トルシエが提言する森保Jの“課題”「批判ではないが」 教科書通りも…3バックは「進化できる」

インタビューに応じたフィリップ・トルシエ氏【写真:荒川祐史】
インタビューに応じたフィリップ・トルシエ氏【写真:荒川祐史】

トルシエ氏はアジア杯で日本代表と対戦

 2002年日韓ワールドカップ(W杯)で日本代表を率いたフィリップ・トルシエ氏が、FOOTBALL ZONEのインタビューに応じた。10月から11月にかけて来日し、森保一監督率いる日本代表の試合を視察。2024年のアジアカップではベトナム代表監督として森保ジャパンと対戦したトルシエ氏は、どう見ていたのか。また日本代表が採用する3バックの“伸びしろ”を語った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部/全4回の3回目)

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 森保ジャパンを慌てさせた。2024年1月にカタールで行われたアジア杯。グループステージの初戦でトルシエ氏率いるベトナムは、森保監督率いる日本と対戦。前半10分に南野拓実に先制ゴールを奪われたが、同15分にコーナーキックから同点とすると、同32分にはフリーキックの流れから一時勝ち越しゴールを奪った。その後、日本に地力の差を見せつけられ、2-4の敗戦となったが、印象的な戦いを見せた。

「日本のセットプレーを研究して弱点があったから、2点を取れたとは思っていない。本当にベトナムとは大きな力の差があったので、ほぼチャンスもなかったと思うんですけれども、組織がしっかりしていて規律よくシステマチックに戦えば、サッカーにはわずかな可能性がある。あの2点はすごくラッキーな部分があった。強くファーポストに蹴れば、リバウンドがあれば、決まる可能性もある。逆に言えば、あの時の日本には集中力がなかった。セットプレーというのはメンタルとフィジカルの戦いであって、最初から覚悟をしないと。セットプレーの日本の弱さは、もっともっと深い心理的な弱さを体現しているのかもしれない」

 セットプレー以外にも、ベトナムの選手たちは日本を恐れることなく、技術を生かした攻撃で日本ゴールを脅かす場面もあった。試合後には久保建英が「どんな練習をしているか見てみたい」と話すなど、組織力の高さが際立った。

「指導者として、私はそんなに相手を徹底的に研究するタイプじゃない。日本代表のことは当時は気にしていなかった。日本代表はものすごく才能がある選手が多くて、アジアで一番強いチームであることを前提に考えていた。日本がポゼッションを持っていたら、私たちは全くボールに触れられないし、疲れる一方になってしまう。私がベトナムの若い選手たちに伝えたのは、自分たちでボールを回す、ポゼッションをする勇気、野望、向上心を持ってほしいと言いました。だからあとはゲームプランとしてボールを持ったら、すぐ前を向いて速攻を仕掛けて少ないタッチでボールを持っていくこと。そうしないと絶対に崩れない。実際には日本代表もヨーロッパの強豪に対して使った戦術で、これは格上のチームに対してよく使う戦術でだと思う。特別なレシピを持っていたわけではないです」

トルシエが分析する森保ジャパンの3バック

 準々決勝で敗退となったアジア杯以降、森保ジャパンは4バックから3バックに変更。トルシエ氏も1998年から4年間日本代表を率いていた際、センターバック(CB)3枚を横並びにする“フラット3”が代名詞だった。

「当時の日本代表には守備の文化が足りなかった。4人で守る方がはるかに難しいんです。DF4人がそれぞれ守備の専門家でないとできない。CB3枚を置くことで、マンツーマンではなくて、ボールのポジションに対して守ることができるから、ある程度のレベルで誰でもできる。それにちょっとした遊び心で、ラインを押し上げたり、下げたりすることによって、特に強豪FWたちが嫌がることをするというアイデアだった」

 DFラインを高く設定し、全体をコンパクトにする戦い方は時代を先取りしていたとも言えるが、今の日本の3バックをどう見ているのか。

「私の当時の3バックのシステムと、今の3バックの意味が根本的に違うと思います。現代サッカーに見られる3バックはビルドアップが目的。要するに守備ではなく、攻撃のためのシステムであって、相手が2トップの場合は3対2の数的優位ができる。これは批判ではないが、今の日本がもっと進化できると思う所がある。3バックの醍醐味は、CBのサイド2人が攻撃参加できるところ。その条件から現代的なシステムと言えるが、今の日本代表は後ろでボールを無難に回し過ぎている。あまり攻撃参加を感じないのが課題と思います」

 トルシエ氏が視察した10月、11月は特にDFラインに負傷者が多かった。今後、伊藤洋輝や町田浩樹、冨安健洋らが戻ってきたら、変わる可能性はあるのだろうか。

「現代サッカーはアタッキングサードにあまりスペースがない。組み立て勝負するのは最終ラインになりつつあるので、3バックの積極的な攻撃参加がないといけない。伊藤選手や町田選手、高井幸大選手らが戻ってくれば、所属クラブでも要求されているはずなので、代表でもできると思います。鈴木淳之介選手や渡辺剛選手が悪いとは思っていないし、教科書通りで丁寧にやっていたが、リスクをまだ冒せていなかった。たぶん重圧を感じていたと思う。現代サッカーはスピーディーな切り替えが一番大事と言われているが、スピードだけでなくて、サッカーIQが高くないと3バックはうまくできない。彼らも頭をフル稼働して、どう貢献できるか。ボールを失ったら誰もいない一番リスクの高いポジションだが、だからこそ余裕、自由がある。そこを活かさないといけない」

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