数々のドラマ生んだ“歪み”「隙を与える」 J1昇格POを徹底分析…注目は「最も勢いあるチーム」

J1昇格プレーオフに注目【写真:徳原隆元&柳瀬心祐&加治屋友輝】
J1昇格プレーオフに注目【写真:徳原隆元&柳瀬心祐&加治屋友輝】

昇格プレーオフは千葉ー大宮、徳島ー磐田

 J2のJ1昇格プレーオフはリーグ戦3位のジェフ千葉、4位の徳島ヴォルティス、5位のジュビロ磐田、そして6位の大宮アルディージャによって争われる。準決勝は3位vs6位、4位vs5位の一発勝負で、90分で同点ならリーグ戦上位のクラブが勝ち上がる。

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 このレギュレーションが、これまでも色々なドラマを生んできた。基本はホーム側が有利だが、引き分けでもOKという心理面の歪みが、相手に付け入る隙を与える危険は多分にある。千葉や徳島はスタートから、そのアドバンテージをあまり意識せずに、普段通りの戦いができるか。そして、いざ終盤に差し掛かった時に、それを有効利用してファイナル進出に繋げたい。選手もそうだが、監督のマネージメントにかかるところが大きい。

 逆に磐田や大宮は開き直って、スタートからアグレッシブに点をとりに行く方法もあるが、浮き足だってバランスを崩してしまうリスクもある。最終節にドラマチックな勝利でプレーオフに滑り込んだ磐田と積極的なハイプレスを強みとする大宮が、自分たちの基本スタイルを見失うことなく、その中でいかに得点チャンスを見出していくか。時間が経つほど、ホーム側が有利になってくる特殊なレギュレーションだけに、積極性と落ち着きのせめぎ合いになってくる。

 フクダ電子アリーナで行われる千葉と大宮の関東対決。リーグ戦は1勝1敗だが、互いにアウェーで勝利している。ただし、大宮が勝利した試合は千葉ホームと言っても国立開催だったことを踏まえる必要がある。千葉はFC今治に5–0で大勝した最終節のように、ホームの一体感を後押しに変えられる。千葉はボールを握って主導権を握りたいチームだけに、その後押しはなおさら力になるだろう。

 大宮は宮沢悠生監督の就任から勢いよく6戦負けなしと盛り返したが、大宮ホームで迎えた徳島との大一番に逆転で敗れ、最終節のアウェー山口戦で連敗を喫した。他会場の結果に助けられた形だが、6位で何とかプレーオフの権利を勝ち取ったこともあり、宮沢監督は改めてチャレンジャーの立場を明言している。試合に勝利しながら、最後に自動昇格を逃した千葉よりも、吹っ切れた心理状態でプレーオフに臨めることは確かだ。

 不安要素があるとすればダイヤモンド型の4-4-2をベースに、徹底してボールを奪いに行く戦術が、相手に対策されてきていること。もう1つは“ダイヤモンドヘッド”としてチャンスメイクとフィニッシュに違いを見せてきた豊川雄太が、山口戦で負傷交代を強いられたことだ。豊川の起用が難しい場合、システムを変えずに杉本健勇など、終盤戦でベンチパワーを発揮してきた選手をスタメンに組み込むのか、あるいはシステムを変更してしまうのか。宮沢監督は決断を迫られる。

 大宮のタレントを考えれば、千葉と同じフラットな4-4-2にし、泉柊椰と津久井匠海の両サイドで攻撃の幅を取るプランなどは想定しやすいが、やはり“レッドブル系”のスタイルを押し出す宮沢監督の生命線は多角的なハイプレスであり、例えば中盤をフラットにした4-4-2だと、そこのディテールがかなり変わってくるのだ。相手に分析されていることも含めて、思い切ったシステム変更のチャンスではあるが、おそらく方向性は変わらないだけに、どういう決断をしていくかは勝負に大きく関わる。

 ホームの千葉はリーグ戦のラスト6試合を4勝2分というハイペースで締めくくったが、結局はV・ファーレン長崎との大一番に敗れたことが、最終順位に響いてしまった。小林慶行監督は試合後、最終節に詰めかけたサポーターもガッカリしたような雰囲気だったことを素直に語っていたが、チーム状態は悪くないだけに、うまくプレーオフに切り替えて臨みたいところだ。

 レギュレーションを考えても、リーグ3位の千葉が最も有利であることは間違いない。上記の通りそれが心理的な歪みにつながらないように、その事実は良い意味で一旦忘れて、リーグ戦と同じく90分で勝ち切るプランを組み立てるべきだ。そこに結果としてアドバンテージが付いて来れば良い。

