、修学旅行でロンドンに行ったんです。それこそ高校の先生と生徒たちがレストランで一緒にビール飲んだりもしました。その時に先生が言ったのは、『もうみんなは16歳を越えているんだから、自分の行動に対してすべて自分で責任をもたなければならない』、と。もし飲み過ぎて、酔っ払ってトラブルを起こしても、それは先生とか学校の問題ではなくて、生徒個人の問題であり、生徒個人の責任だ、と。

 そのくらい教育的、文化的、法律的なバックグラウンドの大きな違いがあるので、単純比較はできないですよね。日本であればもちろん日本社会に合わせた決断をすることが大切なのはいうまでもありません。日本の法律上いつから許されているかを破ったらそれはアウトでしょう」

 では《アウト》なことに対して「それが個人の問題なのか。組織の問題なのか」「どの《アウト》に対して、どのような罰則や改善策があるべきなのか」は議論の必要性がある。連帯責任という形だけが解決策だと、構造的にいじめにどうしてもつながってしまう。

「いじめの問題は欧州にもあります。ただ日本の方が起こりやすい土壌があるとは思います。連帯責任を取るべきか否かの二択問題でもないテーマです。学校側がどこまで知っていたのか、当事者以外の選手たちはどこまで知っていて、関与していたのかでいろいろと変わってくる。

 例えばですが、プロクラブのアカデミーであるウチでそういったことがあった時にどういうふうに判断をするかというお話をさせていただければと思います。あくまでも一例です。まず関係者を呼んで事実確認をします。いろいろな角度から調査をして、話し合いをして、解決案をみんなで探します。起きたことの内容によりますが、最初はイエローカード。繰り返しだったり、許容できない内容だったらレッドっていうステップバイステップを順番に踏んでいくようにします。

 いわゆる《一発レッド》になるところの線引きを明確にすることは大事ですし、同時に更生のチャンスを考慮することも必要だと思います。無条件の連帯責任という形が欧州で生じるのはあまり聞いたことがありません」

 学校でいじめ問題があったらドイツでは加害者が停学となり、カウンセリングを受け、更生の目処が立てば学校に戻れる。変われなければ退学となる。被害者側が苦しみ続け、転校を余儀なくされるというケースは欧州でもあることはあるが、そうした場合に学校側の対応は社会的に強く批判される。

 それにそもそものところで、そういうことが起こりにくい環境作りに取り掛かることが大事だろう。

「そうなんですよ。構造的いじめができてしまう環境があるから、起こった時にどうしようってなるけど、そもそも起こらないような環境を作っておかないといけないよねっていうところが大事だと思います。

 僕たち指導者の責任、影響力というのは間違いなくある。細かいところで言うと、監督がコーチングスタッフをちゃんとリスペクトしているか、リスペクトある行動を厳格に求めているか。子供たちは監督やコーチの言動を見ているし、そこに影響を受けます。例えばですが監督がコーチやスタッフに対して、リスペクトがない言動を当たり前のようにしていたら、選手たちの中でも、『自分はキャプテンなんだから、1年生に対してはこういうことを許されてもいいでしょう』っていうふうに思ってしまうかもしれない。やっぱり日常的なコミュニケーションの取り方や指導者からのスタンスというのが、最終的にはそのチームのあり方に大きく影響するとは思うんです」

 部活動は教育活動の一環と定義する学校は多いはず。それならば正しい教育的な取り組みが行われていなければならないではないか。残念ながら子供たちの人格や存在を否定するような言葉を平気で口にする指導者がまだ多くいる。何が暴言かもわからずに、言ってはならないことを口にしてしまっていないだろうか?「そんなつもりはなかった」はNGなのだ。

 子供たちの安心と安全と基本的人権に対して真摯に向き合う姿勢があれば、指導者からのハラスメントの問題だって生じない。普段からそこを重視して子供達と取り組んでいたら、いじめに対する対応だって、反応だって変わってくる。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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