U-21リーグが直面する深刻な問題「難しい」 重鎮が指摘する“最大の難所”「どう解決するか」

鹿島の鈴木満氏が「U-21 Jリーグ」について持論
シーズン移行、ABC契約撤廃、そして「U-21 Jリーグ」の創設。この三本柱こそ、Jリーグが未来に向けて断行する「大改革」の全貌だ。特にU-21 Jリーグは、高卒プロ選手の「受け皿」として、試合経験を積ませる重要な役割を担う。この「セカンドチーム構想」は、本当に機能するのか。鹿島アントラーズのフットボールアドバイザーを務める鈴木満氏は、過去の苦い経験を振り返り、この構想に潜む「最大の難所」を指摘する。(取材・文=森雅史)
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Jリーグの歴史において、セカンドチームの試みは、これが初めてではない。記憶に新しいのは、FC東京、ガンバ大阪、セレッソ大阪がJ3リーグに「U-23チーム」を参戦させた実験だ。確かに、久保建英(レアル・ソシエダ)や堂安律(フランクフルト)らが、早い段階でプロのフィジカルにもまれたという意味では、一定の成果はあった。鈴木氏も、その「競技面」での価値は認めている。
「成長した選手もいるし、ああいう試合の場がある、特にコンペティションにちゃんと参加できるという評価はされています」
しかし、その裏側で、クラブは深刻な問題を抱えていた。鈴木氏は、まず「スタッフの疲弊」を挙げる。
「スタッフが、監督、コーチもそうだけど、広報であったり運営であったりというのが、土曜日にトップの試合をして日曜日にU-23の試合にも行っていたんです。そこが疲弊して大変だったんですよ」
トップチームとセカンドチームの「2正面作戦」は、クラブの運営リソースに想像以上の負荷をかけた。さらに、当の選手たちにも「歪み」が生じていたという。
「選手の中にはJ3に出るよりJ2にレンタルに出してくれという選手もいて。数合わせに取った選手とかもいましたね」
J3という舞台が、必ずしも若手のモチベーションを高めるとは限らなかったのだ。また、「U-21リーグ」と名打ったところで、新たな問題も浮上する。
「ユースの選手でやるチームと、ベンチに入って試合に出れなかったり短い時間しか出られなかったりした選手との試合になる可能性がありますね。本当のサブに出場機会を与えたいというチームがやると、チーム間のレベルに差が出てしまうでしょう」
トップチームの控え選手の調整の場なのか、アカデミーの延長(U-18)なのか。リーグの立ち位置が曖昧になれば、かつてのエリートリーグのように、競技レベルの担保が難しくなる。
だが、鈴木氏が「最も難しい」と断言する課題は、金銭や人的リソースの問題ではなかった。それは、あまりにも単純で、しかし、あまりにも解決困難な問題――「日程調整」だ。1990年代は土曜日にJリーグがあって、日曜日がサテライトリーグと、カレンダーはシンプルだった。だが、今はどうだ。
「1990年代は日程の調整が簡単だったんです。今は、『金J』があって、土曜日、日曜日、ACLに出ると、火水と水木と日程がばらけるんです。その日程調整が難しい」
DAZNの放映権により、Jリーグは金・土・日に分散。ACLに出場すれば、週の真ん中である火・水・木も塞がる。この過密日程の中で、トップチームの選手も帯同させる可能性があるU-21リーグの試合日を、いったいどこに差し込むというのか。
鈴木氏は、世間の議論が「カネ」や「ヒト」に集中する中で、この「トキ(時)」という最大のボトルネックを見落としていると、会議の場でも警鐘を鳴らし続けているという。
「経営的な部分で、人件費がかけられないから難しいという問題があるのですが、実際やっていると、日程調整が難しいんです。それがとても大きな課題だったので、そこをどう解決していくかも注目しなければなりません」
Jリーグは2年連続で最多入場者を更新した
Jリーグ発足から34年目となる来年は半期の特別大会「百年構想リーグ」を経て、いよいよシーズン移行した新シーズンが始まる。大改革が行われるが、Jリーグの「土台」そのものは、かつてないほど強固になっているという。それはファンの変化だ。鈴木氏は「肌感覚が違ってきた」と力強く語った。
「一時は日本代表にばかり人気が集まっていたように見えたけれど、だんだんそれも変わってきていると思っています。やっぱりJリーグを見る人が着実に増えているし。代表戦だったら何でも満員の観客で埋まるというところからは少し変わってきていますよ」
この「肌感覚」を裏付けるように、日本代表にJリーガーが少なくなってきてもJリーグの観客動員数は上がり続けている。鈴木氏の言う「変化」の証左だ。
鈴木氏は、この現象を「ファンの成熟」と表現した。
「サッカーに精通したっていうか、コアなファンがJリーグを見に来てくれています。日本代表はにわかファンが一過性で見ていた時代もありましたが、そういう部分がなくなってきたと思います。みんなの目が肥えてきたというか、クラブに対する応援がベースにあって、その延長で日本代表だという流れになっていると思いますね。日本のサッカーは成熟してきているという感じがありますね」
スター選手が海外に流出しても、Jリーグの観客動員が増加傾向にある。2024年シーズンに続いて、今季もまだシーズンが終わっていない中、Jリーグは最多入場者を更新した。この一見矛盾した現象は、「個」のスターに依存していた時代が終わり、サポーターが「クラブ」という共同体そのものに価値を見出す、成熟した観戦文化が根付き始めたことを示している。
シーズン移行、ABC契約撤廃、U-21 Jリーグ。Jリーグの未来を占う「三本の矢」は、どれもが大きな期待と、重い課題を抱えている。Jリーグ、そして日本サッカー界のさらなる発展へ。鈴木満氏が語った数々の提言は、改革を成功へと導くための、最も重要な「道しるべ」となるはずだ。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。





