 千葉は小林監督が攻撃的なスタイルを掲げているが、その中でも3年間で積み上げてきた守備のベースがある。多くのチームは前半より後半の方がオープンになり、失点も増える傾向にあるが、千葉は前半22失点、後半12失点というデータが示す通り、後半になるほどゲーム運びが安定するチームだ。もし同点以上で後半に入れば、千葉がかなり有利だろう。

 千葉の2トップはカルリーニョス・ジュニオと石川大地の“二桁コンビ”が固定されているが、呉屋大翔という切り札を使えるのは大きい。サイドからの仕掛け人である椿直起が今治戦で負傷、もし大宮戦で起用できない場合は痛手だが、経験豊富な杉山直宏もいる。総合力が問われてくるプレーオフで、出番が減少している横山暁之などの奮起も期待したいところだ。

安間監督が就任した磐田は最も勢いがあるチーム

 もうひとつのカードは徳島と磐田。5位の磐田は劇的な3試合を経験しており、最も勢いがあるチームと言っていい。山口戦はラストワンプレーの逆転勝利、山形戦が土壇場での同点弾、鳥栖戦は終盤に一度追い付かれた直後に、リカルド・グラッサの勝ち越し弾という漫画や小説でも、なかなか描けないようなストーリーで、昇格プレーオフに回ったというより、勝ち上がってきた印象が強い。

 安間貴義監督は就任から一貫して「0-0の時間を嫌がらない」チームを掲げ、そして試合終盤の勝負強さを習慣化させた。スタメンにはスタメン、ベンチにはベンチの役割があることを強調しており、彼らはサブではなくゲームチェンジャーなんだという意識を植え付けた指揮官の功績は計り知れない。戦力を見ても、前線のターゲットマンであり、チーム随一のフィニッシャーでもあるマテウス・ペイショットをベンチに置く采配も、対戦相手の脅威になっている。

 そうは言っても、引き分けでは敗退するレギュレーション、安間監督になって7試合で唯一、敗れた相手である徳島に、終盤の強さだけで勝ち切るプランを立てるのは危険だ。もちろんリーグ最少失点の徳島に対して、前半のうちに磐田が失点すれば、ほぼほぼ勝負が決してしまう。そのリスクにも向き合いながら、前半もしくは後半の早い時間帯に、最初の得点を奪うことができるか。徳島は引き分けで勝ち上がれるレギュレーションだけでなく、ホームの雰囲気も味方に付けることができる。最後の最後のリーグ戦のラスト3試合のような幕切れが無いとは言い切れないが、できるだけ終盤までにリードを奪って逆に徳島を焦らせたい。

 徳島はホームの最終節で長崎に引き分けたが、勝っていてもおかしくない内容だった。14得点4アシストのFWルーカス・バルセロスは怪我から復帰した終盤戦の存在感が圧倒的で、後半戦にフィットしてきたトニー・アンデルソンを頂点として、2シャドーを組む3試合連続ゴール中の渡大生とも相性抜群だ。途中から投入されるローレンス・デイビッドは渡とタイプが全く異なるだけに、3バックと3ボランチの守備が定着してきた磐田としても、そこの変化は要注意だ。

 昨年5月にコーチから昇格した増田功作監督は、堅守を構築しながらカウンターの質を高めるチーム作りをしてきた。それが現在、柏レイソルのリカルド・ロドリゲス監督やガンバ大阪のダニエル・ポヤトス監督が構築してきたスタイルに相反する向きもあり、一部で批判も見られた。今シーズンのチームは堅守速攻をベースにしながら、ビルドアップの再構築にも努めたことが、好成績に反映されている。途中、心身両面で中盤を支えてきた永木亮太の負傷離脱で戦慄が走ったが、バトンを受け取るように“ピッチの監督”こと岩尾憲が復帰してきたことも昇格への波を後押しする要因だ。

 磐田が3バックを採用したのは0-4で敗戦した徳島戦から2試合後の長崎戦からだが、安間監督はあの試合がシステム変更に踏み切る転機になったことを認める。就任当初、チームのフィジカル面、特に試合終盤の体力低下に課題を感じていた安間監督が、リスクを承知で選手のフィジカル強化に乗り出し、それが90分で勝ち切るチームを再形成したことも確かだろう。ここで徳島と再戦できることはリベンジのチャンスでもある。ただ、間違いなく言えるのが、徳島は強い。磐田にとってはシーズンを通して、最高難度のミッションが目の前にある。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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